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亜里須、慌てる

 ん? 亜里須がなにか言いたそう、かな?

 で。それがわかる俺は、一体なんなんだろう。――お父さんか!

 ……まったく。


「なんだ?」

「……あ、あのね、一昨日の、話。なんだけど」

 あれ? 自分の口で喋った。……この先の道行きも一応、気にはしてる。ってことか。


「あぁ、それな。――神官総長も待ってくれるって言ってたし、アテネーもモリガンも間もなく治るようだし。だったら大神殿に行くのは、みんなで動けるようになったら、にしようぜ?」



 神官総長は。――侍従の皆さんが動けるようになってのちでかまいません。と言って騎士団長とフレイヤを伴って今もまだ、東支神殿ここにいる。

 自分のお付きであるヘカテーのこともある。


 急ぎの仕事も無く、転移鏡も使えない。

 なので、俺達と一緒に馬車で中央に帰るのだそうだ。



 アテネーたちの存在意義レゾンデーテルは、今のところ俺と亜里須の護衛。

 一緒に行かない、となると彼女たちの存在を頭から否定することになる。

 今現状がどう見えようが、救世主の従者。他にはなんの肩書きも持っていない彼女たちである。 


 でも、俺達もそれは一緒。

 そもそも、救世主ってなにする人なんだよ。ホント……。

 変に期待されても困るんだけど!



「……その、……みんな。なんだけど」

「……ん?」


【みんなの中にリズ姉さんが入ってしまっているのですけれど、裕利君はパーティのリーダーとして、なにかを思ったりはしないものでしょうか?】

「なんで敬語!? 気持ち悪いわ! ……それにリーダーってなんだ!」



 亜里須は、アビリィさんとは姉さん、アリィと呼びあうほどに仲良くなった。

 亜里須の視線だけで言いたい事をほぼ読み取るくらいに、アビリィさんは空気が読めてその上。頭も良い。基本は超体育会系の脳筋なんだけど。


 そして亜里須のためなら喜んで命を投げ出す、というのは言葉だけでは無く本当にそう思って居るだろう。というのもわかる。



「アビリィさん、なぁ。ま、お前のことも。わからんでもないけどさ」


 但し。色々気が利いて、巫女としても上位で他の巫女さんの尊敬を集める影響力を持ち、さらにはやたらに腰の軽いアビリィさんなので、かえって亜里須は苦手にしている。

 と、言う事実も今のところ変わらない。


「大神殿までは一緒に居てやれよ。アビリィさんもそう望んでいるんだし」

【その後になにか考えがあるように聞こえたのだけれど、裕利君になにかアイディアがあるとでも言うのかしら?】


「俺じゃ無いよ。さっきお前が来る前に、騎士団長、ハイアットさんに会ったんだけどさ」

「……えーと」

「アビリィさん、法王から呼ばれてるらしいんだな」


【何故? リズ姉さんは少なくともそう言う意味で、悪い事をするような人にはみえないのだけれど?】

 ある意味においては悪い事をすごくしそう。と言うのは俺も思うよ。


「悪いことで呼ばれたわけじゃ無いよ。……法王の最側近で法国最強の白騎士団のトップ、白騎士に推挙されてるって。それについての話し合いなんだと」


「……リズ姉さん。……そんなに、凄い人。なの……!」

「但し、問題が一つ」

「……うん?」


「お前の護衛につくためだと言って、政府に逆らってまで断ったらしい」



「……え? ちょ……」

【ストップ、ストップ! 待って待ってちょっと待って! あの優秀で聡明で美人で同性にも異性にも大人気で、剣技もトップクラスで、巫女としても支神殿全体の規範とさえ言われるナイスバディな眉目秀麗、質実剛健なリズ姉さんの人生そのものを】

 

 あ、字数制限にひっかかった。


【私のようなちっぽけな、資源ゴミより価値が無いようなコミュ障女が、ただただ存在する事実だけで、そんなどうでも良い理由で、彼女の世界を、人生をねじ曲げようとしている気がするのだけれども! いえ明らかに、してるのだけれどもっ!!】



 いつも表情の乏しい亜里須の顔に、明らかな狼狽ろうばいの色が浮かぶ。

 ……アビリィさんのことに関しては一応、責任を感じてんのな。


「……あ、あの、ね? ゆうりくん……!」

【それは不味い、真面目に不味い、本格的に不味い! いくら私でもそれくらいわかる! これ以上は無いくらいに不味い事態だわ! 裕利君からも説得して! いや、是非そこは、メルカさんも絡めつつ全力で説得して下さい! お願いします!!!】


「まぁ待てよ。だから法王が直接説得するんだと。……なので中央大神殿に入るまで。それまで逃げないように一緒に居て欲しい、ってさ。これは、そのメルカさんにも言われた」


 支神殿の巫女さん達の全員が全員、心から慕う大巫女にして、法国全土でも指折りの剣の使い手でもあり、騎馬で槍を取れば騎士を凌駕する最強クラス。

 そう言う人が逃げる可能性をみんなが指摘して、誰もそれを否定しない。

 ……って。どうなんだよ、それ。


 そして王様が、

 ――俺の部下の中で一番エライ人になってくんない?

 ってお願いする? もうなにがなんだか、わかんないよ!


 さらにあの人は、リオと同じく大巫女の位にある。

 神職だから、それは教皇そしきのトップに説得される、と言うことだ。

 それでもまだ逃げる可能性があるって、人として問題があるレベルなんじゃ……。


「白騎士、となると巫女では無くなっちゃうから、そこにも多少拘りはあるようなんだけど、その辺は良くわからん」

【貴族排斥運動で亡くしたご両親を、生涯かけて弔っていくために神職の道を選んだ、とは確かに言っていたけれど】


 まぁ、あぁ見えてあの人はあの人で。

 亜里須と気があっちゃうくらいだから、人としての問題の一つや二つや三つや四つ。抱えているかも知れないが……。



【果たして法王様の説得で諦めてくれるかしら……。悪い人では無いのだけれど】

「ま、そう言う意味ではこれ以上ないくらいに良い人。ではあるよな……」

「……過ぎた良い人も、……困る」


 悪い人でないのは確かなんだろうけどさ。

 

 お茶のおかわりを用意していた“イースト”さん二人が、横を向いて肩をふるわせていた。

 ……みんな、言わないだけでそう思ってはいるんだね

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