リオが知らない、リオの真実
「どうしたの? ユーリ」
「何でも、ない」
スマホの画面がリオから見えなくなるようにする。
今のところ彼女はこの“板”に、画面が出るとは思って居ないはず。
日本語だって読めないと思うけど。
「な、ゆうりくん、これ……」
既になにも言う前に、亜里須もチェッカーをリオに向けて試したらしい。
「これはチート、と言うよりストーカーっぽい気がするが……」
【亜里須、リオには取りあえず黙っていよう】
【いくらわたしでもわかっているわ】
いずれゲーム的なHPはほぼ無し、攻撃の要のはずの魔法もたいした事が無い上、魔力が戻っていない。
自己申告では巫女見習いで、ステイタス的にもそうなっているが。
神の巫女としての聖気はほぼ使えない。つまり怪我をしても回復できない。
自分の擦り傷や切り傷を放置しているくらいだものな。
つまり。今、何かに襲われたら。……アウトだ。
そしてワイバーン。……燻製用に肉を切りとったのは俺だが。
ワイバーンのあの部分はカルビだったのか。
あと、塩以外も持ってたんだな? 昨日知らんぷりしたのはなんでだ!
【色々りおちゃんだって、話したくないこともあるんだと思うし】
……ピリ辛スパイスだけは絶対に、人に使わせたくないとかな!
【頭の高位封印ってリボンよね? 気になるわ。他の装備はほぼゴミ同然だと言うのに】
……ゴミとか言ってやるなよ! まぁ中古の槍に普通の服。攻撃力も防御力もほぼ無さそうではあるけれど。
【だけどそのゴミ装備に助けられたんだぞ?】
【もちろんわかっているわ。りおちゃんは大恩人、傷つけるようなことはしたくないし、もし傷つける人が居たら本人が許しても、わたしは絶対許さない!】
「んと。二人共、そろそろ良い? 日のあるうちにあの丘だけは越えたいんだけど、スマホでなんか、魔法的に……忙しい感じ?」
「あ? あぁ、大丈夫だ。――行こうか。亜里須」
「え? ……うん」
何とか丘を越えた辺りで日が落ちてくる。予定のペースでは進んでいない。
「ごめんなさい二人共。私、これ以上歩けない。今日はここで、アリスも良い?」
亜里須が頷く。
「……うん」
「かえってお前にそう言ってもらって、助かったぜ。マジで」
一番疲れているはずのリオが一番健脚なんだもんな。
チェッカを見たら、今日はもう無理。なんて言えなくなってしまった俺達である。
草原の一本道、道ばたに一本だけ大きな木が生えている。
「じゃ、ユウリ。薪になるもの、拾ってきて貰える?」
「わたしも、……行く」
チェッカーでわかったこと。
彼女は元々は上流階級のお嬢様だった。
名前の欄、多分今名乗っている名前は、素性を隠すための偽名なんだろう。
……確かに興亡からAdMEに移行する歴史設定の中。
一時的に、ではあるが治安が悪化し貴族が迫害された。と言う歴史の設定があったのを今さっき、思い出した。
高レベル非課金ユーザーの追い落としのための、言い訳に近い設定だったはずだが、このせいでリオは家も家族も無くしたんだ……。
その後彼女は、いきさつはともかく教会に拾われはしたが、巫女としても魔道師として槍使いとしても。全てで伸び悩んでいる。
ぶっちゃけ、ぱっとしない。
そして、昨日。リオはかなりの無理をして俺達を守り、ワイバーンを倒した。
ワイバーンのスペックを思い出す限り、リオ程度の初心者魔道士が単独で勝てる相手じゃ無い。
熟練度が一気に2段階,3段階飛ばしで上がる相手なら、本来ソロでは勝てる可能性ゼロ。
瞬殺されてもおかしくない差であるはず。
おかげでソロでスライム狩りをしていても、危険を感じないくらいにはレベルが上がっているが、疲労が全く回復していない。
ニコニコ笑ってはいるが、本当は今でも青息吐息。
体力も魔力も気力も何一つ。ワイバーン戦の前の状態には戻っていない。
言われてみれば目の下にかなりくっきりクマがあるし、槍を杖代わりにため息を吐いていることも多い。
巫女であれば初級回復魔法は、最低自分に対しては発動しっぱなしになっているはずなのに、切り傷や擦り傷も治る気配が無い。
「あ、そうだ! アリスはこれと同じ葉っぱを取ってきてくれる? これ食べれるヤツだから。お肉ばっかじゃフンづま……。げふんげふん。えへへへ……、ねぇ?」
「……わかった」
明るく振る舞うリオを見ているだけでツラい。
別段知りたくなかったよ、こんな情報。
たき火を囲んで三人。
確かに美味いんだけれども、さすがに飽きてきたなワイバーン。
リオが付け合わせに選んだ葉っぱも、やたら苦い上にモソモソしてるし。
「なぁ、リオ。お前の拝殿巫女見習い。ってのはさ、巫女の中でも一番の下っ端。って事になるんだよな?」
「そうだけど。……あれ? 私ユーリにその話したっけ?」
やべぇ! チャッカー経由でしか見てないや、この話!
「服、服がさ。知ってる拝殿巫女の服とは、ちょっと。うん、違う気がしてさ」
あれ? なんか落ち込んだ顔になったが。
「確かに見ればわかる、か。当たり前だね」
え、マジで階級によって服が違うのか? ……わかんねぇ。
でもまぁ、お前のその服。常識的に巫女服として考えると、それだけで違和感十分だけどな。
「実は、もう三年もやってるんだけど。こないだも昇格試験落ちちゃって。見習いでは私より年上の人、居なくなっちゃったの。……出来そこないなんだよ、私」
やべ! 地雷踏んだ!?
「……拝殿巫女とか神殿巫女の子達から“リオお姉様”って呼ばれるのはちょっとツライ、か、なっ! ……なにここ、固い~!」
ナイフで燻製肉の塊を、ギリギリとそぎ落としながらリオ。
気にしてるのか気にしてないのかどっちだ!?
「ちょっと不思議なんだよ」
「なにが?」
「俺と亜里須が使いものになるかならないか。は、おいといてだ」
何かの役に立たないと、居場所がなくて困るのはホントなんだが。
「もの凄いエネルギーというか、魔力を使ったわけだろ? 俺達を呼ぶのにさ」
「そうだね。魔導団長は多分まだ寝込んでるとおもう」
――そんなにかっ! おいおい、ホントの役立たずだったらどうする気だよ。
「……どうしたの急に」
「大神官とか、神官長とか。来るのは普通そういう人達なんじゃ無いかなと、ふと思ったんだ。出来そこないとかそういう事では無くて、魔力とか剣の強い人の方が良いんじゃ無いかと思ってな」
自分の分の燻製を口に放り込むと、両手を合わせて一礼。
腰の袋からハンカチを取り出して手と口を丁寧に拭き始める。
この辺、変に潔癖症なところまで妹にそっくりなんだけれど……。
「もちろんユーリの言う通りだと思う。……でもね、選んだのは法王様なんだ」
法王が、リオを選んだ?
「法王様というか、神様かな。……御託宣、って言ってわかるかな?」





