表と裏
「普請の監督を呼べ! どこに補強がいるか、現場を見せて指示を出させろぃ!」
「頭領、左の梁もやべぇ、石を切り出してる暇ねぇぜ!」
「かまわねぇ、斜めで良いからおめぇの頭の上ンとこにつっかい棒入れろ、そこの重量さえ分散すれば当分は崩れねぇ。こまいところは監督が来てからだぃ!」
「へい! ――すぐに丸太三本追加だ、長げぇまんま持ってこい! あと短いのも五本!」
謁見の間を出ていったフレイヤと入れ替わるように、建築の専門家チームが到着する。
「よ。モリガン、ご苦労さん。毎度助かるよ」
「マイスターに言われるほどのことはしていない。どうせ、応急処置だしな。私は多少知識があるだけで建築は素人。専門家がいるなら任せるのが当然だ」
その辺、あっさりしてるのがモリガンだよな。
俺と亜里須。そしてなにより自分が潰れるのは困る、痛そうだから。
真面目にそれくらいにしか思ってないんだからな。
「ぼくはいったい、何をしに来たんでしょうね……」
レイジとニケが話をしている。
「そんなことないよ、すごくカッコ良かったよ。――それに僕を助けてくれたし」
「もちろん、助けるつもりはありましたが。壁に埋まってるなんて言うのは、明らかに想定外です」
「えへへ、ごめんね。……レイジくんでないと僕なんか、無視されて助けてもらえなかったよ」
そう言うと、ニケはお尻を気にしてポンポンと埃をはたく。
尻から石の壁にめり込んだんだったよな。……なんで普通に雑談してんだよ。
「戦力としてのニケさんが必要でしたからね。……ぼくだけなら、ですが」
そう言うとレイジは、――すぅ。と音もなく歩いてくる上級神職の服を見る。
「キミだけでは明らかに戦力不足、だからモリガン達を戦力として繰り入れる。計算はそれでも甘いが、あのジジィども相手に退かないとするなら最善、だろうさ。――見境を無くしていたわりに、今回。判断は的確だったじゃないか」
いつの間にかレイジの前にはルル=リリさん。
気配ってものを、まるで感じないなこの人。
「……相手に言動で陽動をかけて時間を稼ぎつつ、発動の瞬間を見切らせない魔導減衰フィールド、獣人の少女を助けつつ、モリガン達まで自分の戦略に組み込み、さらには全員の位置の調整までやってのける。……今回やったこと全て。全般的に及第点。ただ正面からぶつかる前にもう二つ三つ、やれることがあった。気が付いて居るね? ……感情的になるのは悪い癖だ、長生きしたけりゃ直しとくんだね」
――まぁ、そこそこアドリブが効くようになったじゃあ無いか。そう言ってルル=リリさんはレイジに綺麗な顔を向けて微笑む。
「……ルル様」
「あぁ、その。あの、さ。抉れ胸。……えーと、ルル=リ、リ?」
「済まないな、モリガン。キミの前にはもう姿を現さないつもりだったのだが」
単純に仲が良い、というわけでも無さそうだな。
法国お抱えの最強暗殺者とフリーではトップクラスの情報屋。……どういう知り合いなんだろう、この二人。
「いや、素直に助かった。あんたの言う通り、あのままじゃちょっと手数が足りなかった。あの姉御さえもそう言ってたから間違い無いんだろう。……その。ありがとう」
「ふふ……。キミから謝辞を聞くことができるとは。今後良いことがなさそうで恐いよ。――かの暗闇の娘と、こうして会うことも出来た。敵同士で無く、ね」
――“現場”で出合っては、あたしなぞは話をする間もなく、殺されてしまったろうさ。口元に実に楽しそうな笑みが浮かぶが。
……なんでこの世界の美人はみんな、微笑んだだけで恐いんだよ!
雑誌のグラビアを見てドキドキして、もしくはまぁ男の子ではあるのでムラムラ。モヤモヤして寝れない。と言うことは。正直たまには有る。
――いいじゃん、あったって!
でも笑顔が頭に焼き付いて、恐ろしくて寝付けない。
なんてグラビアは見たこと無いぞ!!





