激突、半端者!
「ね、アテネーさん。余計なお世話かもだけど、根本的に直した方が良いんじゃ無いかな? それ」
「主殿のお側につくなら、ますますそうなのだろうが、……直せなかったのだ」
――医者はもちろん、高名な聖魔法を使う人にも見てもらったのだが。そう言うとアテネーは少し苦い顔をする。
何か面白くない記憶に行き当たったのか。“仕事”に差し障りがあるから直せ。とか言われたんだろうな。
「結局。複数回、複数人の魔道士が術式を構築して、結果複雑に絡み合い。なんとか誤魔化してきた。偶然できあがった術式がトンだら再構築は、かなり難しいだろうが」
「あのね、アテネーさん。今なら直せるかも、だよ?」
「……うん? リオさん、それはどう言う……」
まぁ確かに。腕がもげたくらいなら即座に直せる手段が、今ならあるのだった。
“死にたて”であれば、ごく普通に体力マックスで蘇生できるくらいに強力な手段が。
神官総長。……ある意味、人間兵器というなら。こっちの方が始末が悪いかも知れないな。
そしてそのとんでもない人に、俺から頼む手段まである。
なんてことだろう、何でもありかよ! 中央大神殿!!
王都までの数週間はなんだったんだよ……。
「今なら戦場の福音書、グスタフにぃが居るんだよ? 私からもお願いするし……。あ、来た来たっ!」
その始末の悪い人間兵器、神官総長が。
メルカさんとほぼ同じ服を着て杖を付いた女性を引き連れて、こちらへと歩いてくる。
と言うことは、杖の人はカテゴリとしては巫女の上、司祭クラス?
「あ! グスタフにぃ! こっちだよおっ!」
「リオか、――おぉ、異国の黒い服! ……では、あなたがユーリ様ですね? ――私は法国にて教皇様より神官総長のくらいをお預かりしておりま……」
――かっ! 固い木の棒同士が衝突した音。
「……くっ!!」
「……ちっ!!」
焼け焦げて血まみれの司祭の服を来た女性と、片側の袖の無くなって、スカートはスリットのように破けたメイド服のアテネー。
――キリ、ギギギ。カタカタ。
お互い杖の上と下を握って杖の部分を押し付け合い、右手の上、ほんの少しだけ刀身が見えている。
って、……あっちもほぼ同じ形の仕込み杖だ!
お互いのスピードが速すぎて、双方抜刀には至らなかったらしいけど。
どっちが先だったんだろう、これ。
でも、……いくら疲れて、その上足を痛めたとは言え。
アテネーのスピードと、同等!?
「パロアムティルネントエミイースプホゥル・ポロコネンス・サベイヤレルファ! あなたの如き暗殺者風情が白昼堂々、こともあろうに王都で何をしているのですっ!?」
「モルヘラパスカンタバサテミラ-レカレジアル・プシトラス・サバニアケルン! 貴様こそ不敬の輩でありながら神職のなりとは、一体なにを企んでいるっ!?」
そして長い名前、彼女もエルフか。
更にはアテネーが、自己紹介の時に自分でも省略したミドルネーム(だと思う。なんかやたら長くなってる気がするからそうだと思うんだけど、自信は無い)まで言い切っている。
そしてそれはアテネーも同じこと。
とすると、この二人は知り合い。と言う事になるけれど。
「私はなにも企んでなど居ない、ただ純粋に神にお仕えしているのです! 侮辱を取り消しなさい! 暗闇の娘、暗殺者アテネー・サベイヤレルファ!!」
「今の私は救世主様に従うもの! 暗殺者呼ばわりとは良い度胸だな? 謝罪か死か、好きな方を選べ! 叛逆の白巫女、ヘカテー・サバニアケルン!!」
ギチギチ、ギリギリギリ……。思い切り杖を押し付け合いながら罵り合う二人。
ことここに至っても体制は変わらず、お互い体制も変わらなければ抜刀することもしない。いや、できない。
実力伯仲、ってヤツだな。体制を変えればその隙を突かれる。
そのアテネーとにらみ合う彼女。
背格好も、見た目の歳、そして小ぶりのややとがった耳も。ほぼアテネーと同じ。
スラリとした長い首、等身の高いモデル体型。但しおっぱいはあまり大きくない。そんなところまで、同じだ。
但し、全てが正反対。
浅黒いアテネーに対して、一種病的なほど白い肌。
深緑のアテネーに対して、彼女の髪は緑がかった銀。
アテネーの深く輝くダークグリーンの瞳に対して、ライトグリーンにきらめく瞳。
吊り目がちでシャープな輪郭のアテネーと、やや垂れ目、ふっくらした頬の彼女。
多分、彼女は種族的には白エルフか。
ダークエルフとは同じエルフでありながら、そもそも種属間で仲が悪い。
「存在自体が不敬である貴様が、神に仕える神職などとは笑止千万! 金の亡者がいったいなんの儲け話を思いついたのかっ!!」
「そちらこそ! 人殺しで糊口を凌ぐ不浄のものが、救世主様のお側を許されるっ!? それこそが欺瞞そのものでしょうに!!」
そしてそうならアテネーがあえて“不敬”、と言ったのもわかる。
ダークエルフもエルファスも。
信仰心の薄いエルフの中でも、設定的には特に信仰を軽んじる種族。
この二人がそれなりに神様を信じてるだけで、実は珍しいのだ。
但し、彼女も耳が目立たない。そしてあのスピード……。まさか。
「半端者の分際で! 何故故に上級神職、しかも中央大神殿付きなどと巫山戯たことになっているかっ!」
「お言葉、そっくりお返しするわ! 救世主様のお側付きとは何故ですの! 半端者なのは、お互い様でしょうにっ!」
……やっぱりな。





