ゲートの守護者達 東支神殿・騎士巫女筆頭
ゲートの前まで歩いて来たが。
魔道巫女や魔導導士、そしてローブを被った魔道士達。
有事の際の防衛部隊、と言うことなんだろう。
モリガンに寄れば、何故か今日は使役士の姿が見えない、とのことだが。
さらに並み居る騎士や剣士、戦士達のなかでもひときわ存在感を放つ騎士巫女の姿。
ごく自然に姿勢良く立ち、長い剣を腰に下げた背の高い女性。
騎士巫女では東教区第一位。大巫女、エリザベート・アビリィさん。
むしろリオ達なんかより、こっちがやっかいかもしれないな……。
――あ、気が付いた。
アビリィさんは、遠目にも明らかに血相を変え。亜里須の前まで一気に全力で駆け寄ってくると跪き、
「アリス様! もちろんわたくし如きがあなた様に理由を問うことなど、出来はしないでしょう! ……ですが、ご存じのごとくゲートの外は危のうございます! どうしても、と言うことなればせめて不祥、このエリザベートだけでもお側にお連れ下さいますよう、再度の御一考を進言いたしますっ!」
と、ここまで一息でまくし立てた。
「……え、と」
――なんか喋れ。お前の言葉以外、アビリィさんは納得しないぞ。
亜理寿は、スマホの画面をエラい勢いでなで回している。
あの亜理寿が、操作している姿を普通に見せる!? なら長文か?
しかしどんだけの長文を、しかもどうやってアビリィさんに伝える気だ?
亜理寿は、スマホをまるで某ご隠居の印籠の様にアビリィさんに突き出す。
『アビリィさん。私を大事に思ってくれる、強く綺麗で。そして何より優しいアビリィさん……』
スマホに読み上げさせるのか! ……考えたな。
「は、ご覧のとおり。ここに控えております!」
『あなたは私の最後の切り札。そして、教えを広め、方々を救済する癒やしの巫女でもあり、それ以前に国民の命と法国の地を守る守護聖者、東支神殿の最強戦力でもあります』
さすが本読み、そう言う台詞はアドリブでポンポン作れるのな。
「お言葉は光栄ですが。わたくし、さほどのものでは……」
『よろしいですか? ……では聞いて下さい』
「……お言葉を遮りましたこと、失礼を致しました」
亜里須は一切スマホの画面に触ってない。……ということは。
アビリィさんが口を挟むところまで読み切って間を調整してあるってこと!?
えーと、……何者なの、お前?
『アビリィさんは、私直属の、たった一人の騎士。と言う理解でいいんですね? 例え命がけになろうと、私の命令を聞いて下さる、と』
「もちろんです。……何なりとご下命を」
『では告げます。もしも東ゲートの外で問題が発生し、私や裕利君での対処ができなかった場合。敵一人、モンスター一匹たりともゲートを通してはいけません。……その場合は、アビリィさんが付近の民間人にとっての文字通りに最終、最後の盾、希望の剣となります』
「ですが、それではアリス様のお側には……」
亜理寿が一度スマホを引っ込めるのと同時。
すっ。音も無くスカイブルーのメイド服が亜理寿のそばに立つ。
「騎士巫女様。実力の程は失礼ながら、私と同程度とお見受けします」
「謙遜することは無い。齢九つにして暗闇の娘の異名をとり、サベイヤレルファの最終兵器とまで言われたダークエルフ、アテネー。あなたの話は当然に聞き及んでいるし、わたくしとくらぶれば、あなたの方が強いが必然。だが……」
「我らユーリ殿の従者三名。束になってもアリス殿にはかなわない。今私の言うべきことは、実はそれだけなのですが」
ちょっと待った。そのモリガンみたいな台詞、絶対作ったのは亜里須だよね?
お前ら、いつ打ち合わせしたのっ!?
「……つまり」
「護衛だ、警護だと言葉では言うが。……我らさえ本来同行の必要は無いのです。現にアリス殿は。リオさんとモリガンが帝国の近衛五名に囲まれたとき、一撃で全員を吹き飛ばして助けてくれました。私とニケさんが全く動けないでいた時に、です」
再び亜理寿がスマホを持った右手をあげる。
画面には
「ささっと自然に読み上げサービス2ビジネス表現編 体験版」
【ティーン・女性/キィ・Low2】
【テキスト読み上げ中/一時停止・0.5倍・2倍】
の文字。
あぁそれ、俺のにも入ってたわ。
消したいのに普通の方法では消せなくて、放置してたんだけど。
多分、アプリを作ったメーカーの人が想定した使い方とは違う気が。すごくする。
……意外と声、似てるね。
『アビリィさん、きっと実力と人望、双方併せ持つあなたにしかできません。侵入者からのゲートの完全守護。お願いしても、……良いですか?』
「アリス様のご命令とあらば是非も無く! 取るに足らないこのわたくしではありますが、命に代えてもゲートは死守いたします!!」
『ありがとう御座います。なにも無いとは思いますが、もしも。そのときがあれば、よろしくお願いします』
「ははっ! 一度ことあらば、この命と引き換えてでもアリス様のお言葉は完遂されましょう!」
『でも死んでしまってはダメです。それは許しません』
「状況次第ですがそれについては努力致します。……引き換えに、と言って釣り合うものでもありませんが。――しかし、どうか御身が危険な場所に出ませんようにと、このエリザベート、伏して再度のお願いを申します」
「……おい、亜里須?」
「うん、あの、……ありがとうございます」
「お約束はなった、エリザベートはそう理解を致しますが宜しいですね? アリス様」
そう言いながらアビリィさんは立ち上がると、姿勢良く胸に手をやる。
「その上で、ゲートはわたくしと、配下の騎士巫女隊にお任せを。……アリス様もどうか、このエリザベートとのお約束、努々(ゆめゆめ)お忘れになりませんよう、重ねてお願いを申し上げます」
胸に手を当て目を閉じそう言うアビリィさん。
なんて言うか。……想像以上に脳筋だった。
第二関門もクリア。
俺達は閉じたメインゲートの脇、小さな出入り口をくぐってようやく外へと出ていく。





