情報部長の代行者
「レイジくんが来るのに気が付いたし、……だったら、なにも言わなくてもスロゥリアは何とかしてくれる。って思ったから」
「ぼくが言うのはそういうところです! 時間稼ぎも結構ですが、やり方ってあるでしょう!? あなたにはご自身を大事にする、という考えは無いんですか……!?」
レイジが来るのはわかったが、但し。槍を振り下ろすまでにスロゥリアの解除は間に合わない。
だから飛び出して気を引き、その時間を稼ぐ。
後先考えないどころか、そこまで計算ずくだった、ってのか……?
「スロゥリアさえ何とかなったら、そしたら。僕が動けなくても、ネー様もモリィも居るから負けないし」
「普通なら、一騎当千なんて言葉さえ生ぬるいですからね、お二人とも。……もちろんニケさんも、ですが」
「小僧、こちらを無視するとは良い根性をしている。――東支神殿といったな……? メルカの子飼いか?」
「これは申し遅れました。ぼくは、仰る通りに法国情報部付魔導導士見習い、王都東教区支神殿所属の准礼拝士長。大導士の位をお預かりしておりますレイジ・イースト、と言います」
レイジは改めて神官に対峙すると、背筋を伸ばして自己紹介。
あれ? 微妙に肩書きも階級もエラくなってないか?
但し、礼儀正しい彼としては珍しく、礼の形は取らない。
「あの小娘にしてはやることが手ぬるいな。――“イースト”を名乗るとは言え。この状況下で、小僧一人が乗り込んできたとて何が出来るものか!」
イースト姓は超エリート。
それは王都全域で通用する概念らしい。
そう言えば、リオのスカウト活動って法王のお墨付きだったよな。
「なにができるかと言われれば、どうせたいした事は出来ませんが。……但し、我が情報部長は仰いました。――此度の討伐対象は、一〇年前の干からびた亡霊が約一〇体。わたくしが直接出るほどの案件ではない、と」
「小娘が、……見透かしたようなことを」
「気が付いていらっしゃらないようですね。見た目で侮るのも結構ですが、既にぼくの全種魔導封印が展開しています。完全に抑えきれるなどとは言いません。ですが、魔導の威力、通常時の2/3となりました。お気づきで無い様なのであえてお伝えします」
この状況下で高位の魔導を無詠唱、ノーモーションで発動した!?
しかもいつ発動したのか、気配さえ感じなかったぞ!!
確かにニケはレイジの話になる度、――レイジくんは強いよ! そう言うんだが。始めて実感した。
つーか、なんで見習いなんだよ!
「確かに。全員が全員、この程度にさえ気が付かないなど。総監代理が直々にお出ましにならないことについては、合点がいきました」
レイジの台詞を聞いて、槍を持つ神官の後ろで微動だにしなかった神官達が武器を構えて動き始める。
だが、動いたのはもちろん彼らだけでは無く。
「ホンキのレイジくんは話以上だ。なかなかやるものだな。――さすがはあの副司祭様に直接、目をかけられるだけのことはある」
アテネーが背負った杖をおろして右手に握り直すと、一瞬姿が消え次の瞬間には俺の前に。
「この高位結界はキミか、詠唱も無しに即時、無反動発動。ルル=リリの弟子だってのも頷ける。ニケちゃんから聞いてはいたが、ここまでとは思ってなかった」
モリガンも、瞬間ブースト全開で一瞬姿を消すと亜里須の前に現れ。握った右手を顔の前に上げ、小指を突き出す。
「彼は最高に強いんだよ!? 僕が保証するっ!!」
いつの間にか開いた扇を右手に持ったニケは、ごく普通に歩いてくると、自然にアテネーとモリガンの真ん中に入ると、――ぱん! 扇子を閉じて腰を落とす。
……お前、さっき石にめり込んでたよな?
「ニケさんに改めて褒められると、さすがにする顔に困ってしまいますが……」
ニケとならんで姿勢良く歩いて来たレイジは、ニケと並ぶと神官を睨み付ける。
「信教の代表として、不躾な老人達に通告します。教皇様へのお客人たる救世主様の御前です! 只今すぐに武器を引き、非礼をわびて礼を取りなさいっ!!」
「大導士如きが神官に指図などと、何をしているのかわかっているのか?」
「位に見合った作法を身につけよと言っています! それにもはや神職の位など関係がない、あなた方は教皇様に弓をひいたに等しいっ!」
「不敬であるぞ、むしろお前がこちらへ礼を取れ」
「……あなた方と同じ紋章を胸に頂くなど気持ちが悪い、虫唾が走る。とはっきり言った方が良いですか?」
「小僧、貴様……」
「神の御心に殉ずるは絶対。その上で教皇様の意図を汲み、お考えの実現のため、手足となって働く。それこそ我ら神職が務め! あなた方は現状、何一つとして務めを果たしていないっ!」
「神は法国の発展と栄華を思って……」
「神が、本当にあなた方を選ぶというなら。ぼくはこの服など、今この場で脱ぎ捨てましょう! そのような神ならば、ぼくが崇め奉る意味など無いっ!」
「レイジ、いつも言っている。……あまり結論を急くものでは無いよ」
どこからともなくレイジよりも通る、雰囲気のある女性の声が部屋中に響く。
「神というものは古来より男女の別なく。美少年が大好きだ、と相場は決まっているものなのさ。――いいかい? レイジ。つまりお前が間違っていようが暴言を吐こうが、神はどこまでもお前の見方なんだよ」
どんな神様だよ……。





