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到着! 中央大神殿(下)

 そして廊下のどん詰まりの大きな扉。

 謁見の間の入り口が見えてきたあたり。


「我々も一旦ここにて。……ヘカテー神技官、我に続け」 

 騎士団長と、そしてヘカテーが控えの間の方へ足を向けるが。


「ハイアット卿、少しだけお時間を頂いてよろしいでしょうか?」

「多少予定より早いし、良いだろう。皆さんの迷惑にならん程度にな」

 ヘカテーがアテネーの前に姿勢良く戻ってくる。


「……アテネーさん。ご迷惑でしょうが聞いて頂きたい」

「その。……助祭、ヘカテー様。な、なんでしょうか」

 アテネーが気おされてる? 珍しい。


「わたくしに様など不要。それはあなたが一番良くご存じでしょう」

「ど、どう呼べと言うのだっ!? その、……私になんの用だ?」


「お忙しいのは承知の上で、一段落付いたら……。一度ゆっくり話す時間を取っては頂けませんか?」

「……ヘカテー、お前」


「出自も、過去も、種族さえ。全てが真逆のあなたとわたくし。ですが意味も無くいがみ合うなど時間の無駄。それでは各々が仕える主の、……いいえ。むしろあなたは始めからおわかりだったはず。そんなことは結局、誰のためにもなりはしない」


「互いを知る必要はあるな。相手の価値観が気になるがためにぶつかるのだ、私とお前は特に、な。……だが。知ってしまった故に、関係性の修復が不能。となったらなんとする」


「その時は是非も無い、互いの総力を挙げていくさを致しましょう。なにしろそのときこそは、顔色を気にしていがみ合う必要さえ無いのですから」


「ヘカテー。お前にこのような形で出会えたのはまさに奇跡だ、……神に感謝を」


「ふふ……。アテネーさん、あなたはどこまでも意地が悪い」

「ふん、お互い様だ。わざわざこんな言づてを残しに来る、計算高いイヤな女だ」


 アテネーは機嫌悪そうに、――ぐっ。と睨み付けるが、ヘカテーはそれにはなにも答えず。――にっ、と似つかわしくない凶暴な笑みを返して控えの間のドアをくぐって行った。



 そして謁見の間の直前。結構立派な装飾の付いたドアの前。

 最後に残った神官総長とリオ。そしてフレイヤが別れる。


「エッシェンバッハ卿、リオ。我らも一時いっとき、ここで」

「……うん」

「そうだの」


 神官総長はドアへと向かうが、リオは俺と目を合わせる。

「ユーリ? 私、先に法王様に会ってくるね」

 どうやらこのドアは謁見の間の“バックヤード”に通じているらしい。


「やっぱり、色々確かめなきゃダメだよ。こんなの、なんかおかしいよ!」

「今はお前にだって立場がある。無茶なこと、すんなよ?」


 中央大神殿付きの大巫女、しかもなんか役職が付いている。

 配下の巫女さんは、既に一〇〇や二〇〇では追いつかないらしい。

 いきなりエラくなるにも程がある、と言う話だが。


「法王様はお父様も同然。喧嘩になんかならない」

「喧嘩するの前提で、王様にあいに行く人なんか居ない。つってんだよっ!」

「だから喧嘩になんかならないんだってば。心配要らないよ」

 リオは、――くるん、ときびすを返してそのままドアへと消える。



 そしてフレイヤは……。モリガン?


「モリガン・メリエ」

「なんだ? 大魔道師ヴァナディス」

 ヴァナディスの名前は。モリガンでさえ、多少の敬意を払いたくなるほどのビッグネームであるらしい。


「その名を人前で呼ばわるな、ヴァナディスは死んだ。……わしはフレイヤだ」

「私はどうでも構わんが。まぁ、死人しびとと話すわけにも行かんな。わかった」

 何故だか二人で話し込んでいるが。


「今朝のリオからの話……。まだ気は変わらんかえ?」

「あぁ、納得がいかん。マイスターには私から直接話をする」

 ……あの莫迦。何か、もめ事を仕込もうとしてるな?

 しかしなぜフレイヤがそれに荷担する。


「どうあっても騒ぎを起こす気は変わらんと言うかや?」

「相手の出方次第だが、それで騒ぎになるならその方がおかしいだろ?」


 完全に騒ぎを起こす気マンマンか! ……でも、何をしようってんだ?

 モリガンの話し方を聞く限り、本当に騒ぎにはならない。と言うつもりではあるようだけれど。



「そこな扉を開けば、もう謁見の間である。どうせなら神官どもが揃ったそこでぶち上げるが良い。状況に応じて、必要なら儂も出ようからに」

 そう言うと、フレイヤはモリガンから離れるが。


「あんたが騒ぎにしたいだけ、なんじゃないのか?」

 そのモリガンの言葉に、フレイヤは体ごと振り返る。


 10年前のヴァナディス(こいつ)だったら。モリガンの読みは無くは無い話だ。

 そう言えば。面倒事を起こしては人に責任をなすりつける。と言うのはこいつの十八番おはこだったな。

 当時から一〇〇才越えの立派なロリババァだったわけだし、性格そのものが、そうそう簡単に変わるわけも無い、か。


 それにモリガンは普段から、騒ぎが起こるなら受けて立つ! くらいにしか思ってないし……。


 いや、お前ら! 中央大神殿の最中枢でなにする気だよっ!?

 俺は、法王と話し合わなきゃいけない事があるんだぞ?



「さてな。……いずれ儂も一旦ここで別れる。何かあったれば、それはお前達の責ではあるが。儂が事後を片付ける用意はある、と認識しておくが良い」

「……やっぱりあんたが騒ぎを起こしたいんじゃないか!」


「はっはは……。そうかも知れぬ、儂は立場上ここで騒ぎの発端となるわけには行かぬ故な。但し安心せよモリガン。――ユーリについては命もなにも。なにがあろうとこの儂の立場と力。全てを使って全力で守ってやる」


「……私だけを悪者にするつもりか? まぁ良い、あんたならマイスターの護りを任せても大丈夫そうだ。神殿に引きこもる騎士や魔道師の20や30なら、私だけでも……」


「おい小娘、勘違いするでない。ユーリ絡みで何かしらことが起こりたれば、その責は儂一人のもの。そんな大事なものを人にくれてやるわけには行かんと言っておる。お前如きに渡すなど、始めから有り得んのよ」


 ――こう見えて中央では一番の年長者で神官でもあるのだ。王都中央教区序列六位なのであるぞ。見た目で侮るなよ? そう言ってフレイヤも控えの間のドアをくぐる。




「なんの話だ? モリガン」

「たいした事じゃない。まぁ、中で話した方が良い。というならそうするまでだが」

「おい、腐れ蜘蛛。何だか知らんが、主殿やアリス殿に迷惑になっては……」


「むしろ必要なことだと思うぞ。姉御がマイスターのことを主殿と呼び続ける上でもな。――ニケちゃん、待たせてしまったな?」

「ん? ううん、全然」


 見るからに巨大で重そうな扉。

 力仕事は自分の担当だ、と認識しているらしいニケがずっと引き手を持って待っていた。


「あ、マイスター。その。勝手にすまん。……開けて、良いんだよな?」

「開けなきゃなにも始まらない。俺達は法王に会いに来たんだ!――ニケ、頼む」

「はぁい!」


 高さは三m以上、幅も一枚二mを超え、重厚で、飾りだけで100キロ以上あるんじゃねぇの? と言う、言葉にするとまさにデカい扉。

 ニケが軽く引き手を引くと。


 白い扉に紫と金で装飾されたそのデカい扉が、しかし音もなく。――スッと手前に開いた。


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