復讐の炎
燃えさかる炎の、その中心。横たわった神官とその横に立つフレイヤ。
レジストしたのは神官の体。燃えて死なないように、であったらしい。
「うご、ぐあぁああ!!」
「少女の身体ではあるが、はっはは……。忘れておったよ。――儂には魔導があったわ」
フレイヤは、ごく自然に右足を神官の頭の上へ。
――筋力増強!
「お、おい、私を殺しては真相の……」
「そも、真相など。この儂に興味があるとでも? そう言う時代であったのだ。いくら儂が阿呆であるとて、時代と喧嘩をする気は無い。――殺したものを殺すのみ。その家族にも興味はない。関係した者二三七名は全て、この手で調べ上げ始末した、うぬで最後よ」
――話など誰からも聞いていない。もちろんうぬからも、一言すら聞くつもりは毛頭無い。安心せよ。フレイヤの身体からどす黒い炎が吹き上がる。
「故に……。薄汚い口を開くな、臭い息を吐くな、気持ちの悪い舌を見せるな!」
フレイヤは、右足で神官の頭を踏みつけた。
「決闘だと言ったはずだ、生きるか死ぬかの二択。うぬの話など不要。……はっ、抵抗さえせぬかや? ――いずれこれで終いだ。ここまで実に長かった。……うぬより上位の神官でもある儂が今。ここに宣言してやろう。うぬは死んでからのちも、神の御許へはたどり着けぬ。永遠に、だ」
――まずはこの世界より消え失せよっ……!
呟くような、それでいて通る声が聞こえた次の瞬間。――ゴキン、グシャ! 耳に残る嫌な音を立てて、フレイヤの足が地面に着く。
「こんな穢れた死骸なぞ、この世に残してなるものかっ! 断罪の炎っ!!」
足元から、さらに紅蓮の炎が吹き上がってフレイヤの姿は見えなくなり、部屋の床や壁が熱せられ、徐々に赤くなっていく。
「……う、熱っう!!」
「あっちぃ! アリス、魔導の火だから顔を扇子の前に! 僕は良いから!!」
「バカな! 余波だけだというのに、バッファし切れんだと? 有り得ん!?」
「お兄様、まるでレジスト出来ません! もはや桁違いなんて話では……!!」
「ヘカテー! 状況維持はあたしがやる! キミはほころんだフィールドのレストアのことだけ考えなっ!! 気を抜けばリズがまる焦げになるよっ!!」
あの飄々としたルル=リリさんも、苦しそうな表情でひざをついた。
「15cmに増やした水膜が一瞬で跡形も無く……。炎の魔導圧が高すぎてもはや水に還元出来な……。マイスター! 火が消えないと、建物が、柱と床がっ!!」
「モリガンどうした、何がどうなってんだ!?」
「まだごくわずか。マイスターには見えんだろうが、床の真ん中が落ち込み始めた、柱も梁も、形が狂い始めてる」
こいつの場合、目が良い。は、なにも遠くが見える、と言うことだけじゃ無い。
近くも見えるし、状況の些細な差違にも気が付く。
「マジかよ! 全部石だろっ!?」
「火の魔導としては熱量が文字通りに桁違い、異常なんだ! 熱の魔導だとしても! 一撃で石の柱を溶かすなんてのは普通、できないっ!!」
相手が上級魔道師とは言え、一人倒すだけにはあまりに火力がありすぎる。
「いくらなんでもやり過ぎだろっ!!」
「それを私に言われてもだな……」





