スキル:怪力
王都の中では魔法やスキルは発動しない。当然わかっている。
但し、俺やアテネー達はそれをある程度無視してそれを行使できる、と言うのもわかっている。
さすがに中央大神殿内部ともなると、その制限はかなりキツくなるが。それでも発動は出来たはず。……どう言うことだ?
「動けまい。安心しろ、さっきも言ったが貴様らを殺しはしない」
「何をした!」
「オーヴァーライト・スロゥ、――気が付きませんでしたかな?」
神官達はいつの間にか結界をすり抜け、魔導を展開したらしい。
特にスピード系のスキルやアイテムを封じた上で動きを緩慢にする、スロゥリア系でも上級に当たる魔導、動作上書き・遅延。
こんな強力な魔導を五人分、一気に発動されたのに。気が付かなかった……?
アテネーとモリガンが慌てて槍の軌道から逃れようとするが。
アテネーの迅速、モリガンの瞬間ブースト。彼女たちの瞬発力もまたスキル。
つまり、発動しない……!
俺のスピードも精霊が底上げしたもの。目は追いつくが身体が追いつかない。
――どぉおおん! 聞いたことのあるような音と共に、床に敷いてある石をまき散らして、人影が神官の振り上げた槍へと突進する。
ニケ!?
「どんだけエラいんだかか知らないけれど、あなたがそんなことして良いって誰が決めたっ!? 僕が居る限り、ネー様とモリィはやらせないっ!!」
まさに振り下ろそうとした槍に飛びついて跳ね上げ。そのまま、はっしと掴んだニケ。
槍にぶら下がりながら、珍しく神官に対して怒りをあらわにする。
「勿論、我らのなすこと悉くの全て。お決めになったのは、神である」
……アイツの瞬発力は、基本的には莫迦力で生み出している。
迅速は封じられても怪力はスピード系では無いから動作上書きは無効。
「そんな神様が、いるもんかっ!!」
つまりもともと筋力がある上に、怪力のスキル発動は可能。
動けているのはそういう理屈だと思うが。
「不敬に過ぎる。インコンプリーツの分際で私の現に異を唱えるなど、思い上がるにも程があるわ、愚か者」
スロゥリアの発動に気が付いて、あえて怪力だけで前に出た?
アテネーもモリガンも、気が付かなかったのに!?
助かったのは本当だが、いつの間にそこまで実戦慣れしてんだよ。
だが、動けるのはアイツ一人。この場で後先考えずに飛び出しては……。
「煩わしい。……失せろ、野良猫」
神官はジジィの見た目を裏切り、ニケぶら下がったままの槍を思い切り振りきる。
「わら? うあえおっ!?」
――どごーん!
「わぶっ、――ごはっ!」
吹き飛ばされたニケは、入り口の横。石の壁に完全にめり込んで見えなくなる。
……なんて力だ、やっぱりただのジジイじゃない!
「ニケちゃん!」
「ニケさん!」
「……!」
「じじい! てめぇ、よくもニケを……!」
「後先考えない阿呆だからそうなる。どうせ頑丈なだけが取り柄の獣人、死んでは居ますまい。救世主様の大事な従者、殺してしまっては大変なことになりますからな。くっくっく……」
ニケのことだから死んでない、と言うのは俺もそう思うが。
石の壁にめり込んで無事だとも到底思えない。
「……さて、これでマトモに動けるものは居なくなったな?」
もう神官は動き始めてる、ニケのことを気にしてる暇は無いが……。





