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桃源郷は事件がいっぱい  作者: 椿 雅香
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良介 (1)

3  良介


 翌週の木曜、高校の図書室に舜が現れた。凛が嬉しそうに抱きついて、片山の歯ぎしりが聞こえるいつもの展開だ。

 4時半頃、正門に見慣れた赤い電気自動車が現れた。屋根に自転車を三台乗せている。運転して来た慎二と舜が自転車を降ろして、一同の鞄をトランクに放り込む。

 舜と凛それに片山が自転車に乗った。凛はジャージに着替えている。

 車に乗ったのは、笹岡一人。そのまま、車は笹岡家へ、自転車は帰途についた。

 

 舜、凛、片山は縦一列に並んで走る。道が緩く上り坂になっているので、結構大変だ。

 山の県道へ着いた頃、後から赤い軽四が追い付いた。

 笹岡が窓からロープを投げる。自転車の三人は、ロープを掴んで、車に引っ張ってもらう。

「ラクチン、ラクチン」

 凛が嬉しそうに言った。

「イヤッホー!」

 片山もご機嫌だ。

「二人とも、カーブに気を付けて」

 舜も笑った。

 

 車は、ロープで引きずられる三人を気遣いながら、脇道の進入路に入る。杉林を抜けて、広葉樹の森を抜けて、5時半頃、桃源郷の本部に到着した。

 


「おかえり。つけられてないか?」

 山道氏が声をかけた。

「大丈夫、と思います。後から陽一くんが確認して来ることになってるんですが……」

 慎二が口ごもる。

「じゃあ、お客は中に入って、他は準備だ」


 車の中から出て来たのは、笹岡家の三姉弟、真紀子、良介そして里奈だった。

 今夜の襲撃から避難するために、笹岡の母が必死に頼み込んだのだ。

 夫人は、桃源郷の方が危険かも知れないという、小林先生の忠告も耳に入らないようだった。 それより、この機会に、桃源郷の人々に笹岡の弟妹を引き合わせて、情に訴えた方が得策だと踏んだのだ。


 相談の結果、笹岡が戦闘要員として協力するかわり、二人を奥の客間に保護するということになったのだ。

 桃源郷側は、慎二がライフルに慣れていないこともあって、山道兄弟の新兵器の熟練者である笹岡が参戦してくれるのは、ありがたかったのだ。

 

 笹岡家の話を漏れ聞いた片山の母は、片山に桃源郷に恩を売るべく、応援するよう命じた。

 一つには、どうせ、中村が桃源郷を襲うことはないだろうと踏んでいたのと、もう一つは、早苗の失策を少しでも補って桃源郷に好感を持ってもらい、あわよくば、援助を引き出そうという腹だった。


 

 様々な思惑を抱えた桃源郷襲撃対策本部は、いつもの小野寺家兼小林家のリビングに集結した。


 片山が驚いたことに、今回は、ユニフォームの支給があった。


「はい、片山くんは、これね。そっちで着替えて」

 

 山道愛美に手渡されたのは、迷彩服とツバのある帽子(これももちろん迷彩柄だ)だった。

 ちゃんと認識番号がG-02と書いてある。どうやら、ゲストの2番という意味らしい。後で聞いたら、笹岡がG-01、つまりゲストの1番だった。


「こんなもの、どこで手に入れたんです?」

「ウチの主人、マニアなの。だから、通販で買っちゃった」

 愛美が嬉しそうに微笑む。


 こんなもの通販で買うな!

 

 罵りながら、着替えて戻ると、笹岡も、舜も、何と凛まで、お揃いの迷彩服を着ている。凛は帽子からお下げが二本覗いていて、戦闘用なのに可愛く見える。

「凛、よく似合ってる」

 舜が嬉しそうに言うのが聞こえた。


 俺の台詞取りやがって!頭から湯気を噴く。

 

 ふと見ると、笹岡の胸が意外と豊かで、迷彩服のようなマニッシュなものを着ると、女らしい体の線が際立った。


「マキちゃんも、こんなの着ると、かえって女っぽいね。帽子も似合ってる」

 またまた舜が言う。


 何でもかんでも先を越すな!


 怒鳴ろうとして、声を呑み込んだ。柱の陰から笹岡の弟妹が覗いていたのだ。


「良介くん、里奈ちゃん、奥に行ってなさい」

 慎二が声をかけた。

「ボクも戦いたい」

 良介が文句を言う。

「高校になったら、協力してくれ。今日のところは、奥でみんなの邪魔をしないようにジッとしてるのが、お前の仕事だ」

 戦闘責任者の陽一が、愛美に目で合図する。

「じゃあ、奥へ行きましょうね」

 愛美が二人を連れて行く。


 

 「作戦会議を始めます」

 陽一の声が鋭く響いた。


 迷彩服に身を包んだ片山は、陽一に言った。

「この格好で、泥団子ですか?せめて、水ヨーヨーを使いたいんですが……」

「大丈夫だ。今回は、泥団子は慎二に任せて、お前のために新兵器を用意してある。現場で、説明する」


 桃源郷の人々は、戦闘予定地域を、黒崎グループとの戦いの時と同じく県道に限定した。杉林への放火が怖いからだ。杉林には風車ガーランドが設置してある。杉林自体守らなければならない。

 一同、自転車、電動バイク、電気自動車に乗って出発した。


 戦闘予定地域に到着した片山は、俄然期待した。

 自分のための新兵器って何だろう?


「これ、使ってくれ」

 陽一に、ごっつい革手袋を渡される。

 ものすごい機械なんだろうか?

 期待に胸が高鳴る。

「これだ」

 片山に示されたのは、栗のイガの山だった。

「これをパチンコで撃つんだ。

 一応、はさむ部分は皮で作っといた。でも、注意しないと手に刺さるから、慎重にやるんだぞ。

 なるべく、顔とか、手とか、露出してる部分を狙うんだ」



 片山は絶句した。


 見ると、前回泥団子だった小林先生も同じ武器を与えられている。革手袋と頑丈なパチンコを手にすると童心に帰るのだろう、嬉しそうだ。


「後片付けも要らないんだ。自然に優しい、究極の兵器だ。しかも、季節限定、秋にしか使えない」

 陽一がニヤリと笑った。


笹岡真紀子の弟の良介のターンです。中学生の良介は、気持ちは大人でも認めてもらえないジレンマに苦しみます。

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