関係性
「二〇年ぶり、……になる、のか?」
先週、なんとなく貰った本を引っ張り出して読んでいたので。
俺としては一週間ぶり、くらいのものだが。
「儂を。覚えていて、くれた……? こんなに嬉しきことも、ここ一〇〇年でそうは無かったぞ」
少女は、そう言うと涙を流しながら静かに微笑んだ。
もちろん、ゲームの中で彼女にあったことは無い。
ゲームの世界には存在さえしなかったんだから、当然だ。
一旦停戦にこぎ着けた理由だって、興亡からAdMEに移行するにあたって、ほんの短い公式設定はあるが、そこに俺が絡んでいるわけが無い。
けれど、俺は彼女と一緒に戦争の終結に向け、命がけで戦った。
本来のデザインは、よくも悪くも萌え系の絵柄の人だから。目の前の少女とは似ても似つかないとも言えるし、一目でわかった以上そっくりだ。とも言える。
なんだ、この状況。記憶が……、書き換わってる?
――コイツも、イベントキャラとして出てくる予定だった、と言うことか?
……だったら、フレイヤは女神の名前なんだろうな。
そうとでも思わなきゃ、理屈があわない。
理屈が立ったとしたって、納得出来るかは問題が別。
とにかくゲーム内でヴァナディスにあったことはない。
でも、“今の俺”はコイツを、良く知ってるわけで。
「背が、少し。……伸びたんじゃ無いか?」
「はっはは、儂も歳はとるようだの」
「成長期、……って適用になるのか、お前でも」
そう。彼女だと、一目でわかった。
彼女がヴァナディスであることも、呪いをその身に受けて、歳を取らないはずの彼女が微妙に成長していることも。
……どうなってる。
マンガの中での俺は、世界が平和になってのち。
ログアウトの手段を見つけた。
「約束しないけどまた来るぜ、だからサヨナラは言わない。今だけ一旦、お別れだ」
――今度来るときは、姿は変わっているかも知れないぜ? 俺はからはなにも言わないと思うけどさ。……友達なんだ、見つけてくれるよな?
涙ぐむ彼女にそう言ってログアウトした後、アカウントを削除した。
ゲームが続いている限りは、もちろん毎日。戦いは続いているのだが。
一方、“彼女の世界”が平和になった以上。
もう俺がログインする必要はないからだ。
……なんてね。
実際は興亡からAdMEになって以来、運営とずっとやり合っていたので。
ラビットビル本人はマンガの通りに引退し、アカウントはチーターに乗っ取られたらしい。
とか、噂になっていたのはしってる。
騒ぎを起こしてるの、本人だったんだけど。
「歳を取ることも無く。記憶も鮮明なるまま、二〇年待った。……長かったぞ!」
頭二つは背丈の低い彼女がガバッと俺に抱きついてくる。
「そして約束の通りに儂はキチンとぬしを見つけたのだっ! 褒めてくれっ!!」
「……いや、あの。今はフレイヤ、でいいんだっけか? その」
「あの日、うぬが居てくれたれば。なれば幾ばくか、ほんの幾ばくかでも。マシな…………、あ、あの子らの、せめてなにも知らぬ罪無き無垢な幼子達の、……その命、だけ、……それだけ。でも。う、くっ、うう……」
……え、泣いてる?
ちょっと待った! お前、見た目はロリのくせに、貴族の名前と家族の誇りを護る、強い女のキャラだったじゃ無いか!
それに、この場でそのリアクションは、……多分、不味い。
「あの、……ゆうりくん?」
ホラ来たぁ!
ぴゅい!
【シスコンではあるけれどロリコンでは無かったわよね? ここは大事なところだからあえて二回聞くのだけれど、本当にロリコンでは、無いのよね?】
「いや、あのな? 亜里須……」
「……主殿」
こっちも来た!
「そのお嬢さんがどなたで、主殿とはどのような関係なのか。侍従としては是非、聞いておかないといけないと思うのだが。その。――“失礼”があってはいけないからな」
「……アテネー、なんか目が。イストリパドオアとやり合ってた時より、ずっと怖いんだけど!」
「ユーリ、その綺麗な子。……だぁれ?」
思わぬ伏兵、ニケにまで突っ込まれるだと……!?
しかも顔はいつも通りにこやかなのに。
耳がピンと立って、髪の毛逆立って、尻尾も太くなってますが。
――なんか怒ってますか? ニケさん……。
……なんで俺が責められる流れに!?





