侍従その三、怒る
ついに中央大神殿、何階建てなのか良くわからないが最上階の一つ下の階。
謁見の間までやってきた。
ここまでなんと長かったことか。
「しかし。……すんげぇ広いな、想像以上だ」
「……ゆうりくん。建物の、中。だよね?」
なんだこの部屋のデカさは。何処のドーム球場だよ!
「中央大神殿。リオは普段から一万五千人前後、儀式があると四万人以上集まるとは言ってたが。……この部屋だけで幕張メッセよりデカいんじゃないのか?」
ドアの中にはやたらと広い大広間。
その一番奥には、一段上がって真ん中に大きな椅子。
その前に剣や槍、フレイルを捧げ持った高級神職達が十人ほど。無表情でたっていた。
巫女さんの比率があれだけ高いのに、どうしてエライ人はおっさんと爺ばかりなんだろう。
まぁおばさんが三人、混じっているが。
中でも一番エラそうな爺さんが、こちらに顔を向けて言葉を発する。
「ご苦労様で御座います。――間もなく教皇様もお見えになりましょう。事前のお話通りに、礼を取ってお待ちを」
但しこの言葉に反応したのは、アテネーでも俺でもなく。モリガンだった。
「たかが神官風情がエラそうに。自分でなに言ってるのか、理解できてんのか?」
明らかに不機嫌な顔になったモリガンが、神官達を睨み付ける。
「ババァの言う通りか。……中でぶち上げろ、なんて。やっぱり本気で騒ぎを起こせとでもいう気か? あのババァ!!」
ここで当然。常識のない常識人、アテネーが青くなってモリガンを止めに入る。
「おい、腐れぐ……、じゃない、モリガン! わめくのを辞めろ、ここをどこだと思って居る!」
「姉御も今の言い草を聞いただろ!? ……無理やり異世界からマイスターを召喚しておいて礼を取れ? 巫山戯るなっ! ――我らがリーダーにして我が誇るべきマイスター、ユーリ・ウトーはそんなに安くないのだっ!」
「いったいお前は何がしたい!? 主殿のみならず中央大神殿にまで迷惑になっては……」
「わかんないのか、姉御! マイスターに礼を取るべきは、ヤツ等であり法王だと言ってる!」
常識を知る非常識、モリガンはむしろ怒った素振りでアテネーに返す。
――モリガンが何に怒ったのかはわかった気がするが。それでも法国には飯も食わせてもらって、色々と世話になってるし。
衣食足りて礼節を知る。なんて。まぁ、そう言う意味では足りてる、とは言えないんだろうけど。
「これから礼を取るのかも知れないでは無いか。何しろ私達も今、この部屋に入って来たばかりだ」
「姉御、よく見ろよ! ――ヤツらは今となっても一切動いていないじゃないか。“真実の目”はどこに落っことしたんだよ!」
「モリィっ! 僕は難しいことわかんないけど、ここは喧嘩しちゃ駄目な場所なんでしょ!?」
空気は読めるが知識のないのを自認するニケが、さすがにここは空気を読んで止めに入るが。
「ニケちゃん。難しいことなど何も無いし、喧嘩もしていないぞ? 私達のリーダーであるユーリを、この爺ぃどもが安くみていると言うだけだ。少なくても私はその事だけは許せない! ニケちゃんはそれで良いと思うか!?」
「え……? うん、それは良くないんだけど……」
残念ながら、本気で理屈をこね始めたモリガンを止めるには至らなかった。





