最初の目的地
イラスト:ハト(荒井くま)様
「森と言う程では無かったな」
「まさか歩いて5分で抜けるとは。昨日のうちに見に来りゃ良かったね……」
「暗いときには行動しない、お前の判断は正しいと思うぞ?」
ごく普通にワイバーンが居るくらいだ。
なにが居るかなんて、わかったモンじゃない。
明るくなって、朝から肉を食べて。
更にはしこたま燻製肉を抱えた俺達は水辺を離れ、まずは森を抜けるべく歩き出したのだったが。
初期の目的はリオの言う通り、5分で達成された。
小高い丘の上がそのまま湖になっていたらしい。崖では無いが降りるのには躊躇するような角度で地面が下っている。
そして当然、小高い丘なので周りが良く見渡せた。
リオは現在位置を把握し、ようやく案内係として機能し始める。
かなりおおざっぱなものではあるが地図を持っていたし、彼女はそれが読めた。
方向音痴なのは転移陣だけ、だと良いんだけど。
「ここから歩いて約二日、獣人族の村があるの。そこでちょっと一日二日、休ませてもらおう。それで良い?」
「そこは俺達はわからんし、任せる。――んーと。それで良いよな?」
隣のセーラー服がこくんと頷く。
「……ん」
AdMEの世界だというなら。
帝国であれば、例え聖職者であろうと獣人族に対する差別や偏見は根深い。
リオだって例外にはならないはずだ。
それに奴隷の“養殖場”ではなく、独立した村がある。と言う事は。
「……ここは、大いなる魔導帝国では無くて、神聖王朝フェリシニア法国の領内なんだな? お前は本当にフェリシニア法国の巫女で良いんだな?」
「そうだけど、……ユーリは現象平面界の人なのに。なんで詳しいの?」
「いやまぁ。そのくらいは、な。――前の法王の時代だったら結構知ってるんだが。――お前、ラビットビルって言う傭兵の名前、聞いた事無いか? 実はアレ、俺なんだけどさ……」
「もちろん知ってるけどさ、少しバカにしすぎじゃない? ラビット=ヴィルさんは私が生まれる前の、伝説級の剣士の人でしょ? ユーリは何歳なのよっ!?」
“無印”魔導帝国の興亡」は、続編にあたる「興亡AdME」の約二〇年前の世界にあたる。
そしてラビットビル率いるクラン、勇ましき凡人の団は当時の法国ギルド所属のクランの中で、依頼達成率No.1を誇っていた。
ラビットビルがこの大陸で活躍していた時代。多分リオは生まれてさえ居ない。
ここは、世界大崩壊の起こらなかった“AdME”の世界。と言う認識で間違い無いんだろうけど。
だったらやっぱり、ラビットビルの名前は出さない方が良かったかも。
「まぁ、置いといて。……目的地は獣人の村、なんだな?」
「いずれその村から王都までは、一〇日あればつくんだ。意外と近かったよ?」
むしろ、どんだけ遠くに居るつもりだったんだよ……。
「金はあるのか?」
「お金は邪魔になるから持ってないけど、法王様の書き付けがあるから大丈夫」
逆に言えば飛んだ先が帝国だったら、服装がもう初めから法国の巫女だし、法王の書き付けまで持ってるし。
帝国兵に出合った時点で皆殺しの目に遭ってたんじゃ無いのか……!?
「……良かったな。法国の中で」
「あの、ね。……卯棟、くん?」
樺藤もなんかわかってきた。
あまりの衝撃で喋れないのでは無く、元からこう言う感じ。
つまり人と話すのが苦手であるらしい。
可愛いから。
普段静かに本を読んでいると、あぁ、そう言う子なんだ。と周りに勝手に思われて、その辺、ある程度うやむやになるんだろう。
俺も可愛い女の子に生まれたかったな。
……あ、俺にはうやむやにするものが無いから良いのか。
引きこもりでは無いし。学校にも行ってたし。当然友達も居たし。……まぁ女の子に友達は居なかったけど。
うん、誤魔化すものはなにもないね。ないない。
「あの、……聞いて、る?」
「も、もちろん! ――なんだ?」
樺藤は手に持ったスマホを指さす。
あ、俺のとおんなじ。最新鋭機種だ。へぇ、意外にもガジェット系に興味があるのか。――と、指をさしている先を見ると。
「ね? 電波、……あるの」
「マジか!」
電波強度は最大、おまけにデータ通信可のマークまで!
「何処かに繋がるか?」
樺藤は首を横に振る。
「インターネットは?」
これもダメらしい。さらに追加で首を振る。
「あ! ……ち、ちょっと、か、借りるでござる」
そう言って俺のスマホを取ると弄り始める。……気が付いてないかも知れないけれど。今、語尾がおかしかったからな。お前。
ブゥ、ブゥ、ブゥ……。樺藤の携帯が唐突に震え始める。
「俺とおまえの間だけで通話が出来るって事?」
一つ頷いて彼女は俺に携帯を返す。
発信履歴から樺藤 亜里須で登録、っと。
人生初!
家族以外の女の子の番号ゲット!
しかも深窓の令嬢、樺藤だぜ?
 





