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桃源郷は事件がいっぱい  作者: 椿 雅香
3/38

第二桃源郷創設計画(3)



 台風で家が水没したため桃源郷に避難した凛の友人の笹岡真紀子(通称『マキ』)と片山 翔(通称『翔』)は、成り行き上、戦いの助っ人となった。


 片山は、決死の覚悟で戦闘に加わった。仕方がないことだった。

 思いを寄せる凛でさえ、戦闘要員として戦うのだ。男の片山が逃げるわけにはいかなかったのだ。

 しかし、片山の予想に反し、戦闘は桃源郷側の一方的な勝利に終わり、二人は桃源郷の功労者となった。

 信じられないことに、桃源郷側には、負傷者さえ出なかったのだ。


 

 安堵の息を吐く片山に、笹岡が言った。

「これ以上、桃源郷のお世話になれないわ。水が引いたら、家に帰る」

 片山の目が点になった。




 先の台風で、堤防が決壊したため、町の3分の1は水没し、3分の2は一階部分が浸水していた。

 ようやく学校付近の水が引いて、校舎の清掃をするので登校するように、と、連絡があったばかりだ。町の中心部の港付近は、まだ、完璧に水が引いていない。床下浸水状態だ。


 それも当然かも知れなかった。近年の海面の上昇は、目覚ましいものがある。

 臨海地域の人々は、オランダの干拓地帯にあるような堤防を造り、その中で暮らしていたのだ。生活排水などの下水は、ポンプアップして、海に流していた。当然、地面は海面より数十センチ、下手すると1メートル以上低い。ゼロメートル地帯どころか、マイナスメートル地帯だ。


 台風の影響で堤防が決壊すると、上流から流れて来る水と海から押し寄せる水――高潮で通常より水位が高い――が、低い土地に集まって、地域全体が水没するという、とんでもないことが、日本中、いや、世界中で起きていたのだ。


 今回の台風で、堤防が決壊したので、堤防を修復して海水をポンプでくみ出すのに、十日かかった。


 笹岡家も片山家も町の中心部にあったから、屋根の一部を除いて水没した。

 やっと、家の大部分が露出したので、両家は、避難所の城山中腹の市民体育館に寝泊まりしながら、家の掃除や消毒、それに、修理を始めることになったのだ。


 

 家の清掃作業が始まろうかという時、笹岡は、とんでもない事実に気が付いた。



 そもそも桃源郷の食料は、当初の住人である15人を前提としている。

 余剰を備蓄に回したり、都会に暮らす第二世代の面々に送っていたのだ。

 今、第二世代5人が合流した。総員20名になったのだ。

 食料にどのくらいのゆとりがあるのか、微妙なところだった。しかも、慎二は裕美と、陽一は愛美と結婚したのだ。子供が生まれる可能性だってある。更に、人口が増えるのだ。


 余所者の自分達に分けるほど、食料に余裕がないのじゃないか、と思えた。


 凛は、すったもんだのあげく幼い頃から許嫁だった小林 舜の元へ引っ越しした。

 凛に好意を寄せる片山はジタバタしたが、戦闘の後で、舜は、当然のような顔をして凛をもらってしまったのだ。

 

 これを結婚と呼ぶかどうかは別として、親同士も目出度いことだと納得しているのだ。


 高校生が結婚するなんて風紀上よろしくない!と叫ぶ片山の抗議は、無視された。


 ここでも、子供が生まれたら、完全に笹岡達の居場所がなくなってしまうのだ。


 しかし、凛は冷静だった。食料の生産量から考えて、自分が子供産むのは、食料増産の研究(彼女は桃源郷の食料を倍以上にする研究をしていた)が完成したズッと後になるというのだ。


 その台詞は、片山を安心させたが、笹岡は、桃源郷の食料事情が予想よりはるかに逼迫していると感じた。

 

 彼女は苦悩した。

 桃源郷との別れは、凛や舜との別れだけでなく、食料との別れも意味していたのだ。


 しかし、桃源郷側の事情を考えれば、甘えてばかりもいられない。

 小小野寺博士(凛の父)は、困ったことがあったら、いつでもおいで、と言ってくれたのだ。

 桃源郷は、本当に困ったときだけお世話になる場所としてキープして、自分は『いるべき場所』へ帰ろう、と決意した。




 ここに、第二桃源郷の創設を目論む笹岡と片山の戦いが始まった。






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