立場
「モリガン・メリエの言動について、我らはとやかく言うつもりはございません」
だけどあの神官の目、あの目は。
許しても居ないし、納得もしていない。
そんな目だ。
「なにしろこの場で拘束され、床に転がることになるのは決まっているのですからな」
――やっぱりか。法国は真っ黒。設定通りだよ!
「ま、そんなとこだろうとは思ってたよ。そこに法王が出てくるってか? ……良い趣味してんのな。……最低のイベントだよ」
「お出ましは、三〇分ほど遅れます。その間、片付けものをしませんとな」
「モリガンを、どうする気だ……!」
「穢れたインコンプリーツの分際で、中央大神殿、それも謁見の間にまで土足で踏み込むなど言語道断、……その時点で既に罰が必要だ、という話ですよ。ウトー様」
――コン。ここまで身動き一つしなかった彼が、初めて。手に持つ槍を杖のように床に付きながら一歩前に出る。
「俺が従者としてインコンプリーツを連れて来る。と言う話は、事前にしていたはずだよな? どうしてそうなる?」
「伺っておりましたよ? ……しかも断れない。忌々しい話です。だがものは考え方だ」
神官は、俺を見返してにっと笑う。――明らかに悪人面だな、帝国の皇帝三神将より悪そうだ。
確かにゲームでの設定的には悪者なんだよ、法国。
……こんなにわかりやすく悪者してくれなくても、良いんだけど。
「救世主ユーリ、救世妃アリス。双方法外な力を持っている。その力を是非に教皇様の、我が法国のために使って欲しいと。そこはそう思っております」
「その為に呼んだんだろうが! それが今の話とどう繋がるんだよ!」
「お二方とも、従者は仲間として、とても大事になされていると聞きました。なれば」
纏っていたローブを翻し、槍を持った右手を伸ばす。
……見た目は年寄りだが、あの構え。“本物”だな、この爺さん。
魔導も当然使うだろうし、見た目で侮ったらヤバい。
「法国としては取るに足らない三名ではありますが、この場にて拘束し、お二方には、このゴミの様な三名のために思う存分、力を振るってもらおうと思うのです」
「わかるように話せ!」
……いや、わかったけどな。想像をはるかに超えて悪役じゃ無いか、法国政府!
「手を抜けば仲間が死ぬ。――ラビットビルは特に仲間を大事にする人間だった。だいぶ見た目が違ってしまったが、ユーリ様。あなたは如何でしょうかな」
「おい、じじい……。それが法国の、いや。――法王の意思か!?」
「むしろあなたの方がよくご存じのことでは?」
「俺が法王のことなんか、知るか!」
知ってるなら此所まで来なくても良かったんだよ!
「現教皇様はどうしても理想が先行する悪い癖がある。国を動かしていくには、それだけでは足りないのです」
「神官殿! 我らをどうするおつもりか!? 主殿に対する扱いによっては……」
「穢らわしい暗殺者一族、サベイヤレルファの生き残り。アテネー。心配せずとも死ぬまで地下牢の床へと転がしてやろう、キチンと生かしておいてやるから感謝せよ」
「モリィもネー様も、そこまでされるような悪いことはしていないですっ!」
「インコンプリーツであるだけでも十分であるのに、その上穢らしい獣人でもある貴様如きが、高級神職に意見できるなど思い上りにも程がある。ニケ・バラント。貴様はバカだがそれ故、使い道がありそうだ。あとで時間をかけてじっくりと、奴隷としての心得を仕込んでやろう」
「あのクソババァ、こうなることを読んでたな?」
「始めから、なにを言っているのかさっぱりだな、モリガン・メリエ。お前だけは無事ではすまさん、犯して汚して穢してやろうからそう思え」
「無事の定義がだいぶんおかしいぞ! それになぁ、変態爺に犯されたくらいでは、私の心は一切揺らがん!」
「何故私がお前ごときに……。くっくっく、中央で軍事用に飼っているオークどもの慰み者にしてやる。ヤツらも女に飢えているしな」
「て、テメェは、神職だろうが!」
「そこは全くその通りだよ、モリガン・メリエ」
そう言いながら神官は槍を振り上げる。
――不味い、何かする気だ!
「まずはモリガン・メリエ、アテネー・サベイヤレルファ。両名揃って、この場に這いつくばってもらおう……!」
「モリガン、アテネー! いったん避けろっ!!」
だがその二人、動きがおかしい。
なんで逃げないんだよ!
――俺が時間を稼ぐしか無いか!
胸のナイフを掴んで、光の剣に……。そしてスキル迅速斬!!
って! スキル不発!?
しかも手がまだ胸に届いてない? なんだこれ、なんでこんなに遅い!?





