暗闇の娘、再び Side : Yuri's valet "Athena"
「やれやれ、私の首を取って名をあげようという功名心さえ無いか。まぁ、所詮は使い捨ての人数あわせ、モンスターなんぞに頼るくらいだ、私の名さえも知らん素人ばかりか? ならば教えてやろうが、私のクビを取れば三年は遊んで暮らせるんだぞ? ……興が冷めた。ゴミはゴミらしく、さっさと畑のゴミ捨て穴に帰るが良い」
もう一段煽りを入れると、残った敵全てが私に剣を向ける。
既に剣の切れ味は最悪。もはや布さえも切れないだろうが、クビや背骨を折るのに刃など要らない。
それに現状。換えなどいくらでも落ちている。
魔力もないが、初めから使わないと決めればそれで良い。足が動かないなら移動しなければ良いだけだ。
優秀な人間に求められるものは臨機応変、それは戦闘に限ったことでは無い。
確実な技能に裏打ちされた高い技量と、それを的確に運用する知識を持ち、変幻自在にシナリオを書き換えつつ、それでも最終目的は全く変えずに完璧に達成する。
優秀な人間、として括られるのはそのような、あからさまな異常者なのだ。
私は果たして、自分で思うほど優秀な人間だろうか。
「あぁ、蜘蛛女の首が欲しいなら、私はもう要らんから持っていけ。命がけで“戦った”証が。――ふふ、くっくっく……! 必要だろう? 三神将、だったか? ヤツにサボっていたと怒られないための証が、な……? あーはっはっは……」
モリガンを護る、と“我が主殿”と約束したのだ。だから。
彼女だけで無く、私だって。ユーリとの約束を違えわけにはいかない事情はある。
これについては表現出来ないほどにある。……何故なら一応。私も女だから、だ。
そしてモリガンとも約束をした。――あとは任せて寝ていろ、と。
これは“ウチのパーティの仲間”との約束、果たす以外の選択肢は始めから無い。
とどのつまり……。モリガンを護る。これだけは何があろうと絶対に譲れない。
私はその場の全てを皆殺しにする殺戮機械、暗闇の娘アテネー。
今はそれで良い。……むしろ今この時には、その方が都合が良い。
だからもっと態度は高圧的になる。私は本来、こうだったはずだ。
「良くもまぁここまで、姑息で臆病なチンピラを集めたものだと感心する。さすがは帝国、貴様らなぞに戦士や剣士を名乗らせるとは、よほど軍に余裕があるのだな。私ですら騎士を名乗れそうではないか。槍が使えて馬に乗れれば良いのだろう? あっはっは……!」
全員が明らかに殺気だって私を包囲する。
どうやら、モリガンから完全に注意はそれた。やれやれだ。
アレに意識があれば、死んだふりをしているだけで済んだものを。
全く、あの腐れ蜘蛛は……。
「何をしている貴様ら、それが騎士様に対する態度か? さぁ。命が惜しくば、さっさと剣を捨て私の前に跪けっ! 這いつくばって靴を舐めながら命乞いをしろ! ――命が惜しいのなら、だが……?」
もちろん。いまや魔導は使えない。
足だって動かないが、それがどうした。
私は“暗闇の娘”。雑魚の五〇や一〇〇はものの数では無い。
リオさんと一緒に料理を作れ、ニケさんに読み書きを教えろ、モリガンを守れ……。
主殿が私に命じる仕事が難解すぎるのだ。
ただ視界に入るもの全てを、壊して殺せばそれで済む、と言うなら。
私にとって話はむしろ簡単なのだ。
ほんの一時、捨てたはずのサベイヤレルファの最終兵器。
そう呼ばれる、躊躇無く人を殺す異常者に戻れば、それで済むのだ。
テキトー娘の糸使い、それを貫いたまま意識を失ったモリガン。
それに比べれば、なんとお手軽なことか。
「ふ、……靴を舐めるつもりはない、か。――良いんだな? 本当にそれで……」





