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だから私はやる気が出ない。  作者: 灯火
三章 ゴブリン王国 編
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26話 変異した異変




「…わぁ…朝だぁ。朝日がー、気持ち悪ぅい…。」


馬車から降りた途端に眩い朝日が私の目を鋭く刺す。眠い。ただ眠い。

何日ぶりかの我が家についた頃にはすでに陽は昇り、そして私は一睡もしていない。あの後さらなる説明を受け、そして新たに教わった情報に私の何よりも大切な睡眠時間は泡と消えた。眠い。


「もう良いや何だって…マーシュさんが偽名だったとか行方眩ました野郎とかどうだって良いよ…もう、寝させて…。」

「何言ってんだ。お前が連れてきた奴らの部屋の用意やら説明やらはお前の仕事だぞ。」

「…ファック…マジあの魔女ファック…次会ったら10回は殺す…。あとディートリヒさんの鬼畜…鬼…悪魔…デーモン…」


もう叫ぶ気すら起きなかった。とりあえず全ての元凶である魔女に復讐を強く誓っておいて最後の力を振り絞って愛しの我が布団へと向かうべく扉を開きーーー…


「ディア様ーーーッ、お帰りなさいませーーーーッ!!!」

「おぶへぁっ。」


解説しよう!家の扉を引いて開けようとしたら勝手に扉が開いて顔面と扉がコンニチワだぜ!とりあえず追い討ちをかけられて力尽きた私は横に倒れたぜ!!眠いぜ!!


「…。」

「っきゃぁぁぁぁディア様ぁぁぁぁぁぁぁ?!?!一体誰がこんなことをぉぉぉ!!」

「お前だ、メリー。今のはどう考えてもお前の仕業だ。」

「何と?!申し訳ござませんディア様…このメリー、一生の恥…私の命を以てしても償うことは出来ません…!!あぁ、どうすれば…!」

「…メリーさん、茶番はこのくらいでとりあえずベッドまで運んでくれませんか。」


とりあえず眠いから。ひたすらに寝たいから。ぷりーずていくとぅーべっど。


「はぁい、了解でございまーす!」


メリーさんにお姫様だっこされると何か凄い安心するんだよね。こう、強者の腕に抱かれる心地よさ、的な。

あぁ…もうここでなら寝られそ…


「あだだだ痛い痛い痛い、ディートリヒさん頭を掴まないであだだだだ!怪我人!アイアム怪我人!」

「ちょっとディー様!ディア様はお疲れなのですから、休ませてあげてください!そちらのお客様も、今日くらいはお休みになるべきでしょう!」

「メリー…お前、完全にディアの側に付いてんな。」

「はぁい。忠誠を誓っておりますので。」

「おい、俺のときはとんでもない時間かかったのにディアは数日かよ。流石に凹むんだが。」


ディートリヒさんのそれを聞いて、メリーさんと一緒に風呂に入ったときにメリーさんが話していたことを思い出す。


「何を仰っているんですか。優先度はディア様の方が上で御座います。」

「不用意にメリーさんを口説こうとしたからですよ、この色情魔。」


使える手札は使うーーーそう、今だ。


「ディー様ぁ?!一体何をやらかしたのですか?!…まさかディア様に手を出したなどと言う許しがたいことを…!!」

「ディー!メリエルグを口説いたとはどういうことだ!! 」

「いや、違っ、誤解っ…ディアァァァ!!」


よっしこれで邪魔者は居なくなったぞー。


「さぁって寝るぞー。」

「生川さん…俺らどうすれば良えんや?」

「知らね、私寝る。」

「えっ、ちょっ、えぇぇぇぇぇえ?!?!ちょっ、この修羅場っぽいのどないすんねん!」

「修羅場っぽいけど多分修羅場じゃないから。以上。」


このあとめちゃくちゃスヤァした。

ざまぁみろディートリヒさん。交渉を破った罰だ。

私が布団に入った直後に、ディートリヒさんの悲痛な叫びが山にこだました。







次起きたときは陽は高くまで昇っていて、多分今はお昼ぐらいなんだなとは思ったけれど、三度の飯より寝たい私はもう一度布団にもぐって…


「たっ、…頼む…ディア…謝るから…こいつらの誤解…解いて…くれ…」

「おやおやディートリヒさん、二人の美人に剣を突きつけられ喉を締められ、モテモテじゃないですかぁやっだぁ。」


そう答える私は勿論布団の中だ。起き上がる訳がない。


「ちゃんと休みやるからッ…!」

「へぇ、具体的には。」

「…一週間。」

「誠意が見られませんね。それでは前と同じです。」

「にっ、二週間!だから、早くッ…首が締まっ…」


メリーさんガチな方向で首絞めてるのね。いいぞやれー。と言いたいけれど、契約は守らねばならない。


「マーレさんマーレさん。ディートリヒさんがメリーさんを口説いたのはずっと昔のことですよ。メリーさん一ミリもなびいてませんよ。」

「そうかそうか。へーえ、そんなこと私は一度も聞いてないぞ?ディー。」

「メリーさんメリーさん。ディートリヒさんが押し倒したのは私じゃなくてそこのマーレさんですよ。」

「へぇ、そうなんですかぁ。それは安心しましたけどやはり聞き捨てなりませんねぇぇぇぇ!!」


あれ、おかしいなぁ。まあ、誤解は解いたし、いっか。


「契約完了。さって二度寝するかー。」

「おいっ、ディア助けっ…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


再びディートリヒさんの絶叫が近くの山にこだました。

こだまでしょうか…いいえ…誰でも…。













次に起きた頃には空は紅色に染まっていて、空腹も流石に無視できないほどのものとなっていたので、欠伸をしつつメリーさんに今日の夕飯のメニューでも聞こうとリビングにやってきたら、ディートリヒさんは正座させられ、メリーさんとマーレさんが何事かディートリヒさんに説教していた。一体いつからそんなことをやってたんだろう。ディートリヒさんが悲痛な顔でこちらに助けを求めてきたけどそんなことはどうでも良い。


「メリーさん、今日の夕御飯は何ですか?」

「はぁい、ディア様。今日はこのクソ野郎が買ってきたパスタでお客様をもてなそうと思っておりますぅ。」


あっれー、おかしいぞー?いつのまにディートリヒさんはパスタを買ってきていたのだろうか。

さては私とはぐれた後にマーレさんと買い物デートでもしていたんじゃないか。


「ディートリヒさ…」

「…!!…!!!」


かつてないほど必死な表情で首を横に振られた。

言ってほしくないらしい。


「おっかしいなぁ。私と居たときはそんなの買ってなかったのに…もしかしてマーレさんと居るときにでも買ったんですかー?二人きりで?仲睦まじく?」


てめぇの事情など興味ねぇよと爆弾投下。

するとメリーさんはにっこりと日だまりのような優しい笑顔のままディートリヒさんに振り向いた。ちょっと流石に怖い。


「ディー様ぁ…?この脳筋とぉ?二人きりでぇ?仲睦まじくぅ?お買い物デートをしてやがったでございますですかぁ?」


敬語が色々と崩れ始めてる。これは本格的にヤバイらしい。何せディートリヒさんの顔がひきつっている。


「放置された私は危険な仕事を余儀無くされて、ズタズタのボロボロになりながらも働いてきましたー。」


しかしここで手を緩めるのは優しい奴だ。よし、追い打ち完了。


「しかもディア様を差し置いて自分だけ楽しそうに女と乳繰りあってやがったですとぉ…?」

「わっ、私とディーは偶然会って、そこから成り行きで一緒に買い物しただけであって乳繰り合うなどと破廉恥なことは…!」

「貴女のような高貴な身分が街を一人で不用意に出歩くなんて無いでございましょう、…何れにしても、問答無用でやがりますぅ♡」


とりあえず巻き込まれるのは嫌なのでそそくさと外に出ると、家の中から三度目のディートリヒさんの絶叫とよくわからない爆撃音が周囲に轟いた。






「おい、中で何が起きてんだよディア。」


外に出てすぐジュードが私に聞いてきたけど、関西人たちとしゃがんで地面に文字を書き続けているお前らにそっくりそのまま返したい。


「修羅場。」


案外間違いでもないので端的に説明すると、ジュードは納得してあぁと若干顔色を悪くして声を漏らした。そりゃああの二人の中に突撃するような勇気はジュードには無いよね。確実に鶏小屋行きという名のオシオキだよね。むしろそれでも済まなさそうだ。


「んで、そっちは?」

「ん?あぁ。言葉は分からねぇけど文字は書けるみてぇだから、この俺様が筆談で色々と教えてやってる。つーかお前の仲間だろ。お前が教えてやれよ。」

「私だってこの世界のこと、まだよくわかってないし。あとそいつら仲間じゃないし。」

「こいつらお前のこと恩人だとか言ってたけど間違いじゃねぇの。」


失敬な。恩人は否定しないぞ。

この私が貴重な睡眠時間と体力とお金を使って助けてやったんだから、半生くらいの恩はあると自分では思う。


「なぁ、どうせなら生川が翻訳してくれないか。流石にずっと魚佳が書いてるから休ませてやりたいんだが。」

「そうじゃ。先より長き間、妾はこの地に言葉を刻み続け、腕は限界なのじゃ。」

「めんどくせーからパス。別にこの世界のこと詳しく知る必要なんて私には…」


と、そこでふと思い出す。

そう言えばこいつらにはマーシュさんが偽名を使ってて実は凄い人だったってこと言うの忘れてた。て言うか面倒くさくてやめたんだった。


『そもそもこの数年間、存在の尻尾すら掴ませなかったと言うピエール・ディアマンテが今になってギルドに依頼を出すのは不自然だな。』


さらに芋蔓式に、マーシュさんの一件について話したときのディートリヒさんの一言を思い出す。

確かに、今さら感は半端ないけど、やけにあの人は“黒の民”に対する執着心があったように思える。否定してもあの人は私たちのことを“黒の民”と呼び続けた。大した確証もないのに。あの人が作った魔具をぶち壊しただけなのに。

まるで悪魔の証明じみたことを言って、殆ど無理矢理お伽話上の“黒の民”をいると言い張った。

“白の民”でありながらも国随一の魔具職人。そして早々に引退し行方をくらます…そして今になって姿を現した…?あの灰色の目では仮面でも被らない限り隠せないし、私たちと会ったときには白色の髪を隠す気すら微塵もなかった。

“白の民”と“黒の民”。出会ったのはただの偶然で、ただのご都合主義なのか。…そんなことあってたまるか、私はラノベだかweb小説だかの主人公じゃない。逆ハーレムも作らないし奇跡もご都合展開も起こせない。チートな能力だって持ってない。多分。魔力量に関してはまだ保留だけど…。


…まぁいいや。考えるのめんどくさい。ここで変なことを言って関西人たちに、特に関西人妹にマーシュさんに対する不信感を植え付ける意味もないし、やっぱり黙っておこう。


「…何じゃ、急に黙ってしまったぞ。」

「目を開けたまま寝てるんじゃないのか。」

「何やて?!えらい器用やな…。」

「んな事できるかてめぇら。」








その日の夕飯はナポリタン(に似たもの)だった。

あとディートリヒさんは精神と体、共にズタボロになっていた。

こりゃざまぁねぇ。いやぁ、何時もにも増してナポリタン美味しいですよ、メリーさん。


「愉快な話ですね。私腹がよじれそうですー。」

「心にも思ってないことを言いやがってこの悪魔…。」

「徹夜明けの人間に重労働を強いようとする仕事の鬼には言われたかないです。」

「次やったら確実にディー様を潰しますからね。」

「…何をだ…?」

「ナニをです。」


流石メリーさん!素敵な笑顔で恐ろしいことを仰る!ジュードも真っ青だよ!


「おかわりじゃ!」

「あー、おかわりか?分かった、よそってきてやるから俺様に感謝しろよ?」

「ふふふ、誉めてつかわすのじゃ!」


空っぽの皿を突き出す関西人妹にナポリタンをよそってやるジュード、言葉は通じてないけどこの二人、意外と会話成立してるし実は相性良いんじゃないか?

…それでメリーさんとマーレさん、何かディートリヒさんを挟んで睨み合ってるけど何だろうこの…修羅場?ハーレム?まぁどうだって良いや。


「何や、普通に楽しいとこやなぁ。こう言う大人数でご飯食べるなんて、良えやろ?生川さん。」

「は?…まあ確かに、賑やかね。」


自慢じゃないけど一人っ子な上に両親は共働き、あと交友関係も狭い私は、クラス会にも参加したことはないし、こうやって大人数で食事会まがいのことを行った経験はほとんどない。だから少しだけ不思議な気分だ。


「…楽しい、ねぇ。」


楽しい、のだろうか。正直、よく分からない。

複雑な心境に私が眉に皺を寄せていると、突如部屋に火災報知器のような警報音のようなものが鳴り出した。

突然のそれに私含め関西人たち(妹を除く)が食事をする手を止めていると、マーレさんが腰巾着から手のひらサイズの微かに青みがかった水晶を取り出した。


「なっ、何や?!火事か?!」

「ふぁんふぁ?!ふぁふぃふぁほぉほぉっふぁふぉふぁ?!」


関西人は私と同じ思考回路らしい。あと妹!何で食い続けてんだよ!口の中のナポリタンを胃にしまえ!!


「シャル。」

「あぁ、すまない。私の通信用魔水晶だ。」


なるほど、つまりは電話の魔具バージョンらしい。にしても呼び出し音どうにかならないのかな。もう少しマシなメロディーとかなかったの?

じりりりり!とか本気で火災報知器かと思ったよ。


『報告します!シャルラッハロート団長!!』

「あぁ、定時よりも随分と遅かったが、返ってきたか?」

『そっ、それが…上陸したらすぐに通信が途切れてしまって…規定の連絡時刻を過ぎても船は戻ってこないので連絡しました。』

「成る程。分かった。ご苦労。後は私が処理する。お前たちは待機しておけ。」

『御意!』


通信を終えた後、一同沈黙の中、マーレさんが口を開いた。


「これが…ディーに頼みたいことだ。」



巻き込まれませんように。

そう思ったけれど、話を聞いた時点で時すでに遅しなのだと、私は感じていた。







※お前はweb小説の主人公だ。


ブクマしてくれた方、読んでくださった方、ありがとうございます。

※誤字訂正しました。

総合十万字超えました。ひゃっほい!



次回「お留守番」

3月31日更新します。

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