公国が傾いたら、困るしね Side : AdME Dukedom (Unofficial 3rd force)
「こないだはなんでか、私がすっごく。個人的に嫌われてるのだけはよくわかったけれど。実際はどうだかねー。――それに、アイツだけは気配が違うもの。……ホンモノってヤツ?」
――黒騎士団副長、グロリア・ライトバレイ。
――全職種ランキングで常に30位位内。ってのがウリだけど。
本人のSNSによれば、リアルの試験期間中にログインできない日があって、28位まで落ちたことがあるからそう言ってるだけ。
でも、負け惜しみとか吹いてる、と言う訳では無く。
それが無ければ単純に、累計ランクで10位内に入る強者。
そして中の人はリアル女子高生。
彼女は結構、SNSで身バレギリギリの発言を何回もしてる。
中の人は都内、どころか23区内の公立高校生で間違い無く確定。バレたらどうしよう。とか思わないんだろうか。
だから、おっさんが結構多いゲーム世界ではかなり人気があったし、それはおいても普通に強いし、結構長くゲームをしているので有名プレイヤーに知り合いが多く、さらにはチート級と言って良いコミュ力。
当然、有名人だった。
ラビットビルを追いかけるためだけにアカウント作って、ログインしてた私だって名前を知ってたくらい。
ゲーム上も中の人もあからさまにおかしい。
そんなのが普通なわけがない。アイツは承認欲求の固まり、異常者だ。
「総合トップ30常連なのだったか、またエラいのに嫌われてるな、君も」
「私も、なんで嫌いなのかそこは教えて欲しいんだけど」
ミーヤ・ヴェルメタルは元傭兵の農民。このIDでは戦闘には一切参加したことが無い。
しかも今の姿の私には、知り合いなんか、惣太郎以外なら裕利君と亜里須くらいのはずなんだけど。
「しかし、詳しいんだな。ゲームそのものに興味はなかったのでは?」
「AdMEになってから、特にやり口がえげつない。ってSNSでも毎日、名前出てたし。――こないだ法国王都の東ゲートの件では直接あたったし。……話、したよね?」
あとは喋り方がいかにもテンプレートなジョシコウセイ、って感じで話していると非常に不快だ。と言うのも知ってる。
実はあのタイプ、おっさんには好印象だが同級生にはあまり人気がない。
元の世界では、男に縁がなくておっさん好きだったのかも知れないな。
「やり合ったのは、ごく短時間だったのだよな?」
「アイツがヤバいのは、公王も動いてるの見たらすぐ気がつくよ。……普通の兵士をぶつけない公王の判断は正しいと思う」
お互い色々制約があって、時間切れ引き分け。となったわけだけれど。
裕利君のお付きの子達でも、正面切って当たったらあっさりやられる。
帝国で強いと言えば、三神将に黒騎士、宮廷魔道師長あたりだけれど、ライトバレイ。
アイツは違うベクトルで最強最悪と言って良い。
戦いとなったら、当たり前だが剣と魔法だけを使うわけじゃない、環境、天候、足元の石ころ。口も容姿も全て武器。
さすがハイランカー、この世界での戦い方を良く知ってる。
現状の職業に拘らず、出来ることを出来る順に切れ目無くやってくるタイプ。
アイツの臨機応変さ加減は、ただ事じゃない。
「だからといって、うかつに挺身隊が動いたら、それこそ大騒ぎになりかねないからさ。隊長はもちろん副隊長にも絶対動くなって言ってある」
セレーナを隊長とする私の自由に出来る、たった5人の直轄部隊。女神挺身隊。
全員から、黒騎士団を叩かせろ! と言われたが。
今のところ『お座り! ……待て』と言ってある。
裕利君のパーティには見劣りするだろうけど、破壊力だけなら折り紙付き。
相手があの女だけだと言うなら。叩くだけなら何とかなるだろうけど。
……だけど。
「気を使ってもらって助かる。相手が黒騎士団の副長ともなれば、むやみに叩いてしまうと、政治的に揉める恐れもあるからな。……ただ。何かしてくる、と言うなら。僕の本意ではないけれど、君が出ないと被害が拡大するだけ。押さえることさえできない可能性も否定出来ない」
「まぁ、ねぇ。なんか間違って公国防衛隊の突撃軍団が準備を始めたら、それだけで揉めるだろうし。一応それくらいは私も考えるよ。……それはそれとして、ライトバレイ。アレが相手じゃ、並みの騎士や剣士じゃ瞬殺だし。――多分だけど、公王が直接出ても。それでもまだヤバい」
「ほぉ。それほどなのかい?」
実は公王、ただのおっさんに見えて実戦に出ると鬼強い。
ゲーム世界としてのシステムの使い方も穴も熟知している。
そのうえ魔導も剣も肉弾も、なんでもいけるマルチな戦士。
どうキャラメイクするとそうなる?
公国の最初は、小屋一つ。
女神のバックアップを受けつつ、この人が自分で戦って領土を広げたらしい。
……女神も当初は仕事、してたんだね。
ただ公王は王道系の戦い方を好むので、ライトバレイが相手だと多分。そこで足を取られる。
「それについて、詳しい話は明日聞こう。僕の方でも今日中に情報はまとめておく。明日の朝、少し時間を取ってくれ。――それと。このところ、あの通り。またセレーナが不安定でね、申し訳無いが……」
スイッチが入らなければ優秀で可愛くて、言うこと無いんだけどね……。
「言われなくてもわかってる。……たまに思い出しちゃって、頭の中でエンドレスに再生されちゃうんだって、法国にいた時のこと。――そうなると世の中全部、どうでもよくなっちゃうんだ。……って泣いてたよ、こないだ」
女神教団の教祖は公王なんだけれど、事実上のトップは教団ナンバー2、枢機卿であるセレーナ。
彼女が不安定だと教団だけでなく、女神教を中心にすえた国の枠組みまでもが。不安定で存続さえ危うくなる。
ごく短期間で、セレーナは女神教団全体、つまりは公国中枢を完全に掌握してしまっている。
そこまで優秀なのに自暴自棄だと、さすがに周囲に良くない影響だってでる。
一応、一万人強ではあるが、国民が居るのだ。
さっきのやりとりを見てると不安にもなるが、普段は礼儀正しく優秀で可愛い子。
枢機卿としての振る舞いにも問題はなく、国民からの人気も高い。
大多数の人達は『スイッチ』の入ったあの子を知らない。
……もちろん、知らなくて良いんだけど。
「来週辺りには元に戻ってさらに落ち込む、そう言う流れなんだろうな」
「別に優しくしなくて良いけど。……でもその辺あんま、突っ込んでやんないであげて。当人さえ、どうしようも無いことだから」
いわゆるPTSDとか、そういう事みたいだし。
だったら私も公王も、その辺はどうしようもない。
二人共お医者ではないし、まして彼女はゲームの登場キャラクター。どうして良いかなんて、わかるわけ無い。
「まぁ、な。……とにかく直近は頼むよ。枢機卿があれでは儀式もままならない」
私と話していると大分落ち着くらしいが、なんでなのかはさっぱりだな。
頼りがいのあるお姉ちゃんになんか見えない、って言うのは自分で良く知っている。
「そこは私だって公国が傾いたら、困るしね。……今日、明日くらいは空いてる限り一緒に居てあげる。でも、そのくらいしか出来ないよ?」
……これがご褒美?
私なら要らんな、そんなもん。
「よろしくね。自棄になった人間って、話しをしてもあまり楽しくないもの」
女神教のトップである以上、女神とセレーナがなにがしか話し合うことだってあるわけで。
してみると。彼女が公国に来てまでなお、必要以上に病んでいる原因。
こいつなんじゃ無いのか……?
「煽っておいて偉そうに言うな! ――いくら女神が相手とは言え、さすがにさっきのは、あの子が悪いとは思うけれど……」
あの状態の人間をそれとわかった上で煽る。
――神様ってのはウソで、悪魔なんじゃないのか? あんた。
「でもあんたもさぁ、神様だってんなら多少の心の傷くらい、直してあげたら良いんじゃ無いの?」
「人の精神をイジるのは、それは洗脳と同じだよ。良い事もダメなことも、全部込みで今の人格になっているわけでしょう? 既に種族差別関係で似たようなことはしているけれど、それとは話。ちがうじゃない?」
――こんな時だけ正論でくるか。……この疫病神!!
「何をわかった風に,いけ好かない。――だいたい、自分の一番の部下に嫌われる神様ってどうなのよ?」
「ミーヤが良ければ何とでも、なんて。……うふ、ふふふ」
女神がイヤミに反応して突っ込んでくるが、無視してドアへと向かう。
こいつと喋ってると、マジ頭にくる。
JKで高血圧なんて願い下げ。
「そりゃ、悪魔を崇拝する。なんてのはセレーナの性格では無理があるわよね……!」
「悪魔も神様も大元の概念は一緒なんだからさ。宗教を司る立場なのだし、そこは割切って欲しいなぁ」
結構大きなドアを開ける。
メンテが行き届いてるのか、いつも通り軽く開く。
「公王、部屋に居るから。用事あったら、……呼んでっ!」
――バーンっ!!
私は出来る限り思いっきり、祭壇の間の扉を閉めた。





