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だから私はやる気が出ない。  作者: 灯火
三章 ゴブリン王国 編
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25話 ピエール・ディアマンテ


マーレさんが用意した馬車、と言うのは、この国実質NO.3が用意したとは思えないほど何の飾り気も無い質素なものだった。6人も乗れるのか不安だったけれど、中は私とマーレさんとディートリヒさんの三人乗りを想定した割りには広く、ディートリヒさんが馬の手綱を握るポジションに出ていなくとも十分余裕を持って座れる広さだった。


「ふっかふか!ふかふかなのじゃー!!」


マーシュさん家での経験から一番に乗り込むのは関西人妹だとはもう分かってたし慣れましたよ、えぇ。てかこいつの体力はどうなってるんだ。今のテンション完全に修学旅行の夜のそれじゃねーか。

しかし馬車の内部は、見た目は質素であろうと、中の造りは高級らしく、ソファは人を堕落させるような感覚に陥るような座り心地の良さで、正直座った瞬間スヤァ…といきそうになった。すぐにディートリヒさんに叫び声でたたき起こされた。ちくせう、眠てぇよぉ。


と言うわけでかくかくしかじか。


「そうか。それは良い社会勉強になったな。働く大人への第一歩じゃないか。俺は喜ばしいぞ、ディア。」

「こちとら地獄への研修ツアー行かされてるようなもんだわぁぁ!」


関西人と出会ったこと(奴隷狩り騒動含め)、ギルドに<自由人>として登録し、薬草採集クエスト、お庭刈りクエストをこなし、マーシュさんに武器・防具一式を受け取ったことを説明し終える頃には日付が切り替わったのですっかり関西人たちは三人揃って並んで寝てしまっていた。


「…起きろクソ共。」


道中魔物が出る可能性があるから寝てると危険であるため、とっっっっても優しい私は持っている杖の先で関西人とチャラ男の鳩尾を刺して叩き起こしてあげる。


「何てめぇら私を差し置いて寝てんだよ。」

「がっつり本音漏れてんぞ。」


失敬な。まったく。


「人がちょうど良い時に起こすなや…ふぁ。」

「人が起きてるときに寝るな。急所狙われたいの?」

「無茶言うなや!それとついでみたいに恐ろしいこと言うな!」

「…生川ならやりかねない。寝れないな、悠仁。」

「もう嫌や…。」


まあ高校生にもなれば一日や二日の徹夜なんて何ともないよねっ。

私は心の底からごめん被りたいが。


「にしても、そのマーシュとやらは随分と気前が良いのだな。やはり未来ある若者への応援かもしれんな。いや、そうに違いない!どれ、どんな物か私に見せてみろ!」


要約すれば暇だから見せろと言うことらしい。

断るとマーレさんは絶対に面倒なことになるから、好奇心に目を爛々と輝かせるマーレさんに反論せずに一番見せやすいチャラ男の双剣を渡す。美人だからこそ、若干目力が強くて怖い。

するとマーレさんはしばらく剣の鞘の装飾を四方八方からまじまじと舐めるように見ては剣を鞘から抜き差ししたり、かと思えば鞘から抜いて馬車の天井に吊り下げられているカンテラの光に刃を当ててみたりと、何故かくまなく観察しては切れ長の瞳を大きく見開いた。


「これは…ピエール・ディアマンテが作った魔具ではないか!」

「…はぁ?」


誰だそりゃ。

まったく聞き覚えの無い人名に私は間抜けた返事しか出来ない。

はて、どうしたものか。これはマーシュさんが作ったものではないのか?会話の中で私の武器、と言ってたような気がするんだけど…どこかの武器屋から卸したのだろうか。いや、そうじゃないと困る。


「ディートリヒさん、ピエールなんとかって知ってます?」


外で馬車を操縦しているディートリヒさんに割と素朴に私の質問を投げ掛けると、何故か呆れられたように溜め息を吐かれた。いや、むしろ呆れと言うよりかは疲れの方が近いかもしれない。


「知っているも何も、<無能者(スノウ)>でありながらも才能を見込まれて魔具職人マジッククラフトワーカーになった伝説とも呼ばれるべき人間だ。」

「…。」


私は頭を抱えて胃が締め付けられる感覚に憂鬱な溜め息を漏らすしかなかった。もうやだなんなの。何でこんな厄介事に遭遇するの。マンガの主人公並みの遭遇率じゃねーか。

つかあのジジイ偽名使ってんじゃねぇよおぉぉぉぉぉ余計嫌な感じすんじゃんかよぉぉぉぉぉ!!


「ついでだから知っておけ。」

「お願いです止めてくださいこれ以上私の胃を攻撃しないで…。」

「単純に魔具職人マジッククラフトワーカーとしても天才だったんだが、研究者としても何百年に一度の天才で、このラグリア王国の魔石の利用を初めとした様々な魔具を開発した存在だ。お前も見ただろうギルドの魔導人形(マシンドール)を作ったのもピエール・ディアマンテだ。」

「ラグリア語以外にも三ヶ国語喋れたらしいからな、とても頭の良い人物だぞ!」

「…。」


もうやめて…マーレさんまで…私のSAN値はもうゼロよ…。

あと魔石って何…。


「しかしかなり前に突然武具生産を止め、魔導人形(マシンドール)の開発を最後に姿を消してしまったんだ。

ピエール・ディアマンテの作る魔具の質は最高級で、特に武器の魔具を欲する<自由人>や騎士にとっては憧れのブランドだ。だからこそ引退して身を隠した彼を<自由人>や騎士たちは血眼になって探したものだが、一切の情報すらも無いらしい。」

「今じゃあすっかりレア物として価値が上がってしまってな。市場に出回ってすらいないから、現在の価値だと本当に安いものでも金貨10枚はいくぞ。」


金貨一枚10万円×10=100万円。

…うん。ぱ、パチモンだよね、きっと!


「ほら、に、偽物って可能性も…」

「それはない。」


微かな希望もマーレさんに一刀両断された。双剣だけに。

きりきりと私の胃が痛む。


「数多の武器を握ってきた私は見ただけで分かる。これは相当な物だ。金貨500枚でも安いくらいだぞ。」


金貨一枚10万円×500=五千ま…やめて!私のライフはもうゼロよ!


「な、何か依頼者のおじいさんが倉庫の奥に眠ってたものをくれて…きっと偶然そこにあったんでしょうね。」


どこかの鑑定団にお宝を調査してもらったきっかけみたいなことで一応乗りきろう。そうじゃないとディートリヒさんが…


「おぉ、よう見たら利人の剣と同じマークが俺の斧にもあったで!」

「つーか俺達が貰った魔具全部にそれ付いてるな。つか、生川のブーツにもあるな。」


オイイイイイイイ関西人とチャラ男ォォォォォォォ!!何マーレさんに見せつけちゃってんの?!バカなの?!


「お、お前らの魔具…全てピエール・ディアマンテのものではないか!」


マーレさんの発言がとどめだった。もう怒る気力すらありゃしない。


「そ、倉庫の奥に偶然眠って…」

「ディア…まだ戻るまで時間はあるから、ゆっくりと話そうじゃないか。」



今なら血涙が流せそうな気がした。





作品を読んでいただきありがとうございます。

今回は短めです。

というわけでマーシュさんは偽名ということで実はすごいピエール・ディアマンテでしたー。

名前の由来が分かった人、先着三名様に豪華景品は当たりません。

そのうち由来は後書きのところで明かすかもです。今はネタバレになるのでお口ミッフィーでする。


※寝起きに書いたので誤字脱字のオンパレードでした。修正しました。

※何か今になって誤字発見。修正しました。


次回「変異した異変」

不穏な気配。

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