御前会議 Side : Magical Empire
所属:偉大なる皇帝による大魔導帝国
皇帝三神将:スクワルタトゥレ
「皆揃っているようだな、宰相」
「は、揃いましてございます」
「では、始めるとしよう」
緋色の装束を着た皇帝がゆっくりと自分の椅子に座ると、場の全員が胸に手を当てて敬礼の後、着席する。
謁見の間の隣にある、かなり広い合議の間。
椅子に着いているのは私の他、同じく三神将でなぜか経済も担当する脳筋、刹那斬。
そして見た目は眼鏡のおっさんで、中の人も同じく三〇代、どころかアラフォーのはず。我々皇帝三神将の筆頭にして皇帝の相談役でもあるイストリパドオア。
そして三神将とは同格扱いで私たちには命令のできない、皇帝直轄の特殊戦闘部隊“黒騎士団”。その団長である黒騎士。
現在はその座は女性が勤めている。黒い甲冑は脱いでも、黒い制服姿はさすがの威圧感。ちなみに初代の黒騎士は(この世界での)二十年前の私。
更に近衛騎士団長、王宮魔導師長、帝国軍総軍団長。そして宰相。
週に一度の朝の軍議である。
「まずはスクワルタ」
「はっ」
「過日の作戦、この場にて最終報告を」
「結果より御報告申します。五つの村より奴隷83名を手に入れましたが、インコンプリーツと大精霊の奪取はいずれも失敗。貸与頂きました最精鋭部隊の内、近衛騎士の内12名、戦士の8名、宮廷魔道士の7名、大魔導師2名を失いました。申し訳の次第もございません。……ご許可頂いた大規模転移陣の使用制限は、結果的には三往復分が未使用となっております」
斬には悪いが、直接現場指揮を執ったのが最後の一回のみなので、私の傷口は浅くてすんでいる。
それでも最悪、三神将から降格でも文句は言えない大失態だ。
但し。誰が作戦を立案して指揮を取っても同じ事になっただろう。
……と、まさかこれは私の口からは言えないが。
「ふむ、スクワルタ。……作戦が不調であったはなにが原因と考えるか?」
「先日ご報告申しました通り、ラビットビル。……いえ、ユーリ・ウトーを名乗る特異点。これの介入が原因かと」
「法国の召喚した特異点、法国の言うところの“救世主”であったな」
「そのとおりにございます」
「ラビットビル、かほどのものであったとは……。本人であるのは確認できたか?」
「見かけは変わりましたが、私のみならず、斬も確認したところです。間違いなく本人であろうかと……。今は関わらぬのが無難と進言いたします」
「ほかでもないスクワルタが言うのだ、一考に値しよう。……物見は付けておくように手配せよ」
「はっ、……御意に」
あのユーリ君と直接ぶつかる行動を取ったら、多分イベント的にはこちらが悪者になってしまう、と言う感触は間違い無くあった。
ここはゲームの世界、そしてなぜかイベントや設定は彼に味方する。
これは理屈ではない、システムの問題とさえ言える。
「次に魔導師長。魔道力の回復状況はどうか」
「現状は通常の二割程度にございますが、再来週には五割を超えまする。法国が農繁期を終える頃には八割がた戻りましょう」
「総軍団長、その間支え切れそうか?」
「法国の魔道士なら、怖いのは中央の魔導団。言ってしまえば団長一人のみ。あの婆ぁめが出てこなければ、何らの問題もありません」
――あい、わかった。双方よしなに。そう言って皇帝は一旦目を閉じ、深くため息を吐く。
魔導帝国。国の名前がそうなっているのに、今や法国の半分の規模でしか魔導を使えない。理由はイベント先取り作戦で使用した大規模転移陣の乱用であるのは全らか。
むしろあれだけ乱発しても、まだ通常時の二割の規模で戦闘時に魔法が使える。
そのことの方が驚きである。
その浪費の対価は、三人のインコンプリーツと大精霊で埋めるはずだった。
しかし。一人も奪取できないどころか、無所属のはずなのに法国に与するユーリ君。
彼が悠々と全てを持って行ってしまった。
収支は大赤字、と言う次第。
「宰相、法国以外の周辺各国に動きは?」
「は、何処も農繁期にて穏やかなものですが一国だけ、アドメ公国に動きがございます」
「どう言うことか」
「どうやら公王が法国の救世主に興味を持った模様で、彼らの道行きをつけている形跡がございます。但し実際に尾行しているものは確認できておりませんが」
「アドメなら、当面捨て置いてもかまわんのでは?」
イストリパドオアが良く響く声で宰相の言に割って入る。
ただ、アイツの目はそうは言って居ない、むしろ逆だ。
暗黒将軍の二つ名を持つ三神将筆頭、イストリパドオア。
現実世界で中の人は独身の三〇男であることを公言し、チーター(の疑惑をかけられているプレーヤー)として有名だった。
とは言え運営側としても放置していたわけではなく、色々と調べたのだがなにも出てこない。
ただ彼が10連ガチャなんか回そうものなら1/2でレアアイテムかS級の武装が出てきたし、敵のドロップも確率をはるかに超え、出るのも高価なアイテムばかり。
そして極めつけは彼の戦闘中、運営側からは姿がモニターできなくなり、一部ログがトぶ。と言う現象が多発。
ここまであからさまなのに、何一つ証拠になるようなものは出てこなかった。
こうして三神将としてくつわを並べるに至っても、このいけ好かないおっさんは。それについては何も言わない。
ただ、――チーターだからな。というばかり。
現状の見た目はメガネをかけた、ただの線の細いおっさん。
但し、普通に戦っても多分。私よりこのおっさんの方が騎士としては普通に強い。
その上、魔導師でもあり、魔導具を自分で作る道具職人のスキルさえ持つ。
なのに、ことここに至ってなお、チートの技にこだわり続ける。
それが三神将筆頭イストリパドオア、と言う男である。
件のユーリ君は、コイツの狼藉を見かねて現運営に愛想を尽かし、チーターに身をおとした、と言う話さえある。
彼が私に憧れてくれたように。
刹那 斬、彼はユーリ君との一騎打ちを目標にレベルを上げ、技を磨いた。
実はユーリ君の件はその彼がソースだから。
わりあいこの話、真実に近いのかも知れないな、とは思う。
「一応監視はつけるべきではないか? イストリよ」
皇帝はむしろ、イストリパドオアの言いたい事を理解しているようにも見えるが。
「何故そこまで注視なさいます? 皇帝陛下。……必要なら今この時にでも。アドメ程度、一晩で踏み潰すことは十分可能と考えますが」
「胸騒ぎ、としか言い様が無いがな。あの国は気になるのだ」





