戦う、メイド長!! Side : Yuri's valet "Athena"
所属:無所属 (未登録の第三勢力)
暗闇の娘:アテネー・サベイヤレルファ
「走れ、モリガン。止まるなっ! ……私の手を絶対に放すなよ!?」
「あ、姉御……。少し目がかすんできた。遠くが見えない、全部であと何匹居る!?」
モリガンの言う遠く。は、きっと半リーグ先。くらいのものではあるだろうから、実際には問題が無い。とも言えるが。
それはともかく。
元から持久力が無いのも考慮には入れていたが、それでもモリガンの消耗が想像以上に激しい。
「姉御ォ……、糸使いだからって! 糸、出し放題、ってわけには、行かないんだぞ……!」
いくら蜘蛛女とは言え、目に見えるほどの糸を休み無く出し続けているのだ。当然とも思える。
通常、彼女等の出す糸は常人には見えないほどの太さである。
そして空の一端を埋め尽くすほどの数の蟲は、全てがニーズヘグに向かっている。
お陰でニーズヘグは自由に身動きが取れなくなっている。
ニーズヘグに比べればワイバーンはまだ与しやすし、と言うことか。
それとも糸で拘束できない何かがあるのか。
あとで聞いてみるしか無いが、その為にも。まずはこの場を何とかしなければ。
元々持久力の無いモリガンであるのはわかった上で、それでも。
状況から見て一旦休ませる、と言うわけには行かない。
多少なりとも悪いとは思うが、できることは煽って鼓舞するしか無いのだ。
「お前から、――失せろっ! ……糸を取ったら、――遅いっ! ……何が残ると、言うんだっ! ――たかだか二〇前後の……。ちっ、追加でさらに一〇、ニーズヘグが三、だ!」
そう言う間にも、モリガンにはさらに敵が殺到する。
それを頭が確認するより早く、モリガンのために私の体は動いていた。
ゴブリンを三枚に下ろし、オークを上下に両断、戦士達の首を飛ばす。
ユーリのよく言う、“ウチのパーティ”。その一員。モリガンを守るために。
「姉御、なんでそんなに増えた!?」
「そんなことっ、私がっ、――しつこいっ! 知る、ものかっ! ――雑魚しかいないが数だけは多いっ!! モリガン、止まるな! キチンと手を掴め、こっちだ!!」
弓はもちろん。投げナイフもクナイも針も、サーベルも煙玉さえも無い。
切れ味が最高なのは良いのだが、何しろこの刀身では打ち合いになっては持たない。
動き続け、かわし続けるしか無いところに持ってきて。
その上モリガンまでも守る。
我ながら、とんでもないことを安請け合いしたものだ。
敵もモンスターも。ここまで数の減る気配がまるで無い。
そう言う意味では見えているはずだが、彼女は結界付近の空の動向。それ以外は一切見ていない。自分に襲いかかる戦士達さえ完全に無視している。
自身の身の保全については、私に完全に任せている。と言うことだ。
莫迦なのか、コイツは!?
いや、そう言えば。忘れていたが、コイツはあからさまに莫迦なのだった。
「くそ! ……可哀想に」
モリガンが悔しそうな声を上げながら、ワイバーンを糸で絡め取る
「何の、――せっ! ……話だ?」
「ワイバーンだ、無理矢理操られてる」
以前、モリガンから。
普通は 操ら れる側も、蟲でさえ。一応はテイマーの意思をある程度汲んで、それをなす為に動くのだ。
と、聞いたのを思い出す。
「無理矢理、自由意志を奪われて 操ら れていると?」
「そういうことだ!」
但し、これもモリガンの受け売りになってしまうが。
モンスターの中でもかなり強い、ワイバーンやニーズヘグ、ベヒモスなどのドラゴン系のモンスターでそれができるなら。
それはかなり高位のテイマーであるらしい。
さすがは国の名前が魔導帝国、となっているだけのことはある、と言う話ではある。
「マイスターは、……無事か!?」
「安心しろ、我が主殿は全くもって健在だ! ――お前は持つのか?」
以前、主殿が言って居たことを思い出す。
――あぁみえて、ある意味お前より真面目なとこがあるんだよ。ホント、扱いづれぇよアイツ!
言われるまでも無い。私だって知っている。
彼女は“マイスター”の命を一秒延ばすためなら、自分の命はもちろん。
法国はおろか、やり方さえわかるなら。世界そのものを犠牲にしようが一向にかまわないと本気で思って居る。
世界中を敵に回そうが、モリガンにとっては関係がない
彼女にとってはユーリだけが全て。他の全ては些末事。
本気でユーリのことだけを考えているのだ。
そこは良くわかる。……私だって、その部分に大きな変わりは無いのだから。
「マイスターに、く。任せろと、言ったのは、私だ。あと三〇強、なんだろう? その程度、自分で言っ……、言った以上は、当たり前だ! 持たせるさ……!」





