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桃源郷は事件がいっぱい  作者: 椿 雅香
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良介(4)

 しばらくして、ガヤガヤと一団が到着した。慌てて表へ出ると、片山が怒鳴っていた。

「笹岡!いい加減にしてくれ!何で俺を撃つんだ!」

「だって、向こうが片山くんを襲いに来てたから……援護しようと思ったのよ。おかげで、やられなかったじゃない」

「その代わり、水浸しだ。俺にまで当てなくていいんだ!11月なんだぞ。風邪、引くだろうが!ハ、ハ、ハックション!」

 小林先生が、片山に、サッサと風呂に行って来い、と笑っていた。


 ガヤガヤと笑いさざめく中で、凛が舜にしがみついているのが見えた。

 舜が、凛を左手で抱きしめている。ヨシヨシと、背中をたたきながら、子供をあやすように、ささやいている。


「よっぽど、怖かったんだな」

 ボサボサ頭の中年男――水野氏が言うのが聞こえた。

「だって、すっごくおっきな人が襲いかかって来たんだもん」

 凛が、グシュンと鼻を鳴らす。

「でも、ちゃんと投げ飛ばしたのは、エライエライ」

 舜が、凛の頭を撫でた。

「向こうは、君が小さいから与しやすいと踏んだんだろう。山道のおばさんに教えてもらってたあの技、上手に決まってた」

「僕が、凛ちゃんぐらいライフルを扱えるようになったら、良いんだけど……」

 慎二が口ごもる。

「仕方がない。今のところ、俺の弟子で、舜の次は、凛ちゃんだ。息子達より上手い」

 ドスの利いた山道氏の声がした。長い髪を首の後でくくった眼の光が尋常でない男だ。

「すみませんねえ。下手くそな息子で」

 健二が笑いながら言って、一同、食堂へ入る。

「陽一さんは?」

 愛美が訊いた。

「警察の事情聴取受けてるんだ。愛美さん、ご苦労さん。ありがとね」

 健二が、片目をつぶる。

「健二さん、今日は、お休みになられたら?」

「そんなわけにもいかない。これからの情報が、大切なんだ」

 健二がリビングの隅に腰を下ろす。迷彩服を着たままだ。

「お風呂やお食事の間ぐらい、私がいたしますから」

 愛美が言うので、健二は、じゃあ、と、慎二達と風呂へ行った。



 良介達に気が付いたのだろう?ロマンスグレーの小小野寺博士が、

「良介くん、もう遅い。早く寝なさい」と言う。


 子供子供って、人のことを子供扱いして。

 良介は、面白くない。さっき、自分で、水野夫人に対して、子供の権利を主張したことさえ忘れてしまった。


 里奈が姉の真紀子の側に行って、甘えているのが目に留まった。子供ってのは、里奈のことを言うのだ。


 凛を抱いていた舜が、そっと降ろすと、優しく言った。

「今日は、サッサと寝なさい」

 舜の言葉に子供のように頷いた凛が、良介の方を見て少し固まった。



 こいつこそ子供じゃないか?身長だって、ボクとほとんど変わらない。なんで、こいつが戦闘に参加できて、ボクが駄目なんだ?


 見ると、凛は、背中に黒い棒のようなものをかついでいる。ライフルだ。



 警察の事情聴取は、陽一が付き合った。

 警官は、迷彩服を着た陽一を胡散臭そうに見たが、「実は、匿名のたれ込み電話があったんです。で、もしかして、襲撃があるかもしれないって、念のため警戒してたんです」と言うと、目を剥いた。

「そっちにも、あったのか?こっちにもあったんだ。誰が電話したんだろう?

 胡散臭い話だったんで、半信半疑だったんだけど、大村製麺は、電話どおり襲撃を受けて、警備員含めて従業員が5人殺されたらという話だ。

 材料も全部持って行かれてしまったらしくて、ものすごい損害らしい。何せ、この食料難だ。いつ、次の材料が入荷するか目処が立たないんだ。

 下手すりゃつぶれる。

 でも、大村製麺も大変なんだけど、陽動作戦だったんだろうか?公民館で放火があって、そっちも大変だったんだ」

「それは、大変でしたね。

 ウチも、たれ込み電話が眉唾だとは思ったんですが、何せ、この頃の住宅事情で、ウチの山を売ってくれってヤツが多いんで、どさくさに紛れて放火されるのも怖いからって、警戒してたんです。

 何せ、山火事ってヤツは、止められないでしょ?住んでる所も危なくなる」

「で、照明弾まで使ったのか?」

「ええ、まさか、マシンガンや手榴弾なんか手に入らないでしょ?だから、防犯ブザーみたいなものですよ。

 急に明るくなると、向こうが警察かなって思って引いてくれるかと期待したのですが、いやあ、期待以上でした。

 照明弾上げて、『警察だ!』って叫んだら、慌ててました。いやあ、警察って大したものだ」


 警官は、勝手に警察を標榜するな、と思ったが、褒められたのだ、悪い気分じゃない。


 豪快に笑う陽一に礼を言って、中村のグループを救急車に乗せた。全部で40人だ。


 警官が、首を傾げて、中村に尋ねた。

「大村製麺をやったのは、お前等じゃないのか?確か、50人ほどのグループだって報告だったんだが……」


 中村が黙秘する。


「こっちまで、襲撃に来たのがそのうちの40人ってわけですか?

 残りは、家でお好み焼きでも食ってるんだろうか?」

 陽一も不思議そうに言う。

「向こうを襲ったのと別のグループかもしれないな。詳しい話を聞かせてもらおうか」



 今回、薬を飲まされなかった中村は、黒崎がどうして、桃源郷の襲撃に二の足を踏んだのか、嫌というほど思い知らされた。


 例の薬のせいで、中村に記憶はなかったが、先に一度、失敗していたのだ。それも、単なる失敗ではなく、下手すると、命を落としかねない状況だったのだろう。


 黒崎はそれを覚えていて、桃源郷を避けていたのだ。いや、あれは、関係者に情報を流しているかもしれない。それほど、黒崎の様子がおかしかった。


 大村製麺を襲った勢いで、このまま、桃源郷を襲おうと言うと、黒崎は、やめたほうが良い、と、強硬に言い張ったのだ。どうしてもやりたいなら、ここで別れるとまで言った。

 そうして、本当に、戦利品の小麦粉の半分を持って袂を分かってしまったのだ。


 信じられない行動だった。


 しかし、桃源郷との戦いに破れた今となっては、分かる。


 中村は、急遽、別のグループ20人ほどを呼び寄せた。向こうは、20人だ。万全を期すためには、倍の人数が必要だった。

 県道から山側の進入路は分からない。でも、黒崎達が帰ってから、体制を整えなおしたグループは、杉林に火を放ち、自分達で道を造ることを考えた。

 ここが馬鹿の黒崎との違いだった。

 一同、闘志満々で県道に突入した。国道から丸見えの場所では、放火もできない。ほどほどの場所で火を放とうと思ったのだ。


 県道に入ってすぐだった。見知った赤い軽四が走っているのを認めた。桃源郷の車だ。ノロノロと、いかにも軽四らしい走りだ。

 火をつけるまでもない。あの後を付ければいいんだ。中村は、幸運を感謝した。

 ついてる!

 赤い車を尾行する。県道へ入って8キロほどの地点――先の交通事故現場に近づいた。

 何となく嫌な予感がする。

 赤い軽四は、何事もないように前を行く。

 一瞬、迷った。あまりにも上手く行きすぎているのだ。


 急に、軽四のスピードが上がった。

 もたもたしてると、見失ってしまう。頭を振って、迷いを捨てた。


 「野郎ども!このまま、追跡する!」

 中村が叫んだ時だ。


 遠くで爆音がして、頭上で何かが炸裂した。驚いたことに、敵は照明弾を打ち上げて、県道を明々と照らし出した。そうして、車のタイヤをライフルで次々と撃ち抜いたのだ。


 中村達40人は、8台ほどの様々な車に乗っている。そのタイヤがことごとく、打ち抜かれたのだ。

 スナイパーは、四人。二人一組で行動していて交代で撃った。マシンガンほどの連続性はないものの、長篠の合戦もかくやと思わる連射だ。しかも、命中率がすごい。車のタイヤが大きい的だと言うこともあるが、外れることがないのだ。

 慌てて、拳銃や改造ガンを取り出すと、それも狙われた。スナイパーは、こちらの命まで取ろうとはしない。でも、確実に手足を打ち抜いて銃の類を使えなくするのだ。

 背筋が寒くなった。

 

 車と拳銃が使えなくなると、「攻撃!」と怒声があって、泥団子や水ヨーヨーそれに栗のイガまで飛んで来た。終いに、上空から、ドローンで柊の葉っぱが落とされた。向こうは、始めからツバのある帽子を被ってるし、心の準備があるのだ。何が飛んで来ようが、気にも留めない。こっちは、顔や手といった露出部分に当たると、痛みで動けなくなった。

 接近戦に及ぼうとすると、どこからともなく現れた山道夫人の跳び蹴りが炸裂した。


 こっちは、40人だ。しかも、全員、若い男だ。接近戦の対象は、山道夫人だけじゃない。水ヨーヨーや泥団子それに栗のイガで攻撃するヤツ等をやっつければ良いのだ。そのためのナイフや鉄パイプだ。

 深呼吸して、体制を立て直す。

 中村の合図で、瞬時に分散して襲いかかった。メンバーの見事な動きに中村は勝利を確信した。始めから、これをやれば良かったのだ。

 

 安堵の息を吐こうとした時だった。後からライフルの攻撃があった。

 忘れていた。向こうには、これがあったのだ。

 血の気が引いた。


 中村の片腕で、身長198センチ、体重130キロの男がいる。名前は小坂一平。グループでは、『小坂』じゃなくて、『大坂』と呼ばれている。

 その、大坂が気が付いた。スナイパーの一人は、160センチもない小柄な少年なのだ。あいつをやっつければライフルが一丁奪える。

 背後から忍びよって襲いかかった。

 激しい悲鳴が上がった。

 女だったのだ。まだ幼い子供のような少女だ。

 

 こんなのが、スナイパーなのか?

 

 大坂が我に返る前に、少女が大坂の腕をねじ上げながら、体を沈める。気が付いたら、投げ飛ばされていた。頭を振って起き上がろうとすると、側にいた青年にみぞおちを突かれて意識を失った。


 惨敗だった。


 呆然とする中村の耳に、

「手前等、命が惜しかったら、武器を捨てて、降参しろ!」と、声が響いた。





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