お姉ちゃんと弟
「……ところで、レイジ?」
「はい? ……ぼく、ですか? お兄様」
部屋の戸口に立っていたレイジは、一つ首をかしげるとこちらに歩いてくる。
それを見て、なにも言わずにポーラちゃんが部屋の入り口へ。
「ニケはどうしてる? 今の時間だと、いつもはおまえと組み手じゃないのか?」
「今日は謁見の間の床の張り込みをするのだそうで。朝、暗いうちから出て行かれました」
「なんか、大工さんとか石工さんの仕事、興味津々で見てたもんな。……もう下地の調整終わったんだ」
細工や加工はもちろん出来ないが、何しろニケは並外れた力持ち。人間トラックであり、人間クレーンなのである。
大きなもの、重たいものを移動する。と言うなら、あれ程向いた人間も居ない。
「一応、お弁当は朝昼二食分。用意して、持って行ってもらいました」
「その辺、キチンと気を回してもらってありがたい限りだよ。……アイツは、――ないならいいや。とか言いかねないからな」
「えぇ、ニケさんの場合。ともすると自分のことは、すぐに後回しになってしまうので」
あっという間に、職人さん達と仲良しになった彼女である。
……人見知りだったはずなんだけどな、アイツ。
まさか、人見知りを忘れるくらいに職人仕事が大好きだった。なんてさ。
職人さん達の側にも、絶対嫌われたくない。という事情はある。
低身長で可愛い上に猫耳チャイナ服ロリ巨乳。
まぁ。……容姿はおいても力持ち。アイツが一人居るだけで作業は何倍も捗るからな。
しかも結構、器用なんだよ。あぁ見えて。
実はわりと大雑把、かつ不器用なのが、家事を習うなかでバレてしまったアテネーとは正反対。……戦闘の時はあれだけ細かくて緻密なのに。
「直接人の役に立ちたいと言う、そこは理解もするんですが。……ニケさんは何ごともやり過ぎるきらいがあると思います。いくらお兄様から許可を頂いたとは言え、侍従としてのお立場だってあるのですから」
ちょっと怒ってる風に見えるな、レイジにしては珍しい。
「一昨日。そんな話をしていたんで、気にしないで気が済むまで手伝って来たら? とは確かに言ったけど。……またしても度が過ぎてる感じ?」
何か始めると止まんなくなっちゃうからな、アイツ。
暴走機関車というなら。あの性格こそ、まさにそうなんだよ。
ニケらしい、と言うなら実にらしい行動なんだけど。
「昨日は床板の加工を手伝っていましたが、今日は加工が終わった順から運んで敷き込むのだそうで。……だいたい、頼む方も頼む方です。一体、ニケさんをなんだと思っているものか」
レイジにしてみれば、強敵である前に大事なお客様の一人なのであって。
だからニケに雑用を頼むこと自体を怒ってるようでもあるが、でも。
ニケ自身はそもそも。獣人村にいた頃は、雑用を頼まれたことさえ無かったはず。
もっとも口調や表情を見る限り、お人好しのお姉ちゃんを心配する弟。みたいに見えなくもない。
最近はもう、そういう感じにしか見えないニケとレイジなのであるが。
誰か絵の描ける人と組んで薄い本、作ろうかな、
「当人がやりたい、って言うんだから飽きるまでほっとこうぜ?」
「しかしですね、ニケさんにだってお立場というものが……」





