形勢、大逆転!
固有特殊魔法は、体術のスキルにあたる上級魔導の技だが。
魔道師カテゴリで最低★×5。基本☆でないと習得できない。
そもそもレベルが上がりにくいのが魔導系カテゴリだから、☆を持つものなどごく少数、もしかしたら“プレイヤー”には居ないかも知れない。
……彼女は『イベントキャラ』なのか?
ただ、この技は何処かで見たような気が……。
ぱーん!
少女の目の前にあった珠を叩き潰しながら、彼女が手を打った次の瞬間。
……魔方陣の上の帝国兵とモンスターだけが、いきなり木の棒のように燃え上がる。
上級魔法でさえ発動率、なんてものが存在する。六割で上々と言われるのだ。
その上を行く超上級の特殊魔法。その発動を確信した上で、目標を精密に選別する!?
なんだそれっ! 誰だ、あれっ! ……そして。
――間違い無い。俺は。あの技を知ってる……!
「聞け、ジュリアンっ! 今の術、モンスターはともかく、人間は選別条件を帝国の紋章を持つもの。として発動したが故……」
紋章を持つものとモンスター、それのみを狙い撃ちする魔法なんて聞いた事も無い。
……もしかして、アテネーが例のサーベルを取り上げられたのって、この展開になる可能性をメルカさんが読んでいたから!?
それに今朝は、ゲート前にモンスターテイマーの姿も無かった。
使役した生き物を殺されれば使役者にもダメージが及ぶ。
彼女はあぁ見えて諜報機関のトップ、ミドルネームはその活動のご褒美として貰ったと聞いた。
それくらいは常に考えている、と言うことか……。
「傭兵や間者、密偵どもなど。端から紋章を持たぬものは、今も燃えずに残っておる! 混乱しているまに始末をつけるが得策なるぞ」
「魔導団長のご助力ありがたくっ! ――我が方は騎士巫女と魔道巫女が主力だ! 一時でも速く援護に入る! 行くぞ!!」
「は!」
真っ赤なマントをはためかせ、白銀に朱。
印象的な鎧に身を包んだ人物は、そう言うと白の鎧を着た部下二名を引き連れ、腰から剣を引き抜くとまだ燃えさかる炎の中に突っ込んでいく。
「我らも行くぞ!」
「かしこまりました! そこが例え何処であろうと、わたくしは神官総長と共にありますっ!」
一緒にゲートを抜けてきた上級神職と高級神職の服の男女二人も、ローブを翻し騎士三人を追う。
「中央の魔導団長に騎士団長、神官総長だって? なんてものを送り込んで来やがる」
「……ゆうりくん。それは、すごい。の?」
「ん? あぁ。殴り合いの喧嘩の助っ人に、フル装備の軍隊が部隊ごと来たようなもんだ」
中央魔導団長は見た通り。
中央騎士団長は、あのイストリパドオアを圧倒するほどの剣技を持つ。
神官総長ならきっと、致命傷でない限りは。
……いや、死んだばかりだ、と言うくらいなら即座に蘇生どころか、完全回復させるんじゃないか?
「ゲームバランスが崩壊するから、何かのイベントの時に顔見せ程度にしか出てこないし、正面からあたったらパーティごと瞬殺されたうえ、ペナルティも大きい」
攻撃が入っただけでも経験値的にかなりおいしいが、当然その戦闘にほぼ勝ちは無いのだ。
戦闘から離脱できずに、負け。
の判定を喰らったときのペナルティもかなり大きい。
イベントによっては、キャラクターロストの可能性さえある。
彼らと敵としてあたるなら、文字通りに命がけである。
「……エラくて強い人、なのね」
「まぁそうなんだが。なんかその言い方だと、たいしたことないみたいだな……」
帝国ならば王宮魔導師長や近衛騎士団長にあたるはず。
法王は、なにを考えてそんな凄い連中をまとめて送り込んできた?
……でも、考えてみたら帝国側だって。
大規模転移陣の連発なんて、王宮魔導師のクラスが絡まなければできない。
三神将も、斬は近衛の上級である王宮騎士、スクワルタトゥレはその近衛の統括だとは自分で言っていたし。
さっきのイストリパドオアなんか、その三神将の筆頭で。さらに近衛騎士では最上級と思われる、皇帝警護騎士だ。と名乗りを上げた。
そのイストリパドオアを助けに来たライトバレイという女も。皇帝直属部隊である黒騎士団のナンバー2。
称号はともかく。
黒騎士団なら職業はロイヤルガードのはずで、本人もそう言った。
……帝国側も既に人間兵器クラスの大物を何人も動かしている、か。
なんなんだろうな、この状況。
二大国家の小競り合いが基本設定のはずなのに。
こんなに設定に引きずられる世界なのに。
バランスどころか、もはや世界の形が壊れてもおかしくない。
……これはもう、本格的に相手の殲滅を狙う戦争じゃないか!





