それでもお客様
「おはようございますユーリさん、良い朝ですね。本日もユーリさん、モリガンさんに神のご加護がありますように。――レイジくん。……お話し中のところ、良いですか?」
入り口から入って来たのは、やや長く黒い髪をおさげにして大巫女の服を着た、見た目高校生くらいの子。
亜里須担当のイーストさんで、ふだんは信教全体の経理みたいな仕事をしているバニティちゃん。
コミュ力そのものが巫女服を着たような子である。
……なんでだか亜里須と馬が合うようなんだけど。バニティちゃんの側で会わせてくれてるのかもな。
レイジも、無制限に人を引き寄せる磁石みたいな感じだけれども。
彼女の磁力はもっと大きい。まるでスクラップ場にある自動車をくっつけて持ち上げる電磁石。
それにプラスして、自分からもガンガン人の中に飛び込んでいく。
弟妹達ナンバーⅡにして、作戦参謀でかつ実行部隊統括。
バニティ・イーストと言う女の子は、見た目以上にとんでもないのである。
亜里須はそう言うのを嫌いそうな感じだけれど。
その亜里須でさえ、彼女に関しては楽しそうに一緒に笑ってたりする。
なんなら、コミュ力がスキルになってるの? とか聞きたくなるくらい。
年齢的にはレイジより一つ上、リオより一つ下になるけど、見た目はこの二人よりはもう少し、大人っぽい。
うーむ。アイツ等が二人共、基本的に幼く見えるとは言え、リオやニケより一つ下……。
神職の階級はそこまで高くないが、シブリングスとその麾下の巫女達を事実上仕切って動かすのは彼女。
レイジの方針を受けて、各方面に手を回して指示を出す、シブリングスの頭脳でもある。
実際に戦闘をするのは苦手、と言うことに成っているが。
実はその辺の騎士巫女や魔道巫女ならほぼかなわない。
なんでもできる才女で美人、しかもまだ通常世界なら年齢的には中3。
本人曰く、――レイジくんほどでは無いです。
とのことだったが、比べる対象間違ってるからね。マジで。
レイジだけがある意味、あからさまに飛び抜けてるから。
「お兄様、ちょっとすみません。――バニティ姉さん、何かありましたか?」
「アリスさんが起床されました、今は洗面と、お着替えをなさっておいでです。食堂に直接ご案内して良いものかどうか、聞きに来たんですが」
「アリスさんが起きられた? もうそんな時間ですか。……ポーラ? どうだろう」
「まもなく用意も整う頃合です、ユーリ様方がよろしければ、わたくしどもも食堂へ参りましょう」
それを聞くとレイジは控えめに俺と目を合わせる。
「お兄様? モリガンさんも。……よろしいでしょうか?」
「ん? ……あぁ。良いよ、行こうか」
「では。――カナリィ、ここに居るね? 先行して、お兄様の動線と食堂の安全を確保。食堂で隠密警護の引き継ぎをしたらそこで休憩にして良い。僕らが食堂についたら一緒に食事にしよう。いいかい?」
「……わかりました、レイジ兄様。――カナリィは先行して食堂で皆様方をお待ちしますです」
突然入り口付近に姿を現したカナリィちゃんはそのまま廊下へと消える。
……さっきモリガンとこの辺で喋った気がするんだけど、今までドコに居たの?
俺とモリガンが立ち上がると、レイジとバニティちゃんが前と後ろに。
廊下で控えていた、地味に武装した巫女さん数名もその列に加わる。
結局、朝食を取るだけでもいろんな人が気を回して、手をかけさせてしまう。
王様のお客さん。今の俺達はそうなのである。
かえって気を使って疲れるな、これ……。
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