表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だから私はやる気が出ない。  作者: 灯火
一章 私と村と恩人(仮)編
6/37

5話 ディートリヒ家の一日 その1




「見ろ、これが俺たちが育て上げた小麦畑だ。」


ディートリヒさんに乱暴に地面を引きずられ、生川 永和改め、私、ディアとボインさんことメリーさん、そして一家(?)の主、ディートリヒさんは視界の開けた畑に到着した。当然だけど一見してド田舎だね、ここ。高層ビルどころか民家すらほとんど見当たらないんですが。いやビルなんて無いことぐらいわかりますけどねぇ。見えるのはせいぜい民家が二軒程度。第一村人を見つけるのに苦労しそうだ。

あとは、視界の両袖に連なる山と、収穫に差し掛かった黄金の麦が風に揺れて広がるだけだった。

ついでにナウ○カの名シーンも思い出した。ほら、王女様が触手草原を歩くあのシーン。触手プレイとかやりよるなこの蟲とか思った私はきっと変態なんだろうな、うん。


「見てください、こちらが鶏の羽まみれのジュードでございます。」


語尾にハートでもつけそうなほど可愛らしい笑顔を浮かべるボインさんの足元には死んだ顔のジュード。髪やら服やら、あちこちに鶏のものとおぼしき羽がくっついていて、服もよれよれだ。余程楽しい格闘を鶏さんたちと繰り広げてきたに違いない。後でその武勇伝をお聞きしよう。


「それでボイ…メリーさん、この鶏男の紹介は。」

「嫌ですぅ。」


一蹴された。ボインさん、ジュードに関してだけ扱いが雑なような気がするのは私だけじゃないはず。


「そいつはジュディアリードだ。気軽にジュードと、」

「気軽にジュディアリード様と呼んでも構わないぞ。」


ディートリヒさんの言葉を遮って、いつのまにやら復活したジュードは偉そうに胸を張ってそう言った。言うわけねぇだろバァカ。


「じゃあ一つだけ聞きたいんですけど、こいつの扱いって」

「家畜同然で構わないのですよぅ、ディア様っ!」


指を指して問えばメリーさんに一瞬にして断言された。私は頷く。


「分かりました。楽しい玩具ということで。」

「分かってねぇだろ!大体なぁ、お前は新人、俺先輩。分かるな?」

「で、何時間働けばどんくらいの給料くれるんですかー。ディートリヒさーん。」

「おい、」

「朝は5時起き6時麦刈りの作業開始、そこから昼休憩、夜休憩を挟んで夜の2時まで村の巡回の活動をする。」

「え、あれ、ディー様?無視?」

「殺す気か。労働基準法ひっかかりまくりじゃねーの。ボイコットしてやる。」

「えっ、おっ、おいっ…」

「夜の仕事はシフト制だし、収穫期の今だけだ。我慢しろ。」

「ちょ、ディー様今完全に俺と目合ったよね?!」

「めんどくせぇぇぇぇ。」

「メリー!お前なら分かってくれるよな?俺の存在!」

「はぁい!それではぁ、私直々に鎌の使い方を教えて差し上げまぁす!」

「めっ、メリー?」

「こうっすか。」


ザクッ


「わぁ!とってもお上手です!ベテランの私顔負け!」

「…。」

「いやいや、そんなぁ、大したことないですよあっはっはー。」


両方の親の親が畑作と稲作やってたから、鍬と鎌は使える、どころか得意だと自分でも思うよ。まあ鎌を持っているのを知り合いに見られたら確実に死神と認識されるんだろうけど。…そう思ったらちょっとムカついた。


「…っ。」

「ぐうたら貴族とは思えない手さばきだな。経験でもあるのか?」

「ぐすっ…。」


(あー、泣いた。)

(泣きましたねぇ。)

(泣いたな。)


「何だよお前らぁ…皆して俺をいじめてさぁ…ディー様もメリーもよぉ…ぐずっ…新人の相手ばっかして…ずびっ…どーせ俺様は要らない奴だよぉ…。」


「…ねぇ、こいつってもしかして面倒くさい?」

「お前が本気で質問するほどのレベルでな。」

「つまりは面倒くさいのね。」


「お前らなんか、お前らなんかぁぁぁぁぁディー様とメリーと新人のバカァァァァァ!!」


ご丁寧に私たち三人を名指し(私以外)してジュードは山に向かって走り去った。元文化部の私から言わせても、奴の足は遅かった。


ジュードを追う気などさらさら無さそうなディートリヒさんは、やれやれと困ったような呆れたような溜め息を吐いた。あれ、もしかして日常茶飯事?


「メリー、一応準備しておけ。」

「了解でありま~すディー様。」

「?」


はて、準備とは何のことやら。もしかしてジュードを完全無視して農作業でもするのか。


「違うぞ。」

「心読むなっての。」

「…鶏のくだりから察する通りだ。あいつは…」

「…好かれやすいの?嫌われやすいの?」

「両方だ。つまりは、」


不意にジュードが去った山の方を仰ぐディートリヒさん。あまりにも達観したその視線を追って私もその方に顔を向けると、その言葉の意味がわかった。


「ジュードは、野生動物に関してはトラブルメーカーなんだ。」


軽く全長2mは超していそうな猪を連れて、行きよりも数倍速くこちらにジュードが走ってきていた。やるじゃん、ジュード。やれば出来る子だね。



前回の後書きで言ったことをすべて忘れてください。次の話で言葉について触れます。多分。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ