情報屋×暗殺者=!? Side : Yuri's valet "Athena"
「もう“近所”で呼べる範囲の蟲は呼び尽くした、後は私には糸しか無いんだ! 魔導は全部変換し、ぇぶっ……! へ、変換して糸に回す! 姉御、もっと魔力をくれ!」
今だって相手が雑魚だけであるのを良いことに、スピードを犠牲にして。こちらは一部、逆に体力の魔導変換で融通している状況なのである。
「私を無尽蔵に魔力を取り出せるタンクかなにかだと思っているのか!? これ以上はこっちだって持たん!」
ユーリさえ近くに来てくれればそれだけで。
ある程度、気力だけでも回復できるだろう。
二人ともその程度には“乙女”であるはずだが、現状それさえも望みは薄い。
「よるなっ! ……えぇい、きりが無い! モリガン、何か手は無いのかっ……!?」
「私に言われても…………。ん、待てよ? そうか、そうだよ! 無理矢理動かしてるんだから、テイマーを潰せば。モンスターは、それで散る……! ――姉御、魔獣使いを特定できるか!?」
「……話はわかるが」
すでにここまで、何人の敵を屠ったのか数えては居ないが。
この剣も流石に切れ味が落ちてきた。
いくら職人技の逸品とは言え、本来は本格戦闘用では無い。護身用の仕込み杖なのだ。
数を切れば当然に切れ味も鈍る。
既に刃では無く力で無理やり切っている
「魔力の量をもう少し上げてくれ、……糸が切れやすくなってきた」
「お前死ぬ気か?」
「それはムリだな、私が死ぬときはマイスターの腕の中とさっき決めた!」
「言っていろ、莫迦がっ! 力は回すが、知らんからな! ――モリガン、間違いなく空のドラゴンたちは散るんだな?」
だが、空のワイバーンに気を使わずに済むというなら。
数こそ多いが敵は烏合の衆。モリガンの手を借りる必要など無い。
素手で首をねじ切るくらいは造作も無い。フルに機動力を発揮して、剣を拾うことも、石を投げつけ、足元をすくうこともできる。
空と地上、両正面になっているのがいけないのだ。
「その辺は専門が違うがテイマーだ、私にはわかる、請け合おう! 空の連中は、ごふっ! ……ま、間違い無く散る!」
「承知! ……少しの間逃げまくる! 少しキツイがついてこい! 良いか、何度でも言う! この手、絶対に離すなよっ!」
いくら高位のテイマーとは言え、これだけの数のワイバーンを制御しつつ、剣を握って戦闘に参加しているわけが無い。
そしてテイマーである以上は、モリガンを引き合いに出すまでもなく、“変わり者”であるのはほぼ間違い無く。
ならば特定は簡単、“戦場”を見渡せばそれで良い。
「モリガン! ――やるぞっ!!」
「……なんだ、姉御? 唐突に」
「今までとは逆だ、私に全魔力をよこせ! テイマーを見つけた、全力でダークホールブレイクを撃つ!」
主殿が、モリガンと私を組ませた一番の理由はそこだったはず。
二人共闇魔道士である以上、難しい調整や、術の発動時の属性反転やら同調やら、そういった面倒ごとはそもそも無い。
モリガンは疑似スキルだが、私は一応本物の魔道士だ。効率が違う。
「構わないが、……多分、姉御が撃った時点で私は倒れるぞ?」
「ワイバーンは散るのだろう? ならばゴブリンと木っ端戦士の五十や六十、ものの数では無い! お前は寝ていろ!」
「姉御の破壊力だけは、私はぁ! 何をおいても信じるぞっ!!」
「黙れ、腐れ蜘蛛のテキトー娘っ! 私を暴力の基準で測るなっ!!」
「今回は良いじゃ無いか、結果的にマイスターの役に立つ! ――良いぞ、もってけ!」
「……モリガン、後で話がある。逃げるなよ? ――悪いが借りるっ!」
「私をいたぶって、非道い目にあわせて、痛くしても良いのは世界中でマイスターだけだ! 私のイラつきごと渡すぞ、頼んだっ! 姉御ォ、ぶっ飛ば……べ、ごぶっ!!」
モリガンであるのに。
軽口を最後まで紡ぐこと無く、血を吐いて後ろにのけぞったのが視界の端に見えた。
繋いだ手にグン、と体重がかかる。
「行くぞ! ……消え失せろ、ゴミども!」
――絡め取り崩壊する漆黒の落し穴!!





