規格外の戦い (に巻き込まれた人達)
「さて、どうするか……」
フレイヤが、微笑みを消して一歩を踏み出す。
それを見たルル=リリさんは。
「リズ! どうして逃げなかった!? もう遅い、ヘカテーも来いっ!」
顔色を変えて、アビリィさんを庇う位置に入った。
あの戦い慣れた風な人がそう言う動きをする? ……ヤバいってことだろ、絶対!
――あぶないぞ、とか逃げろ、とか。そう言うの、なんか言ってよ!!
モリガンの友達じゃ無かったの!?
……とにかく。ヤバそう、と言うことだけは確定だ。
「亜里須じゃ変身の必要がある上、発動にはさらに時間がかかる! ――モリガン! なんか火除けのフィールドを張れるか!?」
「姉御のダークバッファドームなら事実上、効果は同じだと思うがどうした?」
そう言えば、モリガンはあのフレイムピラーをみていないのか。
だからフレイヤが魔導を放つ、となっても平気でいられるんだな……。
だいたい。いくら広いとは言え。部屋の中で炎魔法がぶつかるのがわかってて、生身でなんか居られるか! 冗談じゃ無い!!
「アテネー、大至急頼むっ! レイジっ、規格外の連中は良い! スミになりたくなければこっち来い! お前もなんか行けるかっ!?」
「効果は保証できかねますが、炎だと言うなら抵抗障壁が張れます!」
「アテネーの張ったドームの内側に展開! 見境無しでフレイヤが撃つ本気の魔導じゃ、それでもヤバい! なんでも良い、モリガンもなんかやれ!!」
「水風船くらいしか使えるものが無いし、子供相手に誤魔化す為に覚えたヤツだから、薄く膜を張るくらいがせいぜいで、その……」
「なんでも良いからやれ!! 魔導で丸焼きなんて洒落にならないだろ!」
「確かに丸焼きになっても、私じゃおいしく無さそうだ。死んでからまで残念呼ばわりされるのは、それはさすがに……」
「いいから早くやれっての!! ――ニケっ!」
「え……? あ、はいっ!」
「何も無いよりマシだ! 扇開いて構えろ!!」
「えぇえ? ……えっと、あの。どっちにっ!?」
「俺が知るかっ!!」
「神職のなりのまま。我が子達を蹴り殺し、焼き潰してくれたは。今でも鮮明に覚えてあるぞ……。ただで死ねるなぞと思うてくれるなよ?」
「もう一度殺すのみ、今度こそ骨の髄まで焼き潰してくれる……! 猛り狂う業火!」
対人戦闘用では最高の威力を誇る、ブレイズ系の最上級、ランペイジ・ブレイズをこんなに簡単に発動する!?
ブレイズの上となれば、あとは石造りの建物さえ直接燃やすヴァーンと、陣地ごと吹き飛ばすエクスプロゥズしかないが、それはそれこそ発動に複数人の魔導力と、呪文詠唱が必要なレベル。
ブレイズ系は個人での炎の魔導としては最強と言って良い。
つーか、いくら広いとは言え。……建物の中で使うなっ!!
とんでもない炎がフレイヤを包み込み、ジジィ神官の隣に居た女性の神官が一人、煽りを食って前触れ無しに燃え上がる。
「うわ、っちい……!?」
「アチアチ!」
「屋内でブレイズを使うとは! 主殿、フィールドはそう長く持たないぞっ!!」
「バカな? バッファドームの内側に張ったというのに、抵抗が効いてる? お兄様、パワーが桁外れです!」
「マイスター、アレが直撃したら不味いぞ! 魔導力の余波だけで水が沸騰している!!」
「みんな、今すぐ全部補修して補強! 厚くしろ、二重にするんだっ! フレイヤがまだ魔導を撃ってないっ! 出来るなら三重にしてくれっ!! ――亜里須、ニケ、もっと真ん中に寄れ!!」
立ち上る炎の中。何一つ変わった様子の無いフレイヤが、――ゆらり。真っ赤に焼けた床の石を踏みしめ、――にちゃ。足跡を残しながら一歩前に出る。
「この程度の魔導などいかようにも制御できる、フィールドさえ要らんわ。本気で撃った魔導であるなら、まるで話にもならぬのだが」
炎の中に居るはずのフレイヤは、服の端も髪の毛の先も。
焼けるどころか焦げる気配さえまるで無い。
「二発目をなぜ打たぬ。……それともこれがうぬの全力であるとでも?」
冗談じゃない!
これより規模のデカい二発目なんか撃たれたら、こっちが焼け死ぬわ!
「儂の大得意こそは炎、うぬは知っていたはずであったな。それでこの程度? 舐めているのか虚けであるのか……」
「ば、化け物め……!」
「言葉を選べ、亡霊ではあるが化け物では無いわ。儂はいたいけな少女であるぞ? 傷ついたらどうする。……着火」
リオがたき付けに使っていた炎系最弱、戦闘には使い道の無いはずの魔導。
フレイヤがその名を呟いた瞬間。神官の前に光の壁が立ち上がる。
はじめからレジストスクリーンを貼ってたのが反応した、ってことか。
但し、それはど真ん中に穴が開いていて。
爺ぃ神官は、突如左足から炎を吹き出して床に転がる。
「ぐあぁあ! イグナイトであるのに、貫通しただと! ……なんだ、このパワー!?」





