理解のある副司祭様
「良いか。仮にもお前は助祭、上級神職だ。しかも教皇様直轄の特種祭事神技団に籍があるのだぞ? ――立場をわきまえよ、サバニアケルン神技官! 教皇様の客人に剣を向けるなどとは、一体どう言うつもりであるのか!?」
だがおっとりして見えるヘカテーは神官総長に食い下がる。
「わたくし、剣を抜いてはおりません! それに。お言葉ですが、グスタフ様! この者は法国、いやランドそもそもの理、民草の秩序を乱す暗殺者です! サベイヤレルファのものなのですよ!?」
その言葉を聞いてアテネーが俯いて呟く。
「確かに、……私はそのサベイヤレルファ最後の生き残り、頭領なのだ。名前を投げ捨てる訳にはいかないが。一方、その名前は、歴代が背負った過去に通じる」
サベイヤレルファの名前は、暗殺者一族として法国のみならず、ランド中に轟く名前だと聞いた。
「だが、その名前を過去ごと、私が背負うと決めたのだ……」
そしてアテネーはその名前を背負って生きることを決断した。
「主殿、迷惑だろうがそれはたった今。はっきりと決めた……!」
「……アテネー、お前」
声は小さいままだが、顔は上に上がり俺と目が合う。
「何処かでケジメをつけなければならん、ならばそれは最後の一人である私の仕事だと思うのだ」
「そんなに思い詰めなくても、さぁ……」
「そうはいかない。サベイヤレルファは、世の中の役に立つ人間だとわからせてみせねば、結局。……主殿の為のみならず、誰のためにもならないのだ」
――さっきもそう、私を罵倒する暇があったなら怪我人を助け、自分も休めば良い。……つまり、私個人の評価を変えねば前には進まん。世の中そのものがよくならんのだ。
アテネーは、そう言うと杖に体重をのせて真っ直ぐに立つ。
「だから今はなにを言われようと気にならないが。……但し、そのようなものが配下に居ること、主殿には済まなく思う」
「俺はなにも気にしないさ」
「だがな、ヘカテー。お前の発言にも立場というものが……」
「サベイヤレルファは人を殺めることで餬口を凌ぐ一族、それを言うことが悪いことですか? しかも王都に客人の待遇で招き入れるなどと……」
「しかしながら。――その、人を殺める技こそが。これまでの救世主様の助けとなり、今回は東支神殿をも救った。その事実は無視しますか? ……久しいですね、ヘカテーさん。変わりのないようで安心しました」
その声が聞こえた途端。アテネーは杖を自分の前に置いて片膝を付き頭を垂れる。
「お言葉、穢れたこの身には勿体ない限りです。副司祭様」
「わたくしなぞにいちいち礼を取らずとも結構です。……それより、足に怪我をしたと聞きました。大丈夫ですか?」
「大事は御座いません!」
「とてもそうは見えませんが……」
そして一瞬遅れてヘカテーも。驚いた顔をして声の方を見やる。
「め、メルカ様……!?」
インコンプリーツに対して一切の差別感情を持たない副司祭様。
当然、このヘカテーも顔を知っているのは想像に難くない。
「いえ、ご挨拶が遅れました。リッター総監代理こそ、お変わりのないようで何よりです」
「先日の助祭への昇進に際して、まだ直接におめでとうを言っておりませんでしたね。――ふふ……。あなたも過ぎるほど元気なようで、安心しました」
白銀と朱の鎧に真っ赤なマント。中央騎士団長がメルカさんを伴って、いつの間にかそこに居た。
「もはやその方に害意はない。とは、総監代理より今ほど話を聞いた。――気持ちはわからぬでもないが。グスタフに不利益がないとなれば、そなたは護衛。静まっても良いのではないか? 今のお前はもう、皆の規範である助祭の地位にもある。尚のことだ、ヘカテー」
「ハイアット卿まで……」
「ちっ! 性悪エルファスめ、覚えておけ。……いつか公衆の面前で、私に這いつくばって謝らせてやるからなっ……!」
「さっき水に流した感じだったのに……」
「それとこれとは話が別だ! 私はそもそも、あの女が気に喰わんのだっ!」
――ぽん。杖に体重を預けて、呪詛の様に呟くアテネーの肩に手を置く。
「まぁまぁ。お前も、……もう。いいだろ? アテネー」
「し、しかしだな。主殿……」
「彼女、ヘカテーだっけ? 彼女も、あえて“叛逆の白巫女”なんて言われて黙っているんだ。お前と同じく、自分がケジメをつけるつもりなんだろうと俺なんかは思うが?」
アテネーの言い分を信じれば悪徳商家の生き残り。
彼女もまたサバニアケルンの名前を捨てず、自分が名前のケジメをつける。そういうつもりなんだと思うんだよ。
――お前らはキャラクター的に真逆ではあるけれど、それは鏡映しなんだろうから。





