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だから私はやる気が出ない。  作者: 灯火
一章 私と村と恩人(仮)編
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2話 あのね私は寝たいんです。


目が覚めてまず飛び込んできたのは眩しい朝日。そして、寝る前の獣の唸り声とは正反対の、小鳥の可愛らしい鳴き声だった。窓辺に二羽寄り添って、仲睦まじく何かを語り合っている。


可愛いなぁ、お前は。

あなたこそ、とっても男らしくて素敵…。


ちゅんちゅん。


「…。」


愛してるよ…。

そんなぁ、私の方が…!


ちゅんちゅんちゅん。


「……。」


いや、俺の方がお前のことを愛しているね。

私はその倍愛しているわ…!


ちゅんちゅんちゅんちゅ、


「うるせぇクソ鳥、焼き鳥にすんぞ!!」


鳥に向かって叫べば、驚いてつがいの鳥たちは去っていった。むしろ爆発すれば良かったのに、死滅しろリア充。この私の神聖なる眠りを妨げるなぞ断じて赦され…


「んぁ?」


とそこで私は気付いた。いや呻き声が女らしくないとか今さらだから。きゃあとかいう叫び声ってあれ都市伝説だろ?

…それは置いといて。確か私は夜の寒い森で寝ていたはずだけど…いや山か?まぁどっちでもいい。


私はちゃんとベッドで寝ていた。枕もあって、敷布団も掛け布団もあって、ふかふかのぽかぽかだ。しかしここは私の家ではなく、部屋はヨーロッパを連想させる洋風の木造建築のようだった。

寝たままの状態なため、部屋の様子が全体とまではわからくとも、とにかくここが見知らぬ場所なことは、明白だった。


知らない土地に飛ばされ知らない家に居る…どうすれば良いのかと一通り考えた末、眠いからまずは二度寝しようと私は再び目を閉じた。







再び目が覚めてまず飛び込んできたのは、まるでエベレストかと錯覚するような、あれだ…うん、パイオツだ。上品に言えば豊満な胸だ。言っている内容が全く上品ではないが、とにかく目の前にはおっぱいがある。おっぱーい!

…状況を整理しよう。ちょっとおっぱいにはしゃいでおっぱいとか心の中で叫んでいる場合じゃない。ボインのお姉さんに股がられてるなうっていうかこれ騎乗位って言うんだっけ。下ネタには詳しくないから分からないけど、ラノベでよくあるようなシチュエーションだ。私が女でなければな!別に私は百合が好きではないしおっぱいに興奮する変態おじさんの性格を持つような女キャラでもな、


「おっ客さぁん朝ですよぉぉぉぉぉぉぉ!!おっはようございまぁぁぁっす!」

「っうぇッ?!…はぁ?」


いきなり頭上で叫ばれて、思わず声が出てしまった。

っていうか起きてるって。私ちゃんと目ぇうっすら開けてたよね?


「さぁ私に続いて復唱してくださいっ!おはようございますっ!」

「……オハヨウゴザイマス。」


とっても心地よく朝の挨拶をしたあと、改めてボインのお姉さんを見る。ジャ○ーズをお笑い芸人だと認識している私でも分かる程美人だった、というか、そんじょそこらのキレイだとかもてはやされる芸能人より、余程キレイに見えた。

はっきりと二重のくりくりとした深紅の目と、同じく深紅の髪はゆるくウェーブして腰まで伸びている。髪が彼女の動きに合わせて揺れると、なんだか炎が揺らめいているように見えた。見た目年齢は私と同じくらいで17くらいかな、なんてまだはっきりとしない意識の中でぼんやりと考える。


「ねぇジュード!お客様起きましたよぉぉぉぉー!」


元気よく叫びながら、アイビーグリーンのワンピースと白のエプロンを翻して慌ただしく去っていくボインを眺めて私はようやく三度寝できると一つ欠伸をして頭まで毛布を被って寝…


「おい起きろ。」

「ぬぉっ…あたしの布団…!」


ボインさんの明るく可愛らしい声とは真逆の、絶対零度並みの冷たい男の声と共に我が生涯の伴侶が奪われた。

おそらくこいつがジュード。私を見下ろす藍色の猫のようなつり上がった目と短くツンツンとがっている髪は全体的に見て、なんだか偉ぶった感じだ。腹立つ。見た目年齢はボインさんと私と変わらないか、少し上だと思う。


「返してマイハズバンド!…あぁ…もう離さないよ…愛してる。」

「これはここの家の物だ!…布団に引っ付くな!なんだこいつ、虫か?気持ち悪い!」


私が布団に抱きついて、ジュードとやらが引き剥がそうと強く引っ張るので、次第にずるずるとベッドから引きずり下ろされるけど構わない。この布団こそ我が夫。もう離さないッ…!


「くっ…離れろ変態!」

「おぶぅっ!何て鋭い蹴りっ!」


野郎の蹴りが見事私の鳩尾にクリーンヒットし、私は奇妙な呻き声と共にごろごろと床を転がった。あーもう萎えた、ヤル気出ん。私は床と結婚する。ベッドまで1mもあるじゃん遠すぎだって。


「はーっ、はーっ、…何だこいつ…」

「ちょっとジュード、大切なお客様に何をするんですかぁ!」

「これのどこに大切にする要素がある!おいお前!…って床で寝ようとするなぁぁぁあ!」

「…あーぎもぢわるぅぅ…起き上がるのめんどくさい…ベッドまで距離遠すぎ…もう良いやここで寝る…。」

「ほらジュードのせいでお客様の気分が悪くなられたではないですか!ディー様に言い付けますからね!!」

「俺のせいなのか?!やめてくれメリー!それだけは!!」

「あ…このままベッドまでよろしくお願いします…私をベッドへ連れてって。」

「了解ですお客様!

知りません!お客様を丁重におもてなししろと言われたのに乱雑に扱うジュードが悪いのです。」

「頼むぅぅぅメリーぃぃぃそれだけはぁぁぁぁぁぁ!」


私自身分かっていたよ。端から見れば明らかにおかしい様子だって。

ボインの姉ちゃん一人に膝から崩れ落ちた男と床に寝ている女がしがみついているこの状況が。


「…何やってんだお前ら。」


「…はっ、ディー様!おはようございます!」

「ディー様ぁぁぁお許し下さいぃぃぃ!どうかあの罰だけはやめてくださぃぃぃぃ!」


お前どんな罰食らったんだよ前に。

…とりあえずディーさんとやら。そんなドン引きした顔で此方を見るの止めてくれませんかね、寝れません。





鳥の会話は主人公の妄想ではないですよ。

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