到着! 中央大神殿(上)
俺達の乗った馬車に法王の紋章が付いていたからか、拝殿は素通り。
車列は全車、まさに群れ。と表現するのが相応しいような数の巫女さん達が、並んで待っていた中央大神殿の正面玄関前。
「お客様はそのまま謁見の間へ入られる! 荷物はお客様のお部屋へ運べ!」
ハイアットさんの張った声が響く。
「はっ!」
白騎士団と中央騎士団の人達がキビキビと荷物を運び始める。
……良いのかな、ポーターさんみたいに使っちゃって。
そこから長い廊下を歩くのだが、騎士団長と神官総長を先頭にした人の列は、馬車よりもよほど長くなったと思えた。
「これより先は完全に中央大神殿の神域となります。我らはここまでにて。――東の皆さんにあっても、ここで一旦お清めと着替えを願います」
そう言って列の大半を締める巫女さん達がまとめて離れる。
「アテネー様ぁ! また後ほど、お会いしましょうねっ!」
「すぐにお側に戻ります! アテネー様!」
「……あ、その。あぁ、みなさん。ありがとう」
アテネーがすっかり大人気だ。初めは、
――恐そうな人。喋り方が乱暴。美人だけど冷たそう。
なんて言われていたのに、変われば変わるもんだな。
廊下の途中、装飾が変わる部分で東支神殿から着いてきたお世話係の皆さんとは一旦お別れになった。
レイジ以下、お世話係上層部(と言う表現が果たして適当なのかはおいとくが。レイジはこの集団の中ではリーダーなのだ)の話では、まだお世話係は正式解散ではないらしい。
彼らの去就を考えるのは、俺達が法王との謁見が終わってのち、と言うことになっている。と彼は言った。
そのへん、なんとなくきな臭い。
実は約四〇人強のこの集団。年齢とすれば、小学校高学年から中学生の集まりなのだが、ただ優秀なだけで無く、異常なまでに戦闘力も高い。
そのまま戦闘に突入しても一〇〇人隊の程度の敵となら、当たった瞬間、圧倒できるのだ。
それに。この集団を仕立てたのはレイジ、と言うことになってはいるが、事実上の責任者、メルカさんがわかった上で黙認している。
自分の一番弟子のレイジを筆頭に、そんな集団が俺達に貼り付いている、と言うことを考えると。
彼女が何か、“イベント”を察知している可能性も否定出来ない。
スクワルタトゥレ並みに、その辺の勘が鋭いからこその情報部長だ。
「お兄様、ぼくもすぐお側に戻ります! その間だけ、暫しのお待ちを!」
それになんかさっきから、レイジの態度が引っ掛かるんだよ。
レイジはメルカさんから、何かを聞いているのかも知れないが。でも。
「慌てなくていいぞ。中央大神殿の中で、何かが起こると思ってる方がどうかしてるんじゃないか?」
ここは中央大神殿、法王の城なのだ。何かが起こるはずがない。
「お兄様のお話が至極ごもっともである、とはぼくも思います。――ニケさん、その……」
「うん、任せて!」
やりとりはそれだけ、レイジは俺とニケに礼をすると何事も無く引き下がる。
拳で語り合った強敵に会話は要らない、的ななにかなのか……?
お前らはどうにも方向性がおかしいよ!
階段を上り、廊下を歩く毎に騎士巫女や魔道巫女、騎士や白騎士団も一礼して姿を消し。アビリィさんも白騎士団の人達と共に列から離れる。
「アリィ様。エリザベートはそれでも……」
『リズ姉さん。……姉さんが本当にやりたいことは、それは私のために命をかけることだけ? あまり意固地になると、きっと誰も幸せにならない』
いったん間を置く。SNSより字数制限は緩かったはず。そして亜里須はスマホには触ってない。
間を取るところまで、始めから考えてあったらしい。
『何度でも言いますが、姉さんにはそれを考えなければいけないほどの価値や、影響力がある。言葉の善し悪しはともかく、姉さんは、自身のの考えのみで行動して良い立場では無いはず』
スマホが淡々と亜里須の台詞を読み上げる。
『勘違いしないでね? 私も一緒に居たいです。……でも、リズ姉さんの理に適って。その上で他の人達も、もちろん私も幸せになる。そんな道がないかなって。私、こないだからずっと考えています』
何回聞いてもごく一部のイントネーション以外、本人の声にそっくりだ。
どう調整するとそうなる、体験版なのに。
そもそも普段から、本人の喋り方に抑揚が無い。と言うか単語で話してるからな。
『その上でよく考えて、そしてもう一度お話ししましょう。私と居ることで、リズ姉さんが本当に不幸せに成らないかどうか。……もしもそうなってしまったら、わたしは耐えられないです』
ここで亜里須はスマホを持つ手を下ろす。
「……姉さん」
「は、はい!」
「……法王様と、お話。して、みて?」
「アリィ様。……わかりました。では、エリザベートは暫時お側を離れます。――ユーリ様にも一時、アリィ様のお側を離れますこと、ご了承を」
「気にしないで良いよ。むしろ話し合いでキチンと結論が出ると良いっすね」
法王とは、俺も話し合わなくちゃいけないんだけどな。





