27話 お留守番
「…これがディーに頼みたいことだ。」
前回のあらすじを説明するよ!主にメリーさんがブチ切れて修羅場!ディートリヒさんマジざまぁみろ!!
「何か異変が起きているのか。」
眉をひそめ、さっきまで修羅場の原因であったとは思えないほど真剣な表情をする女好き色情魔。
賑やかな雰囲気から一変してドシリアスモードに言葉が分からない関西人たちは目を丸くして唖然とするしかない。うん、別にこの状況でもまだナポリタン食い続けてる奴なんていないんだ。見なかったことにしよう。
「あぁ。これはまだ城でも私たち騎士団団長以上の上層とほんの一部の騎士しか知らないことなんだが、…二週間前からヴェルターニュ地方そのものとの通信が途切れててな…」
「ヴェルターニュ地方?…何処。」
「ヴェルターニュ地方。このラグリア王国で最も東にある地域だ。」
話の腰を折らせないようにこっそりとジュードが教えてくれる。
「二週間も連絡通じない地方ってどういうことなの。島?」
「いや、一応は陸続きなんだが、南北にあるでかい山脈に遮られてっから、そうホイホイと行ける場所でもねぇんだ。
山を登るにも高すぎるし険しすぎるから人が通るだけでもほとんど不可能だし、山を掘るにも労力やら金やらが掛かりすぎるから国もそんなの作る気はねえ。
他の陸路でそこに行こうとするならラグリア王国の北のイルソーレ帝国を通る必要がある。だから大抵は海路か通信用魔水晶で物や人の移動を行ったり、連絡をとったりするんだよ。多分そのどっちの手段でも連絡がとれてねぇんだろうな。」
「いや、二週間も連絡とれないって…ちんたらしすぎだろ、この国の上層部。ってゆーかよく民衆に誤魔化せたな。」
「それが問題なのだ。」
「!」
私のオブラートに包まない感想に、まさにこの国の上層部であるマーレさんが反応した。
「何を考えているが分からないのだが、何故か上層部…副王が調査のための兵を出しあぐねているのだ。今のところは危険な巨大海洋生物が現れたという理由で誤魔化してはいるが、そう長くは持たないだろう。こういうものに民衆は聡いからな。」
「副王?現王はどうしたんだ。」
「…何やら御体調が優れぬらしくてな…今は副王が公務を行っている。」
マーレさんの説明にディートリヒさんは苦々しげに顔を歪めた。
「それで二週間も何もせずに指をくわえているのか。」
「あぁ。私には政治などさっぱり分からぬから理由は図りかねるが、各地から兵を募っているし、地方を護衛する兵も王都に集まり始めていることから、噂ではイルソーレ帝国との戦争が近々起きるとも聞く。今さら大して大きくも無い地方を気にしてはいられないのかもしれない。」
…戦争。元の世界の日本ではほとんど縁の無かった現実に、私は不安を抱かずにはいられなかった。こんなド田舎にまで戦火が広がるとは考えたくないけれど、あり得ない話でもない。
「戦争だと?!何を考えているんだ、副王は!」
突然声を荒げるディートリヒさんに、一同が震える。
マーレさんは表情を渋くして腕を組み、唸った。
「ただの噂だ。…と言いたいところだが、そもそも政治のよく分からん私は会議に出席していないから、そこのあたりは詳しくなくてだな…」
成る程。バカだから出席しても理解できないのか。
「だから私が独自に今回調査兵を送った!」
うん、この人がするならすごく納得できる。むしろこの人しか納得できないよ。だってほら、そんな簡単に兵を動かして良いわけないでしょう?
「上からは待機命令が出ているから、完全な命令違反だがな!」
うん、知ってた。そんなことだろうと思った。
何故か得意気なマーレさんにディートリヒさんも怒りを通り越して呆れしか感じないようで、何も言わずに痛むらしい頭を両手で抱えていた。
「…それで、送った兵が帰ってこない訳ですか。」
ディートリヒさんの心のライフポイントはほぼ0なので代わりに私が問う。ここで下手に話を延ばしても私の睡眠時間が減るだけだし。
「あぁ、こっそり船で30人ほど派遣したのだが、通信が途切れたらしい。一応上陸はしたらしいのだが…調査しようとしたところで通信が途切れて、今に至る。」
はいはい、成る程成る程。
「軍がダメなら個人で行こうってことですか。既知の仲のディートリヒさんを連れて。」
「ディア…お前よく分かってるじゃないか!」
いや確実にあなたが悪すぎるんだよ。
同類を見る顔をこっちに向けないでください。
「バカが伝染る。」
「心の声が漏れてんぞ、ディア。」
あらやだジュードさん。耳打ちする必要は無いですのよおほほー。
「本音が漏れました。失礼。今のは冗談ですよマーレさん。」
「誤魔化せてねぇよ。」
「そうする気ないし。」
「そうかそうか!ディア、お前は冗談がうまいなー、はっはっは!」
「…。」
何も言えない様子のジュードに私は視線だけで優しく語りかけた。
ね?単純でしょう?
「…もうお前に任せるわ。」
「えっ、ジュード。ちょっとそれは困るんだけど。」
「俺様にはもうマーレ団長と話せるような精神がねぇんだよ…。」
「偉そうな口ぶりの割に内容が貧弱すぎてむしろ笑える。」
「顔は笑ってねぇぞ。」
やだなぁ、笑ったら疲れるじゃない。表情筋が。
と返すのも面倒だし、とりあえず状況を飲み込めていない関西人たちに現状を端的に説明する。
・この国の東に地形的に孤立した地方がある。
・ここ一週間で連絡が途絶えているらしい。
そしてもう一つ。これが最大にして最重要。
・その地方に“黒の民”について研究している女性がいる。
この研究者についての情報は、マーシュさんから聞いたものだった。ディートリヒさんはそこのあたりは詳しくないそうで、今となっては真偽は定かではないけれど、元の世界に帰ることを望んでいる関西人たちにとっては藁にもすがりたいはずだ。しかし、その研究者による情報が有益である確率は正直言ってかなり低いと思う。それでもーーー何か、心の拠り所になるものはほぼ絶対的に必要だ。
私は元の世界にあまり未練はないから大丈夫だけれど、関西人たちは違う。今すぐにでも元の世界に戻りたいと切に願っている。運が良いと言えばいいのか、複数人で、しかもかなり仲が良い同士で此方側の世界にやって来たため、今すぐに不安で押し潰される事態は無いと思う。むしろこの世界を楽しんでいる。修学旅行のようなテンションなんだろう。今は。
けれどーーーーー彼らには家族が、友人が、そして自分の将来がある。
元の世界への想いはきっと、時間が経てば経つほど不安と共に募るはずだ。その不安が限界まで達するまでの時間、そしてその時彼らがどうなるかはわたしには分からない。人の気持ちなんて所詮そんなものだ。心理学のプロにだって、人の気持ちなんて全て予測も理解も出来ないはずだから。
そしてその想いが薄れるには、想い募った時間の倍以上はかかるし、消えることはまず無いと思う。余程のこと…所帯を持つとか、それなら考えられなくもないけど、それでも考え難い。
結論、関西人たちには元の世界へ帰る手がかりはどんな些細なことでも伝えるべきだ。下手に喚かれても困る。
「それ本当か、生川さん!何で早う教えてくれんかったんや!」
興奮のあまりか椅子から立ち上がる関西人を睨んで制止して、私は息を吐く。一応寝たとは言え、昼間の明るい時間帯に寝たのでは睡眠の質が悪くて体力が回復できていない。もう疲れた。
「あの時言ったところで意味は無いでしょ。…それに、」
真偽を確かめたかったし。と言う言葉は飲み込んだ。
私がマーシュさんを疑っているという事実を伝える必要もメリットもない。こいつらには馬鹿みたいにあの人はいい人だと思わせておくべきだ。バカなこいつらは、あの人が嘘をついてたなんて知ったら傷つきそうで、もしそうなったら単純に面倒くさい。
「……………もっと詳しい情報を知りたかったから。」
…嘘つきは、私も同じだ。本当は詳しい住所を知っている。紹介状だってマーシュさんから貰っている。
「何や、そうなんか。」
あぁ、こいつもバカだ。人の言葉を簡単に信じる、お人好しだ。
安心したような顔をして、こいつは何を思うのだろうか。…いや、そんなことはどうでもいい。
「それを知って、アンタらはどうする。…行けるなら行く?」
こいつらのことだ。何となく返答は予想できた。
「行く。」
「無論、行くのじゃ!」
「今んとこ唯一の手がかりやしな!行くで!」
だろーな。
さぁさてお次は、と言うか次が最大にして最後の関門。
「…ディートリヒさん。」
「ダメだ。」
…言いたいことを先読みされてたらしい。“黒の民”の研究者に会いに行くためにディートリヒさんについていくという頼みは、一蹴された。
理由なんて言われずとも分かる。私たちがディートリヒさんについていったとしたら、確実にお荷物だから。
「そこをなんとかお願いします。」
じっと、ディートリヒさんの鳶色の瞳を見つめる。緊張で鼓動が早まる。ディートリヒさんは、怒ったような困ったような、難しい表情だ。
「随分と真剣だな。」
「緊急事態なので。」
「だからこそ俺はダメだと言っているのが分からないのか?」
「だからこそ私はディートリヒさんに頼んでいるんですが?」
互いに一歩も譲らない緊張に満ちた空気に、私のハートはブレイクしそうだ。言っておくがガラスのハートは伊達じゃないぞ。
「事態が落ち着くまで待って、その研究者の身にもし何かあったとしたら、私たちは唯一の手がかりを失ってしまいます。」
「…。」
「もしものことがあっても自分達の責任にします。だから…お願いします。」
私は立ち上がって、深々と頭を下げた。こんなに真摯に誰かに頼み事をするのは、人生初めてだろう。
私はこの選択が正しいとは正直思えない。提案したのは私だけれど、何が起きているのかさえ分からないのに、そこに行くなんて私としては愚行の極みなんじゃないかと思う。…けれど、関西人たちは自らのそれを選んだ。私は一応、それを尊重する。
「たっ、頼んます!俺らの唯一の希望なんです!」
「行かせてくれ!妾は何だってする!!」
「頼む、連れていってくれ。」
私の後に続いて関西人たちも頭を下げる。
「ダメだ。連れていけない。」
しかしそれでもディートリヒさんは頑なだった。
「…。」
たまらなく悔しくなって唇を噛んで俯く私を見て、願いは拒まれたと理解したのか、妹とチャラ男は力無く椅子に座った。多分表情は、浮かない。
「…何でですか、何で俺たちはアカンのですか。」
「ちょっとアンタ、」
尚も食い下がる関西人の肩を掴んで制止する私の手をはね除けて、私の胸ぐらを掴んだ。…ひどく焦っている様子だった。
「何で俺たちは行けへんのや!!」
「むっ、…無理なモンは無理なんだから、せめて状況が分かるまで待たないと…」
「分かるまでって、分かるのは何時なんや!」
「そんなの知らない。あぁもう、待って。」
全部私に聞かないでよ。まるで私が分かってるみたいに言わないでよ。気分が悪い。
「…じゃあ、調査ってどのくらいで終わりますか。」
胸ぐらを掴まれたまま、私は声音だけ呑気にディートリヒさんに問う。
「明日から、一日か二日で終わらせる。お前の言っていた研究者の所にも寄ろう。」
「え、マジで。」
おっと素が出た。にしても一日二日でとは、そんなこと出来るのだろうか。
「俺とメリーとシャルだけで行く。準備ができ次第、今日にでも発つ。」
「随分と急ですね…分かりました。私たちは留守番します。
一日二日あれば終わるって。文句無い?」
やや喧嘩腰に関西人を睨めば、そうなんか、と小さく呟いて椅子に座った。今感じているのは怒りか悲しみか、その沈鬱な面持ちからは見てとれはしないけれど、冗談を言えるような気分でないことくらいは理解した。
…まさか、こうも早く焦りが出るとは思っていなかった。しかもそれが、関西人とは。もしかしたら家庭の事情で何かあるのかもしれない。しまった。ここで手がかりを伝えることはむしろ逆効果だったのかもしれない。
「…ごめんな。」
「別に。」
掠れた関西人の声に、絞り出したような言葉に私は短く捨て台詞を吐き、小さく一つ、欠伸した。
「じゃあ後はどうでも良いんで風呂入っていいっスか。」
「お前とお前が連れてきた奴等が水汲み当番な。」
「えぇぇーこの前もやったのにぃー。」
「タダ飯プラス泊まらせてやってるんだ。これくらい当然だ。」
ついでに水汲み当番に任命された。チッ、面倒くせぇ。
稚拙な作品を読んでいただきありがとうございます。
やはり今回も置いてかれるジュード…可哀想な子!
※変なタグ付いてね?と思われた方、正解です。変なタグです。
素敵な他の作品の中にぶち込んで応募してみました。まぁこんな作品、第一選考で門前払いが目に見えてますので落ちたら是非(と言うか落ちるので)、ざまぁみろと笑ってやってください。
※そんなわけでこれを機に誤字脱字の訂正や多少言い回しを変えました。話の大筋は変わっていません。読み返してて思ったんですが、よくこんな酷い小説でブクマ2ケタも頂けましたよね、読んでくださっている皆様には感謝してもしきれません。
※ちなみに8話あたりが内容が一番大きく変わっているかと思われます。
※知ってほしい変更点
創世の魔女→魔女
次回、「名前で呼んで」
ヴェルターニュ地方に向かう前夜。とりあえずほんのりとラブのかほり?何編か明かされるのは恐らく二、三話先です。
更新は一週間以内を目標としてますが、遅れるかもしれません。




