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桃源郷は事件がいっぱい  作者: 椿 雅香
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第二桃源郷(1)

7 第二桃源郷 


 「じゃあ、大坂さんは、マキや片山くんと組んで、この土地を使えるようにしたら良い」

「水を作って何とかするって言っても、大変なんだろ?」

「うん。楽じゃないと思う」

「だったら、売っぱらいたい」

「じゃあ、舜に頼んで、買ってもらおうか?でも、そしたら、ここでマキ達が成功しても、大坂さん、食べ物にありつけないんだよ」

 凛が簡単に言うので、大坂も笹岡も片山も唖然とした。


 「前にね、舜が、マキ達のバックアップするって約束してくれたの。だから、土地買ってって頼めば良いの。大坂さん、どっちが良い?」

「あのな、凛。土地だぞ、土地。十円、二十円の駄菓子じゃないんだぞ」


 片山が常識的な疑問を口にしている間に、大坂は真面目に悩んだ。


 この荒れ地を耕作するのは、容易じゃないだろう。

 しかし、桃源郷も、こんな土地だったという。

 今、この土地を売って、現金を得たとしても、それがなくなれば――しかも、それは、あっという間になくなるだろう――食べ物と縁が切れるのだ。一番良いのは、笹岡達がここを耕して、できた収穫物を奪うことだが、桃源郷が許さないだろう。


 笹岡が大坂の心を見透かすように言った。

「もしかして、大坂さん、私達にやらせて、できたものだけ奪おうって考えてない?」

 絶句した。

「あなたの心を読んだわけじゃないの。でも、あなた達、大村製麺でも、五人殺してるでしょ?

 そんな人が、素直に働こうって気になるとは、思えなかったの」

「で、そうだと言ったら、どうするつもりだ?」

「別に。こっちが気を付けてれば良いだけだし……片山くんには、格闘技の稽古に励んでもらわないといけないけど、それだって、本格的な収穫があるのは、来年の秋よ。それまでには、そこそこ格好がついてるはずよ。それに……」

「それに?」

「多分、桃源郷が許さない。そんなことしたら、あなた、殺される」

「とうしろに、俺を殺すことなんかできねえ!」

「素人じゃないって言ったら?」

「プロなのか?」

「プロの探偵もいれば、戦闘のプロもいる。プロのスナイパーもいるし、ハッカーだっている。 あんたがどこに潜伏しようが、息の根を止めるまで狙うと思うわ」

「お前達のためにそこまでするか?」

「だって、私達、桃源郷の功労者ですもの。私達のために最大限の配慮をするって約束してもらってるんだから」

「そうだ。小野寺博士がそう言ってくれた」

 やっと話に交じることができた片山が口を出す。


「凛も、そうなると思う」

 凛まで同調した。

 頼りないヤツだが、何てたって、桃源郷の住人なのだ。大坂の心は乱れた。

 

 もし、耕作に励むなら、中村と活動できなくなる。そのぐらい、大変な仕事のように思えた。

 大坂は、中村の気っ風のよさが好きだった。中村と別れるのは、辛いことだった。

 

 でも、ここで、この土地を手放したら、もう二度と、耕作に適した土地は手に入らないだろう。しかも、この土地を耕作に適した土地に生まれ変わらせることができるのは、桃源郷の関係者しかいないような気がした。


 ここは、笹岡や片山と組んで、ここを農地として再生した方が良いのかもしれない。その方が、この食料難で生き残れるような気がした。というより、それしか生き残る道はないように思えた。


「その海水淡水化装置、できたのか?」

「工務店のおじさんが、売ってくれれば、良いんだけど……」

 笹岡が口ごもる。

「マキ、あれって、いくらぐらいするの?」

 

 笹岡がスマホの検索結果を説明すると、凛が言った。

「そのぐらいなら、舜が何とかしてくれる。スマホで。舜に頼んでみるから」

「スマホって、お前、持ってるのか?」

「うん。いっつも、持ってるようにって言われてるの」

「でも、さっき、俺がお前達を連れて来た時、お前、そんなもん持ってなかったぞ」


 笹岡も思いだした。

 簡単なボディチェックがあったのだ。

 それで、武器になるかも知れないからと、ボールペンを取られたのだ。凛と笹岡のボールペンは、本当に武器だった。ボールペン型のスタンガンだったのだ。



 凛が真っ青になった。

「どうしたの?」と、笹岡。

「図書室に忘れて来ちゃった。どうしよう。健二さんに怒られる。陽一さんに怒鳴られる。舜に叱られる」

 可哀想なほど、しおれている。

「とりあえず、私のスマホ貸すから、舜さんに電話したら?」

「何て?」

「例の貯水槽のお金出してもらえるかどうかって。それで、大坂さんが納得すれば、交渉成立で、私達と組むことになるわ」

「どういうことだ?」

 片山には、まだ分からない。

「あんたって、ほんとに、学校のお勉強しか分からないのね。馬っ鹿じゃない?

 私達が組むことになれば、ここを三人で耕作して、できたものを三人で分けることになるの!

 それで良いでしょ?大坂さん」

「でも、そんなことしなくても、別の土地を買った方が、取り分が多い」

「ケチ!大坂さんと一緒の方が、変なヤツ等が襲いに来ないの!

 しかも、土地はここにあるの。これを利用しないで、新しい土地を買うなんて、無駄じゃない!

 それだって、この頃のご時世で、馬鹿みたいに高くなってるのよ」

「でも、大坂と組むのは、猛獣対策に毒蛇を飼うようなものだぞ」

「笹岡、お前、頭良いな。毒をもって毒を制すってか?

 分かった。ここが畑になるなら、俺もお前達と組む。水は、お前達で何とかしてくれるんだな」

 大坂が念を押した。

「もちろんよ。桃源郷が駄目なら、ウチと片山くんの親に出させるわ。第一、大坂さんのお父さんが、ここの土地買うのにお金出してくれたんだから、そのぐらい当然でしょ?」


 笹岡が胸を張った。

 

 じゃあ、交渉成立と言うことで、縛っているロープをほどいてくれない?

 笹岡が言うのに、大坂が躊躇した。逃げないか?と言うのだ。


「第二桃源郷にぴったりの土地があるのに、どうして逃げるのよ」

 笹岡の言に、大坂は、三人のロープをほどいた。


 6時を回っているのだ。辺りは暗くなっていた。それでも、四人は、海までの距離を確認したり、土地の様子を調べたりした。

 途中で、大坂が、子分達を交ぜても良いか?と、訊いた。構わないけど、三分の一って、取り分は、変わらないけど、それでも良い?笹岡が交渉し、片山は絶句した。


 女は、たくましい。ヤクザと対等に交渉するのだ。



 凛は、桃源郷に連絡するのも忘れて、この土地を第二桃源郷にすべく調べ回っている。


 桃源郷は、凛の両親が中心になって作った。凛は幼かったから、何の関与もしなかった。

 でも、笹岡達が第二桃源郷を作るのだ。今回は、凛が手伝うことになる。

 凛にとって、魅力的なことだった。



 大坂のスマホが鳴って、メールが届いた。

 中村からだ。


 メールを読んだ大坂が、蒼白になった。

「どうしたの?」

 笹岡が訊いた。

「忘れてた。とんでもないことになってる」

 大坂が頭を抱えた。 

 メールを見た笹岡が、平然と言った。

「大丈夫。私達が無事なら、桃源郷は、絶対、危害は加えない。まして、仲間になったのよ」

「でも、中村さん、どうして桃源郷のために動くんだろう?」

「上に立つ人には、深い考えがあるものなのよ」







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