舞台は整った
「モリガン。予測よりも事態の推移が早かった故、迷惑をかけたようであるな。そこは謝罪しよう」
エラそうな、時代がかった喋り方の少女の声が聞こえる。
「自分でシナリオ組んどいてなに言ってやがる! 強いなら強いで、相手の手口くらい始めに教えるのが筋ってもんだろ!? お陰で命より大事なマイスターが囚われかけたんだ、謝って済むかっ!!」
「だが、気がつかんうぬにも責はあると思うぞ。――まぁその辺はあとで、気の済むように罵倒するなり制裁なりするが良い。……約束通りにこの場は以降、儂が全てを引き取る。――ルル=リリ、アビリィも。良いな?」
「強い者には従うのがあたしの流儀だ。特にあんたに対してならば、否は一切無い」
ルル=リリさんから魔導の気配が消えて、頭を下げると一歩下がる。
「もちろん、あなた様には私程度が何かをしようと、邪魔にしかならんでしょうな」
アビリィさんも、剣を鞘に収めると同じく一歩下がった。
オレンジのワンピースを着た少女。肘までの白い手袋は両方外して、右手に持ったフレイヤが、いつの間にか。そこに居た。
「……魔導団長、フレイヤ・デ・ラ・エッシェンバッハ様。なに用ですかな?」
「うぬとはどうしても正面からやり合いたくてのぉ。その為にモリガンに手間をかけさせることになったのだ、うぬからもモリガンに謝りおけよ?」
フレイヤは、完全に隙だらけのままゆっくりと歩いて行くが、誰も動けない。
「法王に曰く。悪いことをしたときは、大人も童もなくごめんなさいをするもの。で、あるそうだからな。――先日、そう言われてたいそう怒られてな」
「このクソババァ、この私を利用するとは……。やってくれたな!」
言葉だけで、凍り付いたその場を再び動かすのは、やはりモリガン。
「そう怒るな……。一応、始めにそう言ったでは無いか」
だが完全にキレた様子のモリガンを意にも介せず、フレイヤは涼しい顔。
「情報は断片だけしか無いと言うに、全部わかったようであるな。伊達に白夜の遠眼鏡などと呼ばれておらぬわな。恐れ入るよ、モリガン」
いや。だからみんな、普通に部屋に居るけどさ。レイジ以外どこから入って来たんだよ!
入り口は、法王の椅子の横以外は一つしかないぞ!?
「ゾンビじゃあるまいし、死人が敵討ちをするわけには行かないものなぁ! フレイヤとしても法王の手前、騒ぎを起こせない、なんてな! ……この貸しは高く付くからなっ?」
「借りたいときに借りることが出来る。ありがたい話だ。……儂に命ごと、など。なかなか貸してくれる者も無いものでな。――あとで、いかようにも。うぬらの良いように返そう」
「返すって、あんた……」
「命を寄越せというならば。ことの済んだのち、くれてやろうから少し待て」
「それはまぁ、その。聞いておくんだが。そこまでは要らないというか、……えーと、姉御?」
「あぁ、モリガン。今はそれで良い。面倒くさい話なのだろう? ――ならば細かいことはこの場が収まってのち、だ」
「私だって、別にババァの命なんか要らん!」
「なるほど身体かや。ただ。何某か求められても、子供の体である故さしたる事は出来んぞ? 儂は知識しかない故、ただされるがまま。と言うことになるが」
「わ、私は確かに変態だが、そう言う趣味はないっ!!」
……人からシモネタをフラれると意外と返せないんだよ、モリガンは。
赤くなったりして、な。
普段は変態ぶってる分、そういうところが可愛いんだよな。こいつ。
「しかし、現状の神職名簿のみならず。まさか、東都焼き討ち事件に関わった神職の名、それまでをも知っているとは素直に驚いた。歩く犯罪辞典とは良く言ったもの。うぬは話以上であるな」
あまり表に出ない分、モリガンは色々な二つ名を持っている。
厨二病的だと思いながらも、ちょっとカッコいいな。そう言うの。
「あんたと知り合いになった以上、普通に調べるさ。なにがマイスターの脅威になるかなんて、わからないからな」
「普通はそこまで調べぬよ……」





