むかしむかしのお話(下)
「痛てて……。まさか傭兵団の連中と別れるのを待ってから襲撃とは……。JJぇ! ヴァナディいス! 無事かあっ!?」
焼け野原になった平原。他にはなにもない。
「おう、生きてるぞ! 貴様も無事なのだな!? ――助かりました、ヴァナディス。体の様子は?」
「儂には、燃やすほかに能がないでな。……さすがはJJよ。呪いのかかった身体であるこの儂のみならず、服までをも。この短時間で完全再生するか」
「あなたの呪いは成長だけだろう。……あと、なんだ。服は、言うほどのことはない。女性の服など知らんのでカタチだけです。早いうちにお着替えを。……いずれ、あなたが女性で、私もアイツも男ですから。服を着ていないのは少々困る」
「童の裸が見えたとて、うぬらがなにに困るものかよ。胸も尻も。男の目を引くものなど、なにもついておらぬわ」
実際の年齢はともかく。
当時のヴァナディス自身は第二次性徴前の見た目なのである。
「そう言えば。逆にうぬらに有って、儂についておらぬものはあったな。はっはは……」
「年はババァなんだろうが、その見た目でそう言う話すんな、莫迦っ!」
ラビットビルとしての俺は二〇前後、JJは二〇代後半。
一方、ヴァナディスの見た目は金髪碧眼の小柄な小学校高学年くらいの少女。
かわいく、愛らしい見た目であるのは間違いがない。
だが。それ以上のことをなにか思うと言うなら、……色々問題。あるだろうな。
「そこが気になると? 別に見たい、と言うなら減るものでも無し、見せるだけならいくらでも見せようが。――うぬら、話に聞くロリコン。と言うヤツであるのかや?」
「誰がロリコンだ、誰がっ! 俺は成長した女のおっぱいが好きなんだよ! お前にはねぇだろ、おっぱい!!」
そう、そんなことを言ってたはず。
お姉さん属性のおっぱい星人……って。
多分この辺の台詞が、現状の属性にすごく影響してる気がする。
こんなところまで、“設定”に引っ張られてる!?
「それにそもそも、なんでお前がそんな言葉を知ってんだよ!」
「なるほど、それは貴様の世界の言葉であるか。言葉の意味するところはなんとなく察するが、断じて私は違うぞ……」
「そう否定されると、それはそれで面白くないのぉ。だがまぁ、それはそれとして。――JJ。これほどの力があるならば、礼拝監理部の監督どころか神官総長にさえなれようものを」
金に輝く髪をゆらしてヴァナディスが振り返る。
「ラビットビルよ、何故この莫迦は立場を捨てた? 莫迦だから。と言うのはうぬに言われずとも、それはもとより知っておるが」
「法国のしていることは、必ずしも全て正しいことだけじゃない。法国の上層部ってのはもちろん信教の高位神職だろ? 政治と宗教を二つ並べたら、当然どこかで矛盾する、お前は頭が良いからその辺の説明は要らんよな? 現状は特にその解離は非道い」
「私腹を肥やす神官に、国よりも自身を優先する貴族。……は。正義感、などと。そのようなことで約束された生活を投げ出し、うぬや儂のようなはぐれものと一緒にいるだと? そうなら、まさに莫迦の証左ではないか」
「俺をお前らと一緒にするな、別にはぐれてねぇわ! ――それこそ、JJはお前の言う通り莫迦の付く正直者。――みてたらわかるだろ? 我慢がならなかった、なんて。さ」
「なれば尚のこと、むしろ為政者としては相応しいではないか。――今更の話だがJJよ、うぬは全力でエラくなるべきであったぞ? 戦も止まり国も良くなったであろうものを、つくづく、どこまでも莫迦なのであるな……」
「私とて、まがりなりにも大神殿の神官を務めたもの、そこは当然にわかっているが。……あの無数の魑魅魍魎が跳梁跋扈する大神殿の中を、たった一人で変えろとでも言うおつもりか?」
「考えを伝え広め、仲間を募り増やして、組織へ全体へと、静かに徐々に浸透する。そう言う手だってあるであろうよ。それなりの時間はかかろうがな」
「あぁ、そう言うのはムリだぜ、ムリムリ。知ってるだろ? このおっさん、見た目のわりには短気だし、ごく簡単にブチ切れるから。――法王に啖呵切って、ケープ床に叩き付けた上で中央大神殿から出て来たんだぜ?」
「短気であるのを否定はせんが、教皇様にそこまでの失礼はしていないぞ。……そうだな、なにが正しいか、なにをなすべきか。私は未だ答えにはたどりつかんし、その姿さえもみえん。――確かに言われる通りに、私は大莫迦なのだろうが、だからこそ。お前達とこの道を歩くことで、何かが見える気がするのだ……」
「フレイヤ様が仰った通り、か。……その名で呼ばれるのは何時ぶりであろうか。――だいぶ見た目は違えたが、本当に貴様はラビットビルなのだな?」
……話し方が知っているJJになった。マジか!
「信じねぇならそれで良い、――いずれお前が救世主として召喚したのがこの俺、ユーリ・ウトー、そしてこのアリス・カバフジってわけだ。……まさか法王がJJとはびっくりだぜ!」
みんなが口々に、『今の法王様になってから、国が良くなった、暮らしやすくなった』とは言っていた。
――なれば為政者としてはむしろ相応しいのではないか。
かつてのフレイヤ、当時のヴァナディスが言って居たことは正しかったわけだ。
「……驚いたのはこちらも同じであるぞ」
「あれだけ好き放題やっておいて、神職どころか中央に戻れるとは恐れ入ったよ」
「前猊下御退位の折、恩赦を頂いた。どころか、教皇の指名まで、な」
「お前くらい神職に向いているヤツもそう居ねぇよ。良かったな、おっさん」
漫画で書かれたのは、俺が現実界に帰るまで。
ヴァナディスやJJがその後どうなったのか、当然公式には誰も知らない。
……きっと、作者の人もそこまでは考えて無かっただろうな。
「ところで。……リオに聞いてるな? 法王に、あんたに会うためにここまで来たんだ。――教えろ、俺達はなにをすれば良い?」
「今、ここで。と言うのは多少無理があるだろう、場所と時を変えよう。一時、休んでくれ。……もちろんリオに聞くまでもなく貴様の為人は知っている。“仲間”を帯同することは構わぬよ。リオとフレイヤ様も同席するが構わんな?」





