フェリシニア信教教皇
「ちょっと、なにこれっ!? ――ユーリ! アリス! みんなっ! どこに居るのっ!!」
「俺達なら大丈夫だ。……落ち着けリオ、全員無事だよ」
大きな椅子のある一段高い場所。
リオが入ってくるなり、部屋の様子を見てあっけにとられる。
後ろには中央騎士団長と白騎士が二人、神官総長も神官を二人引き連れ。
その後ろ。いかにもな白く長いローブを纏い背の高い帽子を被った、一番後ろの男性。アレが法王?
リオが壇を飛び降りてくる。
「ユーリっ! なにがどうなったの、これ!?」
「まだ熱いとこ有るから気をつけろよ? ――フレイヤが、力加減をその。ちょっと間違っただけだ」
「えーと。……これってちょっと、……なの?」
「ニケちゃん、リズ。そこは重量がかかっていない、取れないなら割ってしまって良い。……姉御とヘカテー、レイジくんはもう暫くそこを支えててくれ。――ルル=リリ。その先、乗っかったら床が抜けるぞ! 忠告はした、あとは知らんからな!」
何故だか建築にやたらに造詣が深いモリガンの指示で、溶けて焼け焦げた部屋の応急処置は順当に進んでいる。
「アテネーさん達は、なにしてるの? アレ」
「ちょっと規模の大きな模様替え、みたいなこと。……かな?」
「絶対違うよね?」
テイマーは物知り。の設定、万能過ぎなんじゃねぇの?
駆けつけた神職や魔道士達も続々とモリガンの指揮下に入る。
まぁ助かってるから文句も言えないんだけど。
「……ちょっと待ちなさいっ! なんでレイジまで居るの!?」
「え? ……り、リオ姉様っ!? いや、これは。そのぉ」
「ジジィの歩みにしては、思うたより早かったな。法王」
「年寄りであろうと、男は人前に出る為の準備、時間はそうかからないものですよ」
あれが法王か。
やっと、会えたな。
フレイヤはジジィ扱いしているが、40後半ってとこかな。
この世界の基準なら五〇台後半でもう寿命。確かにジジィだろうけれど。
「しかしまた、ずいぶんと派手にやりましたな。……フレイヤ様、修繕の費用は給料から天引きしておきますよ」
その男性が口を開くと、意外にも大きく響く良い声だった。
「主計局の仕事を増やさんでも良い、壊した以上、費用は当然払うわ……!」
そう言うと、フレイヤは自分の人差し指から指輪を抜き取って、横を向いたまま法王へと投げる。
「修繕してのち、釣りがこようぞ」
思わず受け取った法王は、当惑の表情を浮かべる。
「釣りの方が高額になりそうですが」
「代々フロイデンベルグの家に伝わりし、伝説の道具職人が手になる魔導指輪の逸品なるぞ。予算が余るなら、中央大神殿自体を建て替えてみるのはどうか?」
「主計局の仕事がかえって増える気がしますが。――本当によろしいのですか?」
「引き継ぐ子孫もない上、フロイデンベルグの亡霊も今ほど、その名と共に消えた。もはや所有権のあるものは無い。………それにな」
――たかが神殿一個分の魔力なぞ、儂にはそもそも不要。そう言ってフレイヤは、ここで初めて法王の方を見る。
「それが儂のせめてもの謝罪だ。大人、であるからの。…ここまで迷惑ばかりかけたな。済まなかった。――その、ごめんなさい」
「……フレイヤ様」
「……だからとて、処分を免れようという気ではないぞ。罪には罰が必要、下に示しが付かん。――法王、うぬの沙汰にはなんであろうと従う。死ねと言わるれば死ぬる所存だ。そこは機械的に判断を下せ。良いな?」
「そこはご心配には及びません。……当然に中央魔導団長は解任、エッシェンバッハ家に下賜した子爵の位は剥奪、その他の詳細は後ほど。……神官総長?」
「はい……!」
神官総長と中央騎士団長、そして二人の部下の人達が壇から飛び降り、フレイヤの前へと歩いて行く。
「あなたの神官資格は私の権限によりこの場にて剥奪、大神殿観察院総監督についても現時を持って解任します。――その上で、フレイヤ・デ・ラ・エッシェンバッハ。あなたには、中央大神殿内部に騒乱を招来した疑いがあります。ついてはこれより暫時。沙汰のあるまで自室にて謹慎することを、教皇様の名において命じます」





