四人組(2)
大槻燿子が桃源郷に招待されたのは、暮れが押し迫る12月30日だった。
クリスマスが終わって大坂が町へ帰ったので、入れ替わりに招待されたのだ。
大掃除を手伝って、そのままお正月も過ごしたら良いと言われて、大槻は大喜びだ。
凛は、大槻のことを思い出した。同じクラスで隣の席の子だ。
凛の弁当を毎日見せつけられたせいで、切れて凛を睨みつけた子だ。
「凛、ヨーコ知ってるでしょ?第二桃源郷、一緒にやることになったの」
今さら紹介するのもおかしな話だが、第二桃源郷のメンバーとして、笹岡が改めて紹介した。
「その節はごめんなさい。この度は、お世話になりますって、言わないといけないのかしら。
でも、あれは、仕方がなかったのよ。みんな気が立ってたし」
凛には、大槻の理屈が分からない。
でも、自信満々で言うのだ。町の普通の高校生の価値観では、そういうことになるのだろう。
笹岡によれば、この自信過剰なところが大槻の良いところでもあり、悪いところでもあるのだという。
何と答えれば良いのか分からないので黙り込んでいると、大槻が平然と言った。
「ねえ、あなたの許嫁に紹介してくれない?前に一度、見たことあるんだけど、すっごく良い男だった」
笹岡が割って入った。
「あんたねえ、初めての挨拶で、そこまで言う?」
「だって、マキは、片山くんとできちゃったんでしょ?この頃、二人して、翔、マキって呼びあって、良いムードだってもっぱらの噂よ」
「大槻!噂流してるの。お前だろうが!」
「でも、私以外も、みんな言ってるわ。だ、か、ら、小野寺さんの彼氏、もらっちゃおうかと思って……」
「残念でした。もうとっくに、くっついちゃったわ」
笹岡がやけくそになって言った。
「どういう意味?」
「この子、結婚しちゃったの」
「誰と?」
「その許嫁さんと」
「うっそー。ひどいわ!良い男が、また減ったじゃない。マキ、あんたが片山くんものにしたこと自体許せなかったのに」
「だから、俺達は、何でもないんだ!」
「ほら、ムキになるのが、あやしいんだから」
「「無茶苦茶だ!」」
笹岡と片山が頭を抱えた。
凛は、何も言えずに、この人の勢いに押されていた。
後から肩をたたかれて、振り返ると、舜が立っていた。
凛が、嬉しそうに微笑んだ。
「大槻さん?」
舜が訊いた。
「そうです。っていうか、本当ですか?」
「何が?」
「小野寺さんと結婚したって。今、マキから聞いたんです」
「そうだよ。別におかしなことでも何でもないでしょ?小さい頃から一緒だったから、ついでに同じ部屋に住むことにしたんだ」
舜が嬉しそうに凛を抱きすくめたので、さすがの大槻も絶句した。
呆然として笹岡を見る。
笹岡が平然とレクチャーした。
「ここは、桃源郷なのよ。普通の世界と違うの。いちいち気にしてたら、生きてけないの」
横で、片山が頭を抱えた。
おかしなのが、また増えたようだ。
片山は、大槻を交ぜたことを密かに後悔した。
正月3日、大槻を含む第二桃源郷グループは、候補地に出向いた。大坂が、トラクターで地面を耕している予定だったのだ。
土地は、ほとんど起こされて、地面から鰯の頭や骨が覗いていた。
鰯の頭も信心からと言うが、この場合、骨粉代わりに、もろ魚の骨を埋めたのだ。
「水野さんが、持って来てくれたんだ。身の方は食べても良いけど内蔵や骨や頭は埋めろって、中原さんの指示なんだ。
少し臭うけど、仕方がない。このぐらいしないと、長いこと放ったらかしだったから、地味が痩せてるんだそうだ」
中原夫人に教えられたことをそのまま言う。
「サカ、この近くに住むって本当なの?」
笹岡が訊いた。
「ああ。そこの道、下った所に、詐欺まがいな分譲地があっただろ?
水も電気も来てないのに売りに出してるとこ。
あそこ、買ってもらった。
ログハウスでも建てて近所に住まないと、作業効率も悪いし、できたものを盗まれるからな」
「ウチもあそこに引っ越そうかって話になってるんだけど、サカが一区画買ったってことは、急がないと」
笹岡が慌てた。
「同じく」と、片山。
「じゃあ、ウチも引っ越してもらうわ」
大槻も言った。
大坂は、初めて大槻に気が付いて、その美しさに圧倒された。
「サカ、紹介するね。大槻燿子。今度、私と翔の取り分を分けてグループに参加することになったの」
笹岡が紹介した。
「俺は、小坂一平。通称『サカ』だ。
大槻さん。人類は滅ぶんだ。少なくとも、人口は激減する。
俺の女になってくれないか?マキと翔とはワンペアだし、凛と舜もワンペアだ。
俺だけ、仲間はずれで寂しい思いをしてたんだ」
「面白い人ね。でも、他に男がいなくなるって、本当にそう思ってるの?」
「多分、桃源郷以外では、生活できなくなる。俺達三人は、第二桃源郷を作ることで、何とか生き延びようと思ってるんだ。
そのうち、凛が何とかしてくれるかもしれない。
でも、何とかならなくても、ここにいれば、他の地域より人間らしい暮らしができるはずだ。
ただ、ここにいるのは、マキと翔のペアと俺とあんただけだろ?ペアリングしないと、やってられない」
「鳥か動物と一緒にするな!大体、俺とマキは、ペアリングしているわけじゃないんだ!」
片山が、やけくそになって喚いた。
どいつもこいつも、俺達をくっつけようとする。っていうか、くっついてるって思ってる。理不尽だ。
大槻が頷いた。
「面白そうね。じゃあ、当面、その線で行きましょうか?
でも、マキと片山くんが別れたら、私、片山くんに立候補したいんだけど……それでも良い?
まさか、マキの相手を取るわけにもいかないし」
「だから、俺達、何でもないんだ!」
片山が叫んだが、誰も聞いていなかった。




