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だから私はやる気が出ない。  作者: 灯火
一章 私と村と恩人(仮)編
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3話 つまり私は何なんです?

「何やってんだよてめーら。」


ボインの姉さん一人に男と女がしがみついている、この状況を冷ややかにディー様とやらは眺めていました。


朝日に煌めく鳶色の髪に、狙った獲物は逃がさないとでも言いそうなほど鋭く切れ長な髪と同じ鳶色の瞳。すっと通った鼻以下略、説明めんどくさい。つまり容姿端麗。ウホッ良い男♂ってことだ。多分20代前半と思われるけど、纏う雰囲気は、なんか…ずっしりとした山?を思い出させた。つまり、しっかりしていて頼れる兄貴感が若くしてすでに溢れでているってことだ。


「聞いてくださいよディー様!ジュードがまたお客様に粗相を…」

「頼むメリー!一生のお願いだから!!」

「その一生のお願いは先日使いました!犬の散歩に!!」


こいつの一生のお願い小さすぎだろ。


「…で、ディーが何をやらかしたって?」

「お客様を蹴ったんです!」

「ほお、それはまたやらかしたなディー…?」

「だ、だってこいつが!」


あ、ボインさんベッドまで運んでくれてどーも。それじゃあおやす…


「寝るな。俺の問いに答えろ。」


不意に、首筋にひやりと固くて冷たい感触。一瞬にしてその冷たさが全身に伝わって、指先までもが硬直する。あ、これ動いたら首のヤバイ血管が切れるやつだ。てゆーかいきなり刃物を突き付けるなんてとんだ危険人物ですね、ディー様とやら。


「貴様はどこから来た。何者だ。」


異世界から来た花の(枯れた)JKです☆って言ったらぶん殴られそうだな、雰囲気からして。


「…それ答えなきゃなんないですか?正直面倒なんですけど。」

「答えろ。選択肢はそれ以外無い。」

「…仕方ないですねぇ。」


こうなったら腹をくくるしかない。

私は改まってディーさんに向き直った。もちろん、寝たまま。


「私は遠い異国からやって来ました。」

「なら何故山にいた。」


あ、私がいたあそこ、山だったのね。


「知りません。」

「黙秘権はない。」

「黙秘してなくね。」

「正直に話せ。」

「いや気付いたらあそこにいたから。あとは知らないから。」


「おいお前!ディー様に向かってなんて口の聞き方…」

「メリー。」

「はぁいディー様。ジュードのベッド、鶏小屋に運んでおきますね!」

「よし、ついでにジュードも鶏小屋に連れてけ。」

「はぁい了解ですっ!」

「ディー様ぁぁぁお許しぉぉぉぉっ…!」


ずるずるとボインさんに引きずられていくジュードとか言う男は必死に泣き叫んで暴れていた。どうやら犬や鶏などの動物が苦手なようだ。にしても暴れる男を難なく引きずるボインさんの腕力は恐ろしい。


「…つまりはお前、記憶がないのか。」

「は?」

「お前があの山に行く前のだ。」

「…。」


ふむ、成る程、記憶喪失ということにしておけば色々と都合が良さそうだ。

もう全部記憶が無いことにすれば良いや、うん。だってここのこと全くわからないから、勘違いさせるようなことを言えば後々気まずい状況になることもないだろうし。一々説明するのも面倒だし。


「…まぁ、ここがどこなのかはさっぱり分かりませんけど。ここまで来た道のりも含めて。」

「お前がいた国はどこだ?」

「(どう説明すれば良いのか)分かりません。」

「そうか…。(どんな国なのかも)分からないのか。名前は分かるか?」

「(外国人のミドルネームとかさっぱり)分かりません。」

「(自分の国の名前すらも)わからない、か…。お前、名前は?」

「…?」


しまった、適当に答えてたら話題が完全に向こうとすれ違った…!


「(今どんな話をしているのか)分かりません。まったく。」

「…そうか。」

「ん?…ん?」


…まあなんでも良いや。どうにでもなれ。

とか思ってたら、ディーさんの中で私は遠い異国の記憶喪失の軍人学校の貴族、という設定になった。なんでだ。


「正直お前がどこから来たのか、俺らでも検討が付かん。」


いやそりゃあ異世界から来たとか言ったら引くよね。


「ただ昨日、いきなり山の方から異様な魔力反応を感じて行ってみれば、お前がいたと言うわけだ。」


マジでーここ魔法世界なのー。ファンタジックでマジックななワールドなのー。


「…お前真剣に聞いてるか?」

「聞いてます聞いてますちょー真剣ですーこれ以上ねーくらい。」

「真剣でこれならお前の本気が不安になってくるな…。」

「本気になったことなんてむしろあるんですか。いやありません。」


もはや誇らしげに私が反語で話すと、ディーさんは、もう良いと呆れた溜め息を吐いた。


「…とにかく、お前の身柄はうちで預かることにする。」

「三食朝昼夜寝つきっすか?」

「居候の癖に大した奴だな…。それ一日中寝てるだろ。」

「いやぁ、そんなぁ。」

「誰も誉めてねぇぞ。

居候させてやるから、お前が貴族だろうがなんだろうが働け。幸い今は麦の収穫期だ。人手なぞいくらでも欲している。」

「…マジですか。」

「お前の記憶は、ここで過ごしながら何とかしてみろ。」


これは困った。私はどうやら働かなければならないらしい。第一希望は自宅警備員だったのに…なんで農家でバイトしなきゃいけないの。


「えー、どうしても私はここに居候しなきゃなんないんですか…?」

「どうせ行く宛も無いだろ?拾ってやるって言ってるんだ。」

「いやそういうの要らないですボランティア精神とか本当要らないから。本当働きたくないんです私。」

「ほんっとうにお前は貴族のボンボンだな…良いから働け!お前のそのだらけた根性、叩き直してやる!」

「うぇぇぇ…嫌だぁぁ…。」


つまりはこうして、ディーさんたちとの新たな私の生活は始まった。どうやら朝から夜まで働けってことらしい。…めんどくせぇ…。






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