樺藤 亜里須
「じゃあ、メールやなんかも……」
ぴゅい! え? SNSの着信音?
【繋がるかな?】
ぴゅい! 再度メッセージの着信。
【私達二人の間でだけ普通に回線が繋がるみたい。ちょっと優越感、とか言ってみたり。まぁもちろん、そんな場合じゃ無いと言うのはわかっているのだけれども】
人生初!
中の人も間違い無く女子高生のIDゲットぉ!
……中の人がおっさんで良いならID、二人分知ってるけど。
「なぜメールで無くてメッセージなんだ?」
二人しか居ないんだよなぁ、今。
だいたい電話はともかく、サーバーとかどうなってんだろ? これ。
【こっちの方が使い慣れているからよ。私、実はメールはあまり使ったことが無くて。ママに送るくらいだったし】
……それはともかく。
打つの、速っ!
だいたいどうして普段のしゃべり方とギャップがあるんだよ。……しかもそんなにわかりやすく。
ぴゅい!
【この世界はアレでしょ? ラノベとかゲームにありがちな、剣と魔法の世界的な感じなのでしょう? だったら通信が出来るってすごくアドバンテージがあることではないかしら? きっと、通信にも魔法とか必要なのだろうし、一般の人ならのろしとかハトで通信するのだろうし、手紙が届くかどうかわからない的な……】
テキストで喋っている限り、中の人が違う人みたいだけど、樺藤。……だよな?
「アドバンテージは良いが。充電、どうするんだ?」
【何処かにコンセントの一つくらいあっても良いのじゃ無いかしら? どうせゲームの世界なのだから、それくらい世界観に“楽屋裏”みたいなものがあっても良いような気がするわ。裕利くんはどう思う?】
あれ? 二人称単数がちょっと変わった気が。
【あぁ、わたしの事も亜里須で良いから】
心の中まで読まれてる感じなのっ!?
テキストベースの亜里須さん、別人過ぎだろ……。
「あ、えーと。亜里須、で良いの? ――うん、……あのさ、特にVRのオンラインゲーだったら、異世界を味わうゲームだろ? なのに、そんなのあったら台無しじゃん。メタ要素は嫌う人の方が多いし、だからその辺はすごく緻密に作ってるはず」
「…………うぅ」
肯定なのか否定なのか、亜里須が唸っている間にもメッセージが着信する。
【なるほど、裕利くんはなかなか細かいところにまで考えが及んでいるわね。さすがりおちゃんに救世主と名指しされることはあるわ。そうすると充電切れの時点でお終い、と言う事なのかしら】
「アドバンテージ、一〇日を待たずに無くなるな」
節約しても一週間が限度だ。
【わたしのこれはフル充電でも三日もたないよ? 裕利くんのよりバージョン一つ上なのに。ハズレの機械だったのかしら? それとも掴まされちゃった? やっぱり修理なのかしら? それとも素直に交換保証を使った方が良い感じ?】
その調子でSNSに書き込みしてたら、いくら電池持ちがウリの機種でも三日持たないよ。機械のせいじゃないから、それ。
だいたい、この状況下でどこのショップに交換しに行くつもりなんだよ。
うん。高嶺の花の美少女と、俺だけが意思の疎通がはかれる。
これは素直に嬉しいが。
もうなんか。今の時点で面倒くさくなって来ちゃった。
「ねぇユーリ。――何故、現象平面界の人が魔法の道具を持っているの?」
「魔法の道具? ……スマホが?」
「その綺麗な薄い板、スマ、ホ? って言うの? うん。それから、明らかな魔力を感じるよ?」
「おまえから見て、これは魔力が封入されている板。と言う事か?」
「うん。……なんか違うの?」
――魔力で通話やメッセージをやりとりしている、と? そうならば。
「お前、これに魔力を封入することは出来るか?」
「ユーリの持っているヤツなら出来る。アリスのは無理」
【何故そんな事になるの? 同じ機械なのに。差別、差別なの? 裕利くんがいい男でわたしが女だから? リオちゃんよりおっぱいが大きいから? わたしのスマホのバッテリー上がったら通信機器として全く用を成さなくなってしまうと言うのに……。裕利くんからりおちゃんを説得して、お願い!】
……亜里須。いい加減口で喋れ、口で。ウザい。
うん、通信機器として利用出来ない方が良いような気がしてきた。
「うーん、なんて言うか相性の問題? 属性が違う? なんだろう、なんかそんな感じ」
そう言いながらリオは真面目な顔で俺に向き合うと、両の手を組み、目を閉じる。
「お、おい。リオ? なにしてる」
左手に持ったスマホがほんのり暖かくなって、充電の数字が一気に満タンになる。
「おぉ、すげぇ!」
「わ、……わたしは、どうしたら」
「自分で出来ないかなぁ? 多分だけれど、アリスは私より巫女の素質があると思う。その板。スマ、ホ? それに理力を集中してみて?」
「……? あの、ゆうりくん、……“りりょく”って、……なに?」
「うむ、もちろん具体的には俺も知らんが。――充電増えろ! って思いながらスマホを握りしめる的な、そんな感じの何かを求められているのだと思うんだ」
俺にそう言われて亜里須は素直にスマホに向き合う。
「………………っ!? ぉおふ!」
……思わず出た亜里須の変な声が、妙に可愛らしかった。
カワイイは正義、ってホントなんだな。なんか悔しい。
充電問題はこれにてクリア。





