流行の発信地 獣人の少女達編
ニケが異様に強くなったのは、それは毎日“鍛錬”をする習慣ができたから。
レイジは忙しいのに、毎日それに付き合ってくれている。
当人に言わせると自分にも得るところがある、とあくまで控えめなのであるが。
そしてレイジのお陰で、彼女の人見知りもだいぶ緩和された。
とにかく一緒に居るだけで、ありとあらゆる人達から挨拶をされ、声をかけられる。レイジはそう言うヤツなのだ。
ちなみに、ニケの所属する、いや先日から頭領を務める流派では。
獣人だけで無く、女性は全て。チャイナドレス風の服を着るのが、流行を通り越して流儀になりつつあると言う。
但し、そこは異世界基準の服である。
今のところ。それを作れる人が限られているので、職人さんは嬉しい悲鳴を上げている。
とは、メルカさんから聞いた。
魔導耐性がゼロなのに魔導士を相手に一歩も引かず。
それどころか気合い一発、魔導を拳で殴りつけ、扇子で相手に撃ち返し、肉弾戦で皇帝三神将をも撃退。
その後、騒動が収まって。事変に参加した大多数が寝込むなか、次の日から。
岩山を、蹴り一撃で切り崩し、岩石を素手で叩き割って城壁の材料を調達し。
複数の牛で引く荷車を一人で引いて、石切場と王都を牛の二倍以上のスピードで複数回往復。
さらには魔導やチェーンで釣り上げて、ゆるゆるとはめ込むはずの石を。
片手で持ち上げ、素手で城壁の穴にパズルのように――すこん。と入れてみせる。
「……チャイナドレス、流行ってる、の?」
「今のところは一部で、だが」
最近は、普通の獣人女子の中でも流行りつつあるとか。
まずは格好だけでも、ニケっぽく言えば つよい 人の真似をする、と言うのは。
これはわかるんだけどさ。――普段着に、スリットの深いボディコンチャイナドレスだぜ?
ごく一部だけで収まってくれないと困る。
……いや、考えてみたら。俺は何一つ困らんな。
それを着るのが、ナイスバディ標準装備の獣人女性や、鍛え上げられた女性格闘家である以上。むしろ得するとさえ言える案件だわ、これ。
これ、ニケを褒めても良いくらいな話じゃん。
【ふむ、またエッチなことを考えているわね?】
「俺は黙ったらいかんのか!? それにまたってなんだ!!」
「あれ? 違った……?」
……亜里須のヤツ、相変わらずさえてやがる。
「あ! ……もりちゃん、どぉお?」
【アッちゃんと同じ部屋なのでしょう? もう起きているって言っていたわよね?】
「モリガンともさっき話、してきたぞ。あんまり長く寝てたんで、まだ上手く歩けないらしい。こっちも少しリハビリが必要なんだって」
【それはかなり非道い、と言うことなのかしら?】
「いや。単に寝過ぎて身体が動き方忘れてるだけ、だとさ。医者も同じ事言ってたから心配ないだろう」
「……ふぅ。良かった」
【ところで。もりちゃんもやたらに大人気と聞いているわ。でもこれは巫女さん達では無い一般の女の子らしくて、最近引きこもりの私には具体的にわからないのだけれど。裕利君はなにか聞いている?】
限界まで力を使い切ってぶっ倒れながら。30匹以上のワイバーンを一人で止めてみせた、インコンプリーツの少女。
実は東支神殿城下、王都東教区に住む少女達の間ではたいそうな人気になっていた。
どうしたってモリガンは肉体派にはみえない。
変態であろうがなかろうが、見た目は線の細い小柄な少女なのである。
その彼女が身体を張って身を削り、ドラゴンの大群から大結界を守ったのだ。
ほっといたって噂は立つ。
その上可愛い。というのは悔しいけど否定できないが、その見た目はアテネーやニケのような“特別感”をほぼ感じない。
黙って立っているなら、モリガンはごく普通の可愛い女の子なのだ。
王都の女の子達がシンパシィを感じるのも当然だろう。





