残る理由
「……タチの悪い侍従だという自覚はあります」
「……姉さん」
少し離れたところには亜里須と、その隣に姿勢良く立つアビリィさん。
「アリィ様をないがしろにしようなどとは、本当に思っておりません。……ですが」
――ありがとうございます。亜里須が拾って畳んだローブと上着を差し出すと、恭しく受け取る。
「……中央大神殿に、残る。の?」
「法王様より諭されました。……気持ちはわかるが、お前ではユーリ様達にはまるで付いていけない。自分よりも数段強いものをどうやって護るつもりか、と」
そんなことで説得ができる、と言うのも良くわからないな。
多分単純な剣の腕ならスクワルタトゥレにも匹敵する、さらには回復系の魔導も使える。
誰を護るとしたって、護衛というなら。この人以上の人選なんか本当は無い。
アテネーやニケと違って自己評価が無意味に低い、と言うことでも無いはず。
むしろいつだって冷静に、的確で相対的な評価を自分に対しても下せる。
この人は真面目で頭が良くて、なのに基本は脳筋思考。だからこそ、その辺は間違いない。
相手の強さも、戦況も。乱戦の中だろうが、冷静に判断出来るはず。
そう言う意味では誰より役に立つはずだ。
『姉さん。中央に残ることに関しては、私が何かを言うところでは無いのだけれど。けれども、法王様が要請した白騎士では無い。と言うのがどう言うことなのか、私には、もう一つ理解が及ばないのですが』
「アリィ様とユーリ様のお二人。救世主様は法国も帝国も無く、この世界全てをお救い下さる。そう言うお方なのでありましょう?」
「……んーと、え……? どう、なの?」
「いや、俺にフラれても……」
ホントになぁ。どうなんだろ、その辺。
「お二人がお救い下さるはずの世界のカタチ、これを守るものが必要だ。と法王様は仰いました。……わたしには、この考え方はむしろ腑に落ちた。アリィ様のお救い下さる世界を守る、私はこれにあたるべきなのではないかと」
「……でも、白騎士。じゃ無い……?」
「その銘に相応しい方が今まで頭を押さえられておられた。くびきを解かれたなら、収まるべきところに収まるのが良いでしょう。――なにより有事の際、アリィ様の要請があればそれを最優先にして良い。とお約束も頂きました」
「なるほど。相応しい人、ね。――そんな約束をあっさりできそうな人、俺は知ってる。亜里須も知ってるだろ?」
「ユーリ様?」
「ハイアットさんが白騎士になるのを、さっきの爺ぃ達が阻止してたんだろ? でも、俺なんかにはアビリィさんだって。十分に相応しい人に見えるけどね」
最もハイアットさんは現在でも白騎士団を仮に指揮する立場、となっているわけで。
鎧とマントの色以外は、何も変わらないんだけどね。
「白騎士の称号を持つというなら、そのものはまさに聖騎士の頂点。実際にどう乞われようが、そればかりはさすがにお断りするつもりでした」
アビリィさんと目が合う。
騎士巫女、としたって基本は巫女なので、リオと同じ服装なんだよなこの人。
だから、アスリート体型で腹筋とか割れちゃってる。そう言うのが直接見えるような服装なわけで。実はおっぱいだってチュニックから零れそう。
……俺。お姉さん属性、あるかなぁ。やっぱり。
「……ただ、私如きが巫女の真似事をしつづけるのも無理がある。中央騎士団にて、まずはあるべき騎士の立ち居振る舞い。というものを教えて頂くつもりではありました」
「そのままで十分でしょ、アビリィさんだったら。白騎士団にいきなり入っても、誰も文句、言わないんでは?」
「私もそう言ったのですがね、ご存じかどうか。彼女は特例。などと言うことは嫌うのですよ……」
――知ってはいたが、なかなかに強情なのですよ。やたら良いおっさんの声。
「こちらから呼び立てておきながら、顔を合わせる前から何度も騒ぎに巻き込んでしまい、まこと申し訳ない限り。さらに挨拶が遅くなってしまったこと、重ねてお詫びを申し上げる次第。――私が法王、フェリシニア三世であります、救世主よ」





