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桃源郷は事件がいっぱい  作者: 椿 雅香
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エピローグ――大きなサクランボ

11 エピローグ――大きなサクランボ


 翌日の新聞やテレビのニュースで、松浪建設に巨大な蛇、カエル、ナメクジが現れて、代表取締役社長の松浪藤五郎氏が蛇に絡みつかれて屋上から墜落死した、と、報道された。

 この巨大な蛇達を作ったのは、食料増産研究所と名乗るグループのようだが、その正体は不明だとのことだった。

 近くにあるK大農学部の学生グループじゃないかと憶測が飛んだが、そんな研究をしているグループはなかった。

 ただ、この蛇達を食べた生き物が巨大化する恐れがあるのは事実のようなので、研究用に残した蛇、カエル、ナメクジそれぞれ一匹ずつ以外は、速やかに焼却処分された。

 K大農学部の遺伝子研究グループでは、食料増産研究所と名乗るグループが、どういう方法でこれらの蛇達を巨大化したのか解明しようと、研究することになった。



 また、松浪建設については、県警本部に流出したデータに基づいて、あらゆる面での捜査が行われることになった、との報道もあった。


 松浪組の流出データと巨大な蛇達との関係が各方面で議論された。ワイドショーなんかでは、格好の話題ネタだ。

 桃太郎のようなグループが松浪組を倒すために行ったのだと言う人もいれば、両者は無関係で、たまたま時期が重なっただけだと言う人もいた。

 いずれにしろ、藤五郎その人が死んでしまったし、子分達は、巨大蛇や巨大カエルの影響で、正気じゃないのだ。

 気の毒にも、桃源郷の復讐だとか何とか、うわごとのようにつぶやいて、蛇に締め付けられ、カエルに舐められ、ナメクジにはいずり回られた体を狂ったように掻きむしるのだ。

 

 真相は、藪の中だった。 


 松浪組のデータに基づいて捜査を行った県警本部は、組員名簿を使って組員全員を調べ上げた。

 水野氏が松浪建設のデータを県警本部に送る際、中村の名前の後に去年の11月に脱会届の提出があってそれを認めた旨の注書きを加えたので、中村へは警察からの問い合わせがあっただけで終わった。

 

 警察から問い合わせを受けた中村は、いろいろ考えた末、食料難を行き抜くため、農業に生きることにしたので、世話になった松浪親分と円満に別れた、と言った。

 一面に広がるじゃがいも畑を見た警官は、もっともなことだとして、以後、何の連絡もなかった。


 舜は、桃源郷に帰ってから、凛の名前、特に、苗字を変えることを提案した。

 今後、第二、第三の松浪藤五郎が現れないとも限らないのだ。『小野寺』という名は、目立ちすぎるのだ。 


 もっともだということで、凛と舜は、正式に届けを出して、凛は小林姓を名乗ることになった。『小林』の方が、平凡で人目を引きにくいと思われたからだ。 


 そうして、高校に結婚した旨報告した。



 職員室は上を下への大騒ぎだ。タダでさえ食料事情が悪くて生徒達が不安定なのだ。


 刹那的に、どうせ短い命ならやることやって死のうという馬鹿が大勢現れることを心配したのだ。

 

 在校生のほとんどが結婚もしくは同棲するという異常事態が起きて、女生徒の半数以上が産休をとる――もっとも、高校には、産休がないのが救いだった――という無茶苦茶な状況が起きる可能性だってあるのだ。

 

 学校当局の心配ももっともなことと思われたので、凛は、卒業するまで結婚のことは内緒にするという学校側の申し出を受け入れた。ただ、家庭の事情によって名前が変わったと公表したので、周りの生徒達は、凛の両親が離婚したんだろうと勝手に解釈した。親が離婚するなんて、気の毒なことだ。誰も、面と向かって、確認しなかった。

 

 事情を知っている笹岡、片山、大槻の三人は、笑いを堪えるのに苦労した。



 翌年、凛達は、高校三年になった。来年は受験だ。みんなボチボチ受験勉強に精を出し始めた。

 

 初夏の頃、大槻は、凛が第二桃源郷にやって来たのに気がついた。珍しいこともある、と思った。

 凛は、この頃、研究に夢中で、こっちへ来るのは舜だけだったのだ。

 凛は、舜が運転する赤い電気自動車に乗って来た。


 笹岡が目で訊くと、凛は嬉しそうにサクランボの籠を差し出した。


 

 それは、普通の倍はあろうかという大きなサクランボの山だった。


 笹岡が目を剥いた。

「凛、できたの?」

「うん。ちゃんと芋虫さんに食べさせて、大きくならないって確認したんだから」

「何回か、すっごく大きな芋虫になってしまって大変だったんだ」舜がクスクス笑った。「愛美さんは、悲鳴を上げるし、それをつぶそうとした陽一さんも、気持ち悪いって言うし……」


「食べても大丈夫?」

 笹岡が訊いた。

「うん。人体実験だって、ちゃんと済んでるの」

「誰が食べたんだ?」

 大坂が目を剥いた。そんな命知らず、いるのか?

「凛と舜が食べたの」凛が嬉しそうに言う。「凛、背、伸びないかなって思ったんだけど、全然だから、大丈夫みたい」

「あのな、凛。そんな、問題じゃないだろう?」

 片山が頭を抱えた。

  

 四人の前に置かれた。巨大なサクランボは、いかにもおいしそうに見えた。

 全員、目をつぶって、食べてみる。甘酸っぱくておいしかった。


「ただね、種の部分が、大きくなって、ちょっと、大変なんだけど、それは、諦めてもらわないと。質より量だから」凛が、嬉しそうに言った。「で、次のじゃがいもに使えるの。収穫前に作って渡すから、撒いてみて。上手く行けば、倍の収穫量が見込める」


 一つ、一つ、問題をクリアして行くのだ。


  

 第二桃源郷は、二年目に入って、じゃがいもの作付けが終わった。去年より、たくさんの収穫があれば良いと、みんなで頑張っているのだ。


 去年は、手が回らなかった西瓜も植えた。桃や柿や栗やリンゴだって、この春休みにセッセと植えたのだ。


 保存してあった去年のじゃがいもを食べる第二桃源郷の面々の前に桃源郷から差し入れがあった。

 米のおにぎりと魚や肉のおかずだ。

 良介も里奈も大喜びだ。


 笹岡の母が、ピシャリと言った。


「二人とも、作業が終わってからです。ちゃんと、仕事しないと、あげませんよ」

 



 中村が武彦の家族を受け入れたのは、妹の真美に好意を持ったからのようだった。舜と凛を見ていて、真美が中村好みに育つことを期待したのだ。


 

 第二桃源郷の良介が、中村の思惑に気が付いて、片山に相談した。危機を感じたのだ。


「中村さん、真美に気があるみたいだ。とんでもないことだと思わない?」

「別に、良いんじゃないか?」

 片山にとっては、他人事だ。

「駄目だ。年の差がありすぎる。中村さんは舜さんと同じだから、二十二歳だし、真美は十二だ」

「十ぐらい、良いんじゃないか?中村さんが六十になった時、真美ちゃんは五十ってことだ。変なことじゃない」

「ボクが困るんだ」

「どうして?」

「凛さんと舜さん、サカさんとヨーコさん、姉貴と翔さんが、ペアリングしてるんだ。中村さんが真美とペアリングしたら、ボクの相手がいなくなる!」


 片山が絶句した。

 しばらくして、唾を呑み込んで叫んだ。


「俺は、マキとは何でもないんだ!勝手にペアリングするな!」

「じゃあ、中村さんに、姉貴とペアリングするよう頼んでも良いよね?」

 言葉に詰まった片山が、目を白黒させて怒鳴った。

「俺に、どうしろって言うんだ?」

「ボクは、真美さえ手に入れば良いんだ。じゃないと、ボクだけあぶれてしまう」

「勝手にあぶれろ!武彦はどうなる?」

「里奈がいる。中村さんが姉貴をものにしてくれたら、ボクは真美をゲットできるんだ!」

「そうなったら、俺が真美をとってやる!」


 作業を終わって、大坂といちゃつきながら帰ってきた大槻が、笑いながら良介に言った。


「良介くん。馬鹿ね。マキと翔は、両想いなのよ。

 二人とも気が付いてないだけなのよ。

 あんた、そんなに真美ちゃんが欲しいなら、さっさと唾付けてらっしゃい。早い者勝ちなんだから」

「中村さん、もう唾付けたかもしれねえな」

 大坂が面白そうに言う。


「俺は、マキと、何でもないんだ!」

「そんな、もう唾付けたなんて!」

 片山と良介が、同時に叫んだ。


「何騒いでるの?」

 遅れて来た笹岡が、不思議そうに訊いた。

 



                                    完

長らく読んでいただいて、ありがとうございました。

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