ハイスペックな人達
「だいたい。姉御一人だってろくでもないのに、ほぼ同じ能力のヘカテーも居る。……あの女、剣だけなら姉御と拮抗する。どころか正々堂々、正面切っての立ち合いならば剣でも槍でも得物はなんでも、多分姉御より強いぞ」
剣だけならアテネーより強いのか。
ハイアットさんの弟子だから。一応、剣士や騎士道の心得があるんだもんな。
「さらに高位の白魔法使いで魔導の属性反転を使える。――ハイレベルな白魔法を、属性ひっくり返して撃たれたら。……どうだ?」
「……黒魔法よりもよほど、エグいことになりそうだな」
回復魔法で攻撃された場合、どうやって防御するんだ。と言う話である。
とっさにはカウンターの取リ様が無い。
属性反転は有効な防御が取れない効果的な攻撃だが、特殊な条件やスキルがいくつか重ならないと使えない。
彼女、ヘカテーは複雑すぎる生い立ちのせいで、やたらに属性の多いマルチカテゴライザ-。そこは間違い無い。
使えてもおかしくは無い、か。
「使えるヤツをあまり聞かないが、ヘカテーは攻撃魔法でケガを治癒することさえ出来るらしい」
言葉の上では出来そうだけどさ。
そもそもそんな魔導の運用方法は、知らないんだけど。
「スゴく怖くないか? それ。――ホントに治るんだろうな? ケガとか」
大火傷した人をファイヤーランスで滅多突きにして火傷が治る、みたいなことなんだろうか。
……めっちゃ怖いじゃんか、それ!
治るとしても。治される方としてはたまったもんじゃない。
「そこにもってきて、あの抉れ胸だ。蜘蛛女ならではの視野の広さ、暗器の扱いは姉御を凌駕、目の速さと瞬間の判断力はニケちゃんをも越える。魔導も条件付きではあるが、……パワー以外はババァと並ぶ」
なんでなのかはおいといて。
王都に着いたばかりの頃にモリガンが、ルル=リリさんに本気で殺されかけたのは、先日聞いた。その状況を作ったのがメルカさんだとも。
メルカさんをおっぱい呼ばわりして、敵意を隠さないのはその辺に理由がある。
強くて可愛いアラクネーが大好きだという殺人鬼が、獲物に狙うというなら。
まさにモリガンはうってつけ、いの一番に狙われて当然。
あえて、その殺人鬼にモリガンを斡旋する。と言うのもどうかと思うけど。
しかし。モリガンを持ってしても、返り討ちはおろか、逃げることさえ不可能。検知さえ出来なかったと真顔の本人から聞いた。
モリガンに言わせれば。なんとか逃げ切れたのは幸運が重なったのと、もう一つ。
――抉れ胸が想像以上に莫迦だったから。
と言うことになるんだけれど。
要するに暗殺や魔導戦ではなく。
正々堂々、正面からアラクネー同士の“喰い合い”を仕掛けてきた。と、言うことなんだろうな。
このモリガンに対して、基本的な攻撃力は絶対に負けない自信があった。と。
ちょっと考え辛いんだけど。
躁糸の蟲使いの名を知った上で、モリガン相手にそれを仕掛けるというなら。
もう、強さのレベルの桁が違う。
「……つまり」
「さっきも言ったが砦どころか。あの三人全員がその気になったら、二〇〇〇人規模の街だったら、住人ごと物理的に更地にする。となっても半日で終わる。――もっとも」
「うん?」
「あの三人をキチンとまとめる、なんて事が出来るのか。と言う問題があるけどな」
暴れ馬とか暴走機関車とか、騎手や運転士がいないとなれば大変だけど。
「うーん。……でも。そこは以外と、上手く行くのかもしれないぜ?」
「あの三人なら、もはや暴力で言うことを聞かせるしか無いと思うんだが……」
……確かに。キチンと話を聞いてるようで居て、ちゃんと伝わってるかは微妙だよな。あの三人。
「だが、しかしどうだ。メルカ以外でそこまで出鱈目に強いヤツなんか、居るか?」
しかし、その三人の頭を形だけでも押さえる。それが出来る人が実は、居る。
「現地指揮官はアビリィさんだそうだ」
アビリィさんは昨日、中央騎士団団長補佐に色々飛ばして強引に任命された。
彼女、エリザベート・アビリィさんは、白騎士は意地でも襲名しない様子で法王もそこは諦めたらしい。
現在も白騎士団預かりの立場ではあるのだけれど。改めて、ハイアットさんを白騎士に任命する予定だ、とは法王本人から昨日直接聞いた。
つまり法王は、ハイアットさんが抜けて穴の開いた中央騎士団長に、アビリィさんをスライド昇格させるつもりなのである。
中央騎士団でもその人事には誰も文句がないのだそうで、ならばトップ不在だと騎士団が混乱する。と言われれば、アビリィさんの性格なら断れないだろう。
「なるほどリズか。なら十分、力だけで抉れ胸を抑えきれるな」
剣一本で純血のアラクネーを抑えきる? ……アビリィさんもスゴく強そうだ、とは思ってたけど、それ程とは。
「意外にも権威に弱い姉御と、序列には逆らわないヘカテー。……そして抉れ胸に対しても多分、おっぱいが上に従え。と言う指示を出してる。最高の布陣だな。……でも。先日の残党狩り、ねぇ。……本気で何処かの神殿を、物理的に完全に潰そうと言う気なのではあるまいな」





