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だから私はやる気が出ない。  作者: 灯火
三章 ゴブリン王国 編
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33話 邂逅

真っ白に染まる視界と一瞬の脱力感。そのあと、強力な光に固く閉じた双眸を開いた悠仁は、唖然とした。


「な、んや…ここ…?」


目の前に広がるのは豪華絢爛に彩られた、部屋。家具調度品は金色の装飾具が施され、素人目にも高価なものだとわかる。天井も高く、見上げるだけで首が痛くなりそうだった。


何処だ?ここは。と悠仁は混乱した。

さっきまでいたのは、藁葺き小屋が並ぶ村だったはずた。なのに、今は明らかに別の場所にいる。

首を左右に振って周りを見回す。


「そうや。俺、人を追いかけて…」


と、そこで言葉は途切れた。

視界の隅で、素早く動く影に、悠仁の思考が同時に加速する。急速に視界が減速する。


「…くっ?!」


ゆっくりと、しかし確実に、フードマントを被った人物から振り下ろされる刃に、悠仁は反射的に身を捻り、文字通り紙一重で攻撃をかわした。

ひゅんっ、と空を斬る高い音の直後に、ごすっ、と鈍い音をたてて剣が絨毯を貫き、床に突き刺さった。マントの人物は予想外だったようで、慌てて剣を引き抜こうとする、が、その隙を悠仁は逃さない。

剣を持つ手を蹴り上げ、すぐに無理矢理体を動かして当て身を喰らわせる。手に持つバトルアックスでは相手を怪我させる可能性があるために、無意識に悠仁はそれを使うという選択肢を排除していた。

マントの人物はいとも簡単に吹き飛ばされ、倒れこむ。その拍子に顔を隠していたフードは取れ、その姿を露にしていた。


「なっ…?!」


その姿に、悠仁はさっきよりも驚愕した。


「…………。」


見た目悠仁とさほど変わらない齢の、その少女は、無機質な黒水晶のような瞳を悠仁に向け、二つに分けて縛った腰まで伸びた黒髪を揺らして立ち上がる。


「ちょっ、自分まさか…俺らと同じ…!」


しかし、悠仁の言葉には聞く耳も持たず、黒の少女は体勢を立て直し、悠仁に向かって近付き、拳を突き出す。


「ちょっ、まっ?!」


何度も、何度も、無機質に機械的に、少女は攻撃を繰り返す。


「ちょお、一回話を聞けや!」


悠仁が少女の細い腕の攻撃を捕らえることは、容易なことだった。

少女は拳の片方が止められれば、躊躇なくもう片方の拳も繰り出す。がそれも簡単に悠仁は身を捻るだけで避ける。


「自分、俺らと同じ、こっちの世界に来たんやろ?!なんで戦うんや?!」

「……。」


少女は答えない。それどころか、反応する素振りすら見られなかった。

尚も抵抗する少女の腕を一旦離し、距離をとる。


(話を聞こうとすらしないんか…?!)


まさか日本人でなく、ここの世界の住人なのか?という考えが頭をよぎる。だとすれば、ここで悠仁が何を言ったところで、何も伝えることができない。それ以前に、相手は話を聞くことからもう怪しかった。

今ここには、永和という通訳者は存在しない。まだこの世界に来て日の浅い悠仁では、ジェスチャーくらいでしか自らの気持ちを表す方法はない。

ならば、と悠仁は右手の得物、バトルアックスをおもむろに投げ捨てる。

戦う意思は無いことを、そんなバカ正直な方法で示す。


悠仁はあまり器用な人間ではなかった。

嘘をつくだとか、空気を読むだとかが、得意ではない人間ではなかった。

だから、彼は自分の気持ちを、火を見るよりも明らかに、陽が西へ沈むように明らかに、はっきりと表す。真正面から、ぶつかる。

そのためなら、自分が傷ついても構わないというほどに。


だから。だから彼はーーーー、



「《νμЁУЮмгЦжвККСЦЯЗТЛТЪЙЧМЖДЙбДπ》」



「?!」



突然、悠仁には理解できない言葉が聞こえた。

反射的にそちらを見ると、自分に迫る鋭い光の束。

一瞬のことで、それが何なのかは分からなかった。が、直感的にそれは避けなければならないと、悠仁は悟った。

そして咄嗟に、被害を被らせないために捕らえていた少女を突き飛ばす。


「…おっ、」


光の矢が、悠仁の下腹部に吸い込まれるように激突した。

直後、悠仁の体は大きな衝撃を受け、くの字に折れ曲がり、吹き飛ぶ。さらに悠仁は部屋の白塗りの壁をぶち抜き、瓦礫の上で力なく全身で天井を仰いだ。

天井も豪華な装飾で彩られていたが、霞む視界と思考では、見ることができなかった。


「ぁ…く…ぅあ…。」


そのまま、悠仁は意識を手放した。












「…まったく、面倒なのを連れてきてくれて…。」


悠仁に強力な魔法を喰らわせて一度で意識を刈り取った張本人は、その一撃で殺す気だったゆえの不満を黒の少女へと向けた。

当の本人はそれに何かを思うわけでもなく、自らの得物を手に取り、悠仁にとどめをささんと歩を進めていた。


「<命令(オーダー)>やめろノワール。…それは半端なく貴重な生体サンプルだから。できるようなら連れて帰る。二人目とは、幸運、なのかな。お仲間だと思って追ってきたってとこだと思うけど。」


その言葉に、ノワールと呼ばれた少女は動きを止めた。


「命令に従順なのも、考えモノだよ。」


はあ、と息を溢した男は、フードの中の赤と緑のオッドアイの瞳を細めた。そこに、警戒の色が滲む。


「…げ。」


視線の先には、床に浮かび上がる魔方陣。

十中八九、これでやって来るのは味方ではないということを男は分かった。が、魔方陣を使って敵が追ってくること自体は想定外だった。


(まさか可視魔法で追ってくるなんて普通思わないよ…。まさかあの辺鄙な村の近くに大物でもいたって訳?)


何れにしろ、敵ならば撃退するしかない。


「<命令(オーダー)>ノワール、敵だと判断したら撃退しろ。」


そう言い放ち、長剣を構えるノワールを横目に、男も腰の双剣を引き抜いた。







5/4ちょっと文字修正しました。

作品を読んでくださっている方々、ありがとうございます。


やめろミザエルを思い出したらきっと負け。

ノワールの由来は、フランス語で黒。


次回「再会」

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