バーベキューはなんかおいしい
「二人は下がって!」
木の陰に入った俺と蒲藤を庇うようにリオが槍を構える。
「その槍、武器だったのか」
「え? なんだと思ってたの!?」
――巫女だって言うし、何かの儀式に使う道具なんだと思ってたんだが。
「おまえ……。その槍って、使えるのか?」
「炎の魔道士リオンデュール! 巫女の名にかけ、この槍で二人を守り切る!」
「ちょっと待て、いろいろ待てリオ! 名乗りが全般におかしいだろ! 巫女で魔道士なのになんで槍を構える?」
「それはその、魔法あんまり得意じゃないし、巫女と言っても私は見習いで……」
――去年から槍術も少し習っていて。……ごにょごにょと良く聞こえなくなる。
「それはつまり、魔法も槍も聖気も全部ダメって言う事じゃ……」
「すいません! リオは名乗りを間違えましたっ!」
そう言うと頭の上でぶん! と槍を一回転させ、ちょっとこけながら構える。
「神の巫女にして炎術師、ついでに槍使いのマルチカテゴリ! リオですっ!」
「名乗りを変えたところでモンスターに効くかっ!」
「すいません! 戦の前だというのに、リオは名乗りが控えめでした!」
「まだやるの!? めげない姿勢は買うけどもっ!」
「炎の槍使いにして神に寵愛されし巫女、リオが相手です! 晩ご飯になりたいのなら、かかってきなさい!」
「名乗りだけはやたら強そうになったっ!?」
中身は何一つ変わってないんだが……。
「こう言うのは気合いが大事! ――着火する槍!」
ブン! と槍を振るとその穂先に炎がともり、残像が丸く赤い線を描く。
「おぉ。なんか出たっ! ……えーと、うん。――多分大丈夫。任せて!」
「自分で驚くな! それに、多分。ってなんだよっ!」
不安すぎるわっ!
……いずれコイツに任せるしか無いのだけれど。
槍を頭の上でぐるぐる振り回して赤い円を三つほど頭上に書いた彼女は、
――スチャ。こんどはいかにもな姿で、腰をおとして構える。
「おぉ……? これならやれる! ……かも」
「お前だけが頼りだ、リオ! ――ケガとか、するなよ?」
「ありがとうユウリ。……いざ!」
……そして。
「魔法って便利だな」
「まぁ、私あたりは出来そこない、って言うのも本当だからアレだけど。使えれば便利ではあるよ」
俺達はリオがたたきのめして止めを刺し、切り裂いたワイバーンの肉を、これまたリオの“イグナイト”。と言う呟きだけで着火したたき火にかけていた。
「リオ、喰えるのか? ドラゴンって」
「ワイバーンくらいは普通に。でも種類によっては神様に近いのもあるから、そう言うのは罰当たりになるけどね。でも、ドラゴンって全般においしいんだよ?」
肉の焼ける良い匂いがしてくる。
「塩しかないけど空腹は最高の調味料って言うしね。アリス、焼けたよ? どうぞ」
樺藤は躊躇無く、棒にさした肉の塊を受け取る。腹が空いていたものらしい。
「いただきます。――あち、……え? ……。おい、ひい…………」
美味いのか、ワイバーン。――ところでなんで塩なんか持ってるんだ?
「長旅であるなら食糧は現地調達が基本。トーキョー、で良いの? 事実上十日ほど居たけれど、なかなか獲物が居なくて往生したよ。――はい、ユウリ」
と言う事はそれなりに獲物は居たのか。
……って。ちょっと待て! おまえ。東京で一〇日間、なに食って生きてた!?
「……確かにうめぇや。癖が無い、ザ・肉って感じだ」
「でしょ? ワイバーンはおいしいけど強いから。ごちそうなんだ。……ねぇユーリ、全部は無理だけど、後で燻製作るから手伝って」
アニメや小説で良くある展開なら、俺が料理の腕を振るって見せて
“御主人様、おいしい!”
みたいな展開になったりしそうなものだが。
あいにく俺は料理が出来ない。樺藤もその辺、俺と同類なようだ。
それに多くは見た目の問題ではあるが、リオに“御主人様”。と呼ばれたとして、それはきっと素直には喜べないし。
見た目、髪と目の色以外。声まで完全に妹だもんよ……。
それに。
巻き込んでしまった孤高の美少女、樺藤に俺のこと御主人様って呼ばせる?
人としてそんなの論外だろ、普通に考えて……。
――素敵。お料理が出来るのね。
くらいは言われても良い気がするけれど。
そう言われようにもまずもって、そのお料理が出来ないわけで。
結局、腕も野望も無い以上。お手伝いくらいはしましょうか、と。
「手伝うのは良いが、やり方わかんないから教えてくれ」
「私にも、教え、て……?」
「なぁ、リオ。……王都までは結構遠いのか?」
燻製を作るくらいだ、結構な距離があるんだろうと思う。
単に勿体ない、と言う事かも知れないがな。ごちそうだって言ってたし。
「太陽と星で方角はわかったけれど、ここがどこなのか今のところは全く……」
「明るくなったら先ず、森を抜けられるか見てみよう。方角はわかってんのな?」
「ごめんなさい。……ありがとう」
「礼を言うのはこっちだ。……二度も助けて貰ったんだからな」
「あ……、あの。うん、りおちゃん、ありがと……」
「み、巫女の勤めにしたがったまで。……です。――そうそう、ユーリ。火を消すとオオカミとかモンスターが寄ってくるから、薪を集めて?」
火にくべるのは生木ではダメ。
そんな、言われてみれば当たり前な事さえ、俺も樺藤も知らなかった。
「わかった。――改めて、ありがとうな」
色々言いたい事がないでもないが。リオには感謝しないといけないだろうな。
「ど、どういたしましてっ!」
陶器のような白い顔を真っ赤に染めて、ナイフを持ったリオは横を向いた。





