良介(5)
戦いの余韻を残して、祝勝会は独特の雰囲気がある。
陽一が事情聴取を終わって帰ってくる前から、桃源では、第一世代、第二世代それにゲストの皆さんが盛り上がった。
今回は、新兵器の照明弾が良かった。と、誰からともなく賞賛した。サーチライトを使うと、貴重な電気が消費されるのだ。なるべく、電気を使いたくない桃源郷には、ぴったりの武器だった。
これは、小野寺夫人の手作りのもので、陽一の依頼を受けた夫人は、本来の研究を後回しにして最優先で作ったのだ。
祝勝会に現れた小野寺夫人は、今回の功労者として、大小野寺博士からのお褒めの言葉と、夫の小小野寺博士からのご褒美のキスがあった。
片山と小林先生の使った栗のイガは効果的で、ドローンで撒いた柊の葉っぱとともに、桃源郷の武器として登録されることとなった。自然に優しい、後始末の要らない武器なのに、相手方陣営に与えるダメージはライフルに匹敵するのだ。
これを考えたのは、裕美、愛美の中原姉妹で、二人に対し、大小野寺博士からお褒めの言葉があった。こちらは、後ほど、それぞれの夫である慎二と陽一から、ご褒美のキスがあると発表され、やんやの喝采だった。
良介と里奈は、祝勝会の席をあっちこっちウロウロして、いろいろ食べていたが、あまり楽しくない。
大人の時間なのだ。姉の真紀子に、二人とも、部屋に戻って寝なさい、と言われたが、それに従うのも面白くない。
愛美は、リビングの隅に座って盗聴器と格闘していたが、事情聴取が終わった陽一が帰って来ると、適当に飲み食いした健二と交代した。
良介が気付いた時、凛は、食堂から消えていた。
片山も、同じことに気が付いたのだろう。面白くなさそうに、文句を言い始めた。
彼は、風呂に入って人心地ついたのだろう。ましてや、今日の活躍を褒められて、悪い気はしない。笹岡の隣に座って、気分良く食べていたのだ。
それが、急に機嫌が悪くなったのだ。
良介の姉の笹岡真紀子が、
「凛、疲れてたから、舜さんが寝かせにいったのよ」と、なだめた。
「あのな、笹岡。保育園児じゃないんだ。単に、寝かすだけじゃ、終わらないだろうが」
片山は、酒も飲んでないのに、絡んでいる。
こいつ、こんなヤツだったんだ。と、良介は思った。
でも、姉が言う通り、凛が『お子さま』だと言うのは、同感だった。でも、凛は、ライフルなんか使うのだ。それで、お子さまでも、戦力になるのだ。
良介は、凛が姉の同級生だと言うことを完全に忘れていた。それほど、凛の見た目は、幼かった。
食堂の隅にライフルが四丁立てかけてある。あれが、戦闘要員と子供と分けるのだ。黒光りするそれは、いかにも一人前の明かしだった。
良介は、ライフルに手を伸ばした。ヒヤリとした金属の感触があった。戦いの余韻を残し、火薬の匂いが残っている。これを使えば、戦闘要員だ。迷彩服を着て、みんなと一緒に戦えるのだ。
「お前、何、触ってるんだ?」
山道氏が鋭い声が飛んだ。
「ボクにも使えるんじゃないかって」
離さない。離したら、お子さまだ。
「お前なんかに、使えない」
陽一が割って入った。
「凛だって、子供なのに使ってるじゃないか!」
「馬鹿か?凛ちゃんは、小さい時から、練習してるんだ」
ボサボサ頭の水野氏が横から口を挟んだ。
「あの子は、バレーボールは下手だが、射撃と水泳と山歩きは、上手なんだ」
「バレーボールが下手は、余計だ」
中原氏が苦笑いする。
「渡すんだ」
山道氏が手を出す。
「嫌だ。ボクも使えるって、見せてやるんだ」
「初めて持ったヤツに、使える道具じゃねえ!」
陽一がすごんだ。
「僕はこっちへ来てから練習してるけど、全然上手くなれないんだ。難しい道具なんだ」
慎二も真面目に言う。
「ボクが一人前だって、認めてくれないと、離さない」
「良介、お前、テロリストみたいな理屈だな」
片山が寄って来た。
「翔くん、あっちへ行ってなさい。怪我するかもしれない」
中原氏が片山を退ける。
裕美や愛美、笹岡や里奈それに第一世代の女達を、さりげなく、男達がかばう。
良介は面白くない。
凛がライフルを担いでいた時は、みんな、気にもしないで近寄っていた。自分がライフルを持つと、女を守って、男が命がけみたいな顔で、ライフルを渡すよう要求するのだ。
一度、使って見せれば良いのだ。こうやって、安全装置を外して……小さい頃、おもちゃの銃で遊んだじゃないか。
それと、どう違うのだ?
「そこを触るんじゃねえ!」
山道氏が叫んだ。
凛は、ベッドの縁に座った。
「ありがとう。凛、一人で寝れるから、舜、向こう行って良いから」
「君が寝るまで、ここにいよう。
今日は、よく頑張ったね。大坂を投げ飛ばしたのは、エラかった。山道のおばさん、褒めてたよ。上手に投げれたって」
「舜が……助けてくれたから」
「本当は、君を戦闘に出したくないんだ。君を失うと、桃源郷の明日もない」
「……そんなことない」
「寝なさい。疲れただろう」
「うん」
「良介くん達のことは、気にするな」
「気が付いた?」
「うん。こっちへ着いた時の君は、大坂に襲われたショックは、おさまってたんだ。でも、良介くん達に会ったら、固まった」
「……」
「君が思い悩むことじゃないんだ」
「でも……」
「良介くんや里奈ちゃんのことで悩むのは、マキちゃんのお母さんの仕事だ。あの人は、自分の仕事だからジタバタしたんだ。
それが、君をどんなに苦しめることになるのか、考えもしないで」
「でも、凛が、できないから……凛が食料を倍増できれば、マキのお家の人も片山くんのお家の人もここに来れるのに」
「他人に頼ることしか考えない人達だ。ここへ来ても役に立たない」
「……そうかな」
「そうだ。親子だけど、マキちゃんとは全然違う」
凛が寂しそうに息を吐いた。
「考えないことだ。何も考えないで、ゆっくり眠りなさい」
凛がコクリと頷いた。
「凛が寝たら、お酒飲みに行ってね」
「?」
「舜、お酒好きみたいだから」
「じゃあ、そうさせてもらおうか。でも、君が眠ってくれないと、心配で、酒なんか飲んでられない」
凛が、小さく笑って、舜の手を握る。そっと握り返すと、安心したように眠りに落ちた。
可哀想に。怖かったのだろう。
この人を戦場に伴いたくないのに。
桃源郷の力不足だった。
不気味な発射音があって、冷たい風が走った。
反動でよろめいた良介は、後から羽交い締めにされた。
「舜、お前が来てくれて、助かった」
小林先生が安堵の息を吐いた。
山道氏が、ゆっくりとライフルを取りあげる。
中原氏の頬を血が流れるのが見えた。
「大丈夫ですか?」
舜の声が背中に聞こえた。
「ああ、かすっただけだ。君が、もう少し早かったら、完璧だったんだが」
中原氏がニコリと笑い、夫人や裕美、愛美の姉妹が氏に抱きつくのが見えた。
山道氏が、良介の頬を思い切り殴った。
「馬鹿野郎!遊びじゃねえんだ!お前、中学にもなって、何やってるんだ!」
頬の痛みが体中に広がった。
「凛は……凛は、子供のくせに、戦闘要員やってるじゃないか!何で、ボクは駄目なんだ?」
号泣した。
良介を羽交い締めにしていた舜が、良介の体を反転させて言った。
「凛は子供じゃない。あの人は、人類みんなの命を守るために、小野寺博士達と研究をしてるんだ。
本当は、あの人を戦闘に出したくないんだ。ただ、あの人はライフルの名手だから、戦闘には、あの人が必要なんだ」
ライフルの名手?あいつが?
良介は、足の震えが止まらなかった。




