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桃源郷は事件がいっぱい  作者: 椿 雅香
19/38

良介(5)

 



 戦いの余韻を残して、祝勝会は独特の雰囲気がある。

 陽一が事情聴取を終わって帰ってくる前から、桃源では、第一世代、第二世代それにゲストの皆さんが盛り上がった。


 今回は、新兵器の照明弾が良かった。と、誰からともなく賞賛した。サーチライトを使うと、貴重な電気が消費されるのだ。なるべく、電気を使いたくない桃源郷には、ぴったりの武器だった。

 これは、小野寺夫人の手作りのもので、陽一の依頼を受けた夫人は、本来の研究を後回しにして最優先で作ったのだ。

 祝勝会に現れた小野寺夫人は、今回の功労者として、大小野寺博士からのお褒めの言葉と、夫の小小野寺博士からのご褒美のキスがあった。


 片山と小林先生の使った栗のイガは効果的で、ドローンで撒いた柊の葉っぱとともに、桃源郷の武器として登録されることとなった。自然に優しい、後始末の要らない武器なのに、相手方陣営に与えるダメージはライフルに匹敵するのだ。

 これを考えたのは、裕美、愛美の中原姉妹で、二人に対し、大小野寺博士からお褒めの言葉があった。こちらは、後ほど、それぞれの夫である慎二と陽一から、ご褒美のキスがあると発表され、やんやの喝采だった。


 良介と里奈は、祝勝会の席をあっちこっちウロウロして、いろいろ食べていたが、あまり楽しくない。

 大人の時間なのだ。姉の真紀子に、二人とも、部屋に戻って寝なさい、と言われたが、それに従うのも面白くない。

 愛美は、リビングの隅に座って盗聴器と格闘していたが、事情聴取が終わった陽一が帰って来ると、適当に飲み食いした健二と交代した。



 良介が気付いた時、凛は、食堂から消えていた。

 片山も、同じことに気が付いたのだろう。面白くなさそうに、文句を言い始めた。

 彼は、風呂に入って人心地ついたのだろう。ましてや、今日の活躍を褒められて、悪い気はしない。笹岡の隣に座って、気分良く食べていたのだ。

 それが、急に機嫌が悪くなったのだ。

 良介の姉の笹岡真紀子が、

「凛、疲れてたから、舜さんが寝かせにいったのよ」と、なだめた。

「あのな、笹岡。保育園児じゃないんだ。単に、寝かすだけじゃ、終わらないだろうが」

 片山は、酒も飲んでないのに、絡んでいる。


 こいつ、こんなヤツだったんだ。と、良介は思った。

 でも、姉が言う通り、凛が『お子さま』だと言うのは、同感だった。でも、凛は、ライフルなんか使うのだ。それで、お子さまでも、戦力になるのだ。


 良介は、凛が姉の同級生だと言うことを完全に忘れていた。それほど、凛の見た目は、幼かった。



 食堂の隅にライフルが四丁立てかけてある。あれが、戦闘要員と子供と分けるのだ。黒光りするそれは、いかにも一人前の明かしだった。


 良介は、ライフルに手を伸ばした。ヒヤリとした金属の感触があった。戦いの余韻を残し、火薬の匂いが残っている。これを使えば、戦闘要員だ。迷彩服を着て、みんなと一緒に戦えるのだ。


 「お前、何、触ってるんだ?」

 山道氏が鋭い声が飛んだ。

「ボクにも使えるんじゃないかって」

 離さない。離したら、お子さまだ。

「お前なんかに、使えない」

 陽一が割って入った。

「凛だって、子供なのに使ってるじゃないか!」

「馬鹿か?凛ちゃんは、小さい時から、練習してるんだ」

 ボサボサ頭の水野氏が横から口を挟んだ。

「あの子は、バレーボールは下手だが、射撃と水泳と山歩きは、上手なんだ」

「バレーボールが下手は、余計だ」

 中原氏が苦笑いする。

「渡すんだ」

 山道氏が手を出す。

「嫌だ。ボクも使えるって、見せてやるんだ」

「初めて持ったヤツに、使える道具じゃねえ!」

 陽一がすごんだ。

「僕はこっちへ来てから練習してるけど、全然上手くなれないんだ。難しい道具なんだ」

 慎二も真面目に言う。

「ボクが一人前だって、認めてくれないと、離さない」

「良介、お前、テロリストみたいな理屈だな」

 片山が寄って来た。

「翔くん、あっちへ行ってなさい。怪我するかもしれない」

 中原氏が片山を退ける。



 裕美や愛美、笹岡や里奈それに第一世代の女達を、さりげなく、男達がかばう。


 良介は面白くない。

 凛がライフルを担いでいた時は、みんな、気にもしないで近寄っていた。自分がライフルを持つと、女を守って、男が命がけみたいな顔で、ライフルを渡すよう要求するのだ。


 一度、使って見せれば良いのだ。こうやって、安全装置を外して……小さい頃、おもちゃの銃で遊んだじゃないか。

 それと、どう違うのだ?


「そこを触るんじゃねえ!」

 山道氏が叫んだ。 





 凛は、ベッドの縁に座った。


「ありがとう。凛、一人で寝れるから、舜、向こう行って良いから」

「君が寝るまで、ここにいよう。

 今日は、よく頑張ったね。大坂を投げ飛ばしたのは、エラかった。山道のおばさん、褒めてたよ。上手に投げれたって」

「舜が……助けてくれたから」

「本当は、君を戦闘に出したくないんだ。君を失うと、桃源郷の明日もない」

「……そんなことない」

「寝なさい。疲れただろう」

「うん」

「良介くん達のことは、気にするな」

「気が付いた?」

「うん。こっちへ着いた時の君は、大坂に襲われたショックは、おさまってたんだ。でも、良介くん達に会ったら、固まった」

「……」

「君が思い悩むことじゃないんだ」

「でも……」

「良介くんや里奈ちゃんのことで悩むのは、マキちゃんのお母さんの仕事だ。あの人は、自分の仕事だからジタバタしたんだ。

 それが、君をどんなに苦しめることになるのか、考えもしないで」

「でも、凛が、できないから……凛が食料を倍増できれば、マキのお家の人も片山くんのお家の人もここに来れるのに」

「他人に頼ることしか考えない人達だ。ここへ来ても役に立たない」

「……そうかな」

「そうだ。親子だけど、マキちゃんとは全然違う」

 凛が寂しそうに息を吐いた。

「考えないことだ。何も考えないで、ゆっくり眠りなさい」

 凛がコクリと頷いた。

「凛が寝たら、お酒飲みに行ってね」

「?」

「舜、お酒好きみたいだから」

「じゃあ、そうさせてもらおうか。でも、君が眠ってくれないと、心配で、酒なんか飲んでられない」

 凛が、小さく笑って、舜の手を握る。そっと握り返すと、安心したように眠りに落ちた。


 

 可哀想に。怖かったのだろう。

 この人を戦場に伴いたくないのに。

 桃源郷の力不足だった。





 不気味な発射音があって、冷たい風が走った。

 反動でよろめいた良介は、後から羽交い締めにされた。


「舜、お前が来てくれて、助かった」

 小林先生が安堵の息を吐いた。


 山道氏が、ゆっくりとライフルを取りあげる。


 中原氏の頬を血が流れるのが見えた。


 「大丈夫ですか?」

 舜の声が背中に聞こえた。

「ああ、かすっただけだ。君が、もう少し早かったら、完璧だったんだが」

 中原氏がニコリと笑い、夫人や裕美、愛美の姉妹が氏に抱きつくのが見えた。


 山道氏が、良介の頬を思い切り殴った。

「馬鹿野郎!遊びじゃねえんだ!お前、中学にもなって、何やってるんだ!」

 頬の痛みが体中に広がった。

「凛は……凛は、子供のくせに、戦闘要員やってるじゃないか!何で、ボクは駄目なんだ?」

 号泣した。


 良介を羽交い締めにしていた舜が、良介の体を反転させて言った。

「凛は子供じゃない。あの人は、人類みんなの命を守るために、小野寺博士達と研究をしてるんだ。

 本当は、あの人を戦闘に出したくないんだ。ただ、あの人はライフルの名手だから、戦闘には、あの人が必要なんだ」


 ライフルの名手?あいつが?

 良介は、足の震えが止まらなかった。





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