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桃源郷は事件がいっぱい  作者: 椿 雅香
23/38

失踪(1)

6  失踪


 桃源郷と付き合い始めてから、笹岡は、地球温暖化や人類の行く末について考えるようになった。

 テレビや新聞で、地球温暖化の特集をしていると、努めて見たり読んだりする。


 その日のテレビでは、温暖化対策のためにバイオ燃料の利用を進めるという話をしていた。


 笹岡には、よく分からなかった。


 確かに、バイオ燃料を使う方が、化石燃料を使って車を動かすより二酸化炭素の排出は少ない。でも、そのバイオ燃料を作るために、アマゾンで焼き畑をしたり、畑の近くに工場を建てたりしているのだ。

 環境破壊という意味では、化石燃料と大して変わらないのじゃないだろうか?

 しかも、バイオ燃料のせいで、食料不足が深刻化しているのだ。

 食料不足の影響で、いろんな食料が値上がりしたが、その中で、バイオ燃料の原料となるものは、目を剥くほどの値上がりを見た。

 車を動かすために食料を燃料にして、人々が餓死するのだ。本末転倒も良いところだ。

 車は、生活を豊かにする道具だったはずだ。車のために、食べ物を燃料にするは、間違っているんじゃないだろうか。食べ物を軽視して、何が面白いのだろう。

 

 そもそも、車って、どこまで必要なんだろう。必要最小限のもの以外、車なんかなくても良いんじゃないか、とさえ思えた。

 確かに、消防自動車、救急車、パトカーなんかの緊急車は、必要だろう。でも、物流のための車って、果たして、こんなに必要なんだろうか。


 もし、人々が、住んでいる場所の近くでできたものだけ食べるようにすれば、運送にかかる燃料が要らなくなる。


 わざわざ遠い所で育てた作物を貴重な化石燃料を使って、しかも、二酸化炭素を排出させてまで運ぶ必要はないのじゃないだろうか。

 

 そもそも、年中、トマトやピーマンを売っていることが異常なのだ。

 トマトやピーマンは夏野菜だ。冬にトマトやピーマンを作ると、そのためのハウス設備が必要になり、ハウスを温めるための燃料が要る。その上、できた作物を日本中に運ぶには、物流という意味での燃料が要るのだ。

 しかも、最近は、産地が国内に限定されていない。外国で作ったものを貴重な燃料を使って運搬しているのだ。

 そこまでして、運ばなければならないのだろうか。

 確かに、国内の大規模な産地の作物は安くておいしいし、海外の作物は安い。

 でも、それは、賃金格差の反映でもあるし、営農規模の格差の反映でもあるのだ。

 日本中、或いは世界中の人々の賃金が同じなら、つまり、同じ仕事をすると同じ賃金をもらえるならば、物流はこんなにも必要とされないだろう。

 物流は、貧しさを利用して儲けを上げるという一面があるんじゃないだろうか。

 田舎の安い賃金を利用した作物を都会で売ったり、外国の安い賃金を利用した作物を国内で売るためには、それを運ぶ燃料が必要になる。

 営農規模に至っては、我が国の農業は、諸外国の大規模農業に立ち向かうことなんか、無理な相談だ。

 でも、無理だからといって諦めると、耕作放棄に通じるのだ。

 

 かっては、豊かな田畑だった土地が耕作放棄されて、草ぼうぼうになっている。

 国土の荒廃という意味で、異常だった。そんな罰当たりなことをしたから、食料が不足するのだ。

 食料の海外依存が増えると、産地が打撃を受けると、もろ影響を受ける。

 それが、今日の状況だった。


 無事に諸外国から輸入できたとしても、それを運ぶための燃料が要る。つまり、二酸化炭素が排出され、将来の危険を増長するのだ。

 それぞれの地域なり国で経済を完結させると、儲けが少ないから面白くないかもしれない。

 でも、少なくとも物流にかかる燃料が減るのだ。


 どこかの国や地域でしかとれない作物を、無理して他の国や地域で食べなくても良いのだ。

 例えば、西瓜だ。日本中の西瓜が時期をずらして、夏中、西瓜が売られている。下手すると、春先から秋口まで、九州から東北までの西瓜が順番に出回るのだ。もし、住んでる地域のものしか食べられなかったら、あっという間に西瓜は八百屋から消えるだろう。

 でも、夏中、西瓜があるという恵まれた状況にするために必要な燃料を考えたら、そこまでする必要があるのだろうか。

 バナナは、安く手に入る果物だ。運送にかかる費用を支払っても、なお安い。

 生産者の所得は、どうなっているのだろう。プランテーションで労働を搾取して、搬送に貴重な燃料を使い、二酸化炭素を排出させているのだ。

 そもそも、熱帯果実のバナナを日本で食べようとするのが、おかしいのだ。


 消費する燃料を勘案して、人々がほどほどで満足すれば、つまり、西瓜を時期はずれに求めたり、熱帯果実のバナナを日本で求めたりするのをやめれば、地球温暖化も進まないのだ。


 でも、大人達は、そう思わない。冬に西瓜を食べたり、日本でバナナやパイナップルを食べたりすることを『豊か』だと断じるのだ。


 転がり始めた石が、加速して落ちて行くように、温暖化のスピードが進んでいるように思えた。

 便利なこと、快適なこと、利益を得ることに慣れた人類は、ひたすら転がり落ちて行くのだ。

 その先が、崖になっているのに。



 笹岡は、昼休みに、凛や片山と技術家庭科室で弁当を食べる。本当は校庭で食べたいのだが、12月にもなると寒くて、外では無理なのだ。

 このところ、水野夫人は、笹岡や片山にまで弁当を作ってくれる。食べながら、海水淡水化装置について相談するのが、日課になっている。


 校内では、凛と一緒に、まともな弁当を食べる二人に羨望の眼差しが向けられた。


 しかし、いつも三人で行動しているおかげで、笹岡と片山は、大槻燿子を始めとする周りの生徒達から、疑わしい目で見られた。

 凛に舜がいるのは、校内でも有名だったのだ。


「俺は、笹岡とは、何でもないんだ!」という片山の叫びは無視された。

「このままじゃ、私、彼氏できなくなっちゃう」という笹岡のぼやきも無視された。


 この頃では、二人とも諦めて、周りが誤解するに任せている。


 凛は、海水淡水化装置の工夫を楽しんでいる。

 桃源郷では、食料増産の研究で頭が痛い。でも、昼休み、三人で海水淡水化装置のことを話し合うのは、楽しかった。


 大小野寺博士の発明した装置は素晴らしい。でも、高度な技術を要するし、値段が高すぎるのだ。

 三人は、高校生が夏休みの宿題として作る程度のレベルと価格にしたいのだ。



 「オール電化でお湯を貯めるタンクは使えないかな?」

 卵焼きを頬張りながら、片山が言った。

「無理だよ。あれって、そんなに大きくないよ。せいぜい、460Lだって書いてある」

 笹岡が駄目出しした。魚の照り焼きを食べながら、スマホで検索をかけている。

「それって、どんなものなの?」

 その機械を知らない凛が、リンゴのウサギをかじりながら訊いた。

「このぐらいのタンクなんだ。隅っこに蛇口がついてて……」

「何せ、もっと大きなものが要るわ。生活用水だけじゃなく、田んぼや畑にも使うんだから」

「じゃあ、どんなもんが良いんだ?」

「う~ん。分かんない」

「無責任なヤツ!」

「う~ん。じゃあ~、今日、探しに行かない?」

「探しに行くって?」

「町歩いて、使えそうなものを探すのよ」

 

 凛と一緒に町を歩けるのだ。笹岡は邪魔だけど、デートのようなものだ。片山の心が動いた。


 「それで行こう。凛、7時までだったら、良いだろ?」

「うん。良いよ」

 凛が嬉しそうに頷いた。


 凛は、いつも車で送り迎えしてもらっているから、町を歩くことは滅多にない。笹岡が気が付いて、ついでに、遊ぼうよ、と誘った。



だんだん笹岡と片山の距離が近づいてきます。本人達の意思にかかわらず。(笑)

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