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だから私はやる気が出ない。  作者: 灯火
三章 ゴブリン王国 編
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24話 “紅”一点の頼み事


長い道程を経てようやく王都に帰還し、ギルドで報酬の受け取りの手続きも終えた私たち一行は、顔に疲労を滲ませながら宿へとたどり着いた。本当に最悪の二日間だった。詳しい理由も教えず強制労働を強いたディートリヒさんに一週間は休暇を貰わなければ釣り合いがとれないだろう。一応マーシュさんの依頼報酬9万は換金したし、しばらく関西人たちも家に厄介させてくれると…良いな。


「私から頼みはするけど、そうホイホイと居候を増やしてくれんのかな、ディートリヒさん…。」


ドアノブを掴んで一人ごちる。

捨て犬やら捨て猫を拾って来て、親に飼って良いか問う子供の気分だ。いや、犬猫と違って労働力になるから!なんて自分で自分にフォローしたとて気分は晴れない。しかし宿の廊下で武器を持った者が四人も立ち止まっていては迷惑になるから、居もしない実態の無い何かに背中を押されて扉を開いた。

あー、ディートリヒさん驚くだろうなぁ…ワンピースからいきなり物々しい装備だもんなぁ…割に合わない報酬もらったって言ったらどんな反応するか楽しみ、


ガチャッ


「あ゛。」

「あ。」


扉を開けた瞬間飛び込んできたのは、ひどく見慣れた鳶色の容姿をした優男が金髪碧眼ボインをベッドに押し倒す光景だった。


…。

……。

………。


ガチャッ


「いやーうっかり。宿を間違えちったー。ここラブホだったみてーだわ。」

「誤解だ、ディア!!」

「うわちょっと近付かないで下さい色情魔。昼間っから発情しやがって。」

「誤解だっつってんだろ!!」

「メリーさんにはちゃんと秘密にしときますから休暇一ヶ月下さい。」

「…人の弱味を握ったと思ってここぞとばかりに交渉しに来やがって。」


失敬な。使える手札は使う主義なだけだ。

…まあ、茶番はこれくらいにしよう。そうでないとディートリヒさんに怒られそうだ。すでに拳を握って頬がひきつっている。


「んで、その人誰ですか。10文字以内で説明してください。」

「10文字数える気も無いくせに何言ってんだ。…とりあえず中入れ。っつーかお前だって何か引き連れてんじゃねぇか。」

「類は友を呼ぶってやつです。後でちゃんと説明してあげますから。」

「面倒だとか言いそうなお前がか…?明日は雨か、いや槍か。」

「こっちは微塵も望んで巻き込まれちゃいねーわ。」


部屋に入りながら互いに互いをとやかく言い合って私と関西人妹がシングルソファに腰掛ける。向かい合って、ディートリヒさんと謎の金髪碧眼女。ベッドの広さの関係であぶれた関西人とチャラ男は関西人妹の隣に立った。ちなみにフードは被ったままだ。


改めて女を見る。

直視するだけで気圧されそうなほど意志の宿った、海のような澄んだ碧色のぱっちりと開かれた瞳に、高級な絹かと錯覚するほど日の光に艶めくサイドテールに結われた金髪。染み一つ無い肌によく映える両耳の丸い赤珊瑚色のピアス。そしてメリーさんに負けず劣らず主張する胸の膨らみ。フルアーマーとまではいかないが、銀の鎧で体の所々が覆われているのだが、それでもはっきりと人目を惹く程の大きさだった。少しでも屈んだら中が見えてしまうんじゃないかと見ている此方が不安になる程の短い赤色のスカートから伸びる脚や、頑丈そうな鎧の隙間から覗く腕は物騒な鎧とは不釣り合いにひどく華奢で、彼女が背負う、身長を軽々超える大剣を扱えるなどとは到底思えなかった。要するに金髪碧眼の美人のボインの姉さんだ。ちょっとメリーさんと説明が被った気がするけど、こっちはキリッと系でメリーさんはおっとり系だから多分大丈夫だと思う。何が大丈夫かは知らないが。つか乳だけじゃなく武器もデカイとか笑える。いや顔は笑っちゃいないけど。


「改めて紹介するが彼女は…」

「第九騎士団団長、“紅の姫騎士プリンセスオブクリムゾン”シャルラッハロート=マーレだ。ディーとは昔からの馴染みでな。今回私から頼み事があり、今ここにいる。さっきのはその…けしてやましいことではなくてだな、ちょっとした事故なのだ。面目ない。」


うっわぁ痛ぇ称号。何それ。赤いのは貴女のスカートくらいなんですが。あとさ、うん、あー、なんて?名前長すぎてマーレしか覚えられん。

まあその、マーレさんは第一印象と口調からしてはさばさばとした、やや男勝りの性格な生真面目な女性らしい。言葉の最後には顔を赤らめて俯いているあたり、色事には疎いと見える。


「まだお前には教えていなかったが、このラグリア王国には12の騎士団があり、これらの団長が国の中枢を担っていてシャルラッハロート様もその一員で…」

「何を畏まることのある、ディー。前のように…シャルと呼んではくれないのか。」

「だが、身分がだな…」

「今は公の場では無かろう!頼み事も私個人のコトであるが故、敬語は禁止だ!」

「…分かった、シャル。」

「うむ。」


昔のように愛称で呼ばれて満足そうに頷くあたり、私も分かった。これホの字ですわー。この金髪碧眼、完璧にディートリヒさんにホレてもうてるがな。


「で、用事って二人の結婚報告ですか。」

「けっ?!けけけっ、結婚だと?!そんなっ…色々な過程をすっ飛ばしていきなり結婚などとは…!」

「落ち着けシャル。あと何故否定しない。」


カマをかけたら案の定。分かりやすいにも程がある。

何を妄想してるのか端から見ても分かるくらいニヤついている姿を見ると、嘘はつけない性格であることもわかった。


「あー、で、騎士団団長?でしたっけ?偉いんですか?」

「偉いも何も、国で実質三番目に偉いんだぞ。王族抜いた貴族の中じゃ、ほぼ一番だ。」

「うわめっちゃ偉い。」

「分かってないだろお前…。」


つまりは大臣クラスってとこだろう。えー物凄く偉いじゃん。貴族様じゃん。


「えー、じゃあこっちサイドの説明ですかね。」


そんな偉い人が何で一人で此処に、と聞くのは面倒なので割愛。


「ディアです。訳あってディートリヒさんのトコに居候してます。あとは…あー…」


それ以上喋って良いか分からず、言葉に詰まる。今のところ異世界から来ましたー☆なんて話したのはディートリヒさん達三人だけだし、この世界では非常に稀有な見た目を晒して良いのかも躊躇われて、判断をディートリヒさんに視線を寄越して仰ぐ。すると、ディートリヒさんは首を縦に振って首肯したので、


「アンタら、フード取って。」


そう関西人たちにも促して真っ先にフードを取り、マーレさんに真っ暗の姿を晒す。


これは、ちょっとした賭けだ。負けたときのリスクはバカにならないが、しかし勝率は此方側が圧倒的に高い。その理由は単純明快。


生真面目、嘘がつけない、そして私の多少の無礼もあまり気にしないあっけらかんとした性格。つまりこいつは十中八九ーーー…



「お前ら…まさか…巨大深海タコの墨を被ってしまったのか?!?!」



生粋のバカだ。

予想してたより遥かにバカだったけど。


「ちょっと違うんですけど…まあそんなこところです。」


一々嘘を嘘で訂正するのも面倒なのでそういうことにしておくと、マーレさんは何を納得したのか何度も頷いては私の両肩に手を置いて、


「そうか、それは大変な事になってしまったな…!そんな姿では自由に外も出られまい…。辛いこともあるだろうが、頑張れよ!」


なんて某炎の妖精テニスプレイヤー並のお熱いお言葉を贈ってくださった。そりゃどーも。


「ディア。…何故増えている。」

異世界人(どうるい)ですよ。放っておく訳にもいかないでしょう。」

「…一ヶ月分の休暇と引き換えな。」

「プラスマイナス0…良しとしましょう。」

「何でお前が偉そうなんだ。扶養者のくせに。」

「サッセーン。」

「…それ以外にも聞きたいことはあるが、それは移動しながらということにしよう。」


何が悩ましいのかは分からないけれど、ディートリヒさんはしかし悩ましげに腕を組んで息を吐いた。人差し指でとんとんと自分の腕を叩くのを見ると、何やら急ぎ用でもあるようだ。が、自分から面倒事に首を突っ込むようなマゾでは無いので言及はせず、とりあえずお泊まりOKということを関西人たちに伝える。と、全員嬉しそうに顔を綻ばせて、関西人に至ってはディートリヒさんに何度も頭を下げていた。言葉は分からずともニュアンスぐらいは伝わっていると思うのでそこは放置して、


「移動ってどうするんですか。またどっかの商人の馬車でも取っ捕まえるんですか。」


不安に思っていた帰りの交通手段を問う。答えたのは意外にもマーレさんだった。


「それに関しては私に任せろ。すでに馬車は宿の前に待たせてある。」


んなタクシーみたいな、と突っ込みたくなったが、それは飲み込む。


「じゃあ、今すぐ出発するってことですか。」

「そう言うことだ。出れるか?」

「一応出れますけど…そっちは?」

「それがやな…俺らのカバン見当たらないねんけど、知らん?」

「カバン?あー。」


こっちに飛ばされるときに持っていたスクールバックのことだろう。私も持っていたが、すでに魔女によって処分済みである。おそらく関西人たちのものも。


「異物として処分済みだと思う。」

「それやったんって、俺らをここに連れてきた魔女っちゅーやつか?」

「何だそれ困るぞ!俺のエロ本!!」

「妾の黒魔術本!!」

「無くても困らないし学校に関係ねぇモン持ってくんなよ。」

「エロ本は困るに決まってんだろ。オカズが無くては抜け」

「ディートリヒさーん私たち今すぐ出られまーす。」


やれやれ。説明やらなんやらで帰りもゆっくり寝ることは叶わなさそうだ。この先に何が待ち受けるか何て微塵も知らずに呑気に私は大きく欠伸して、窓から見える真っ赤に染まった空を眠そうな目で見やった。









評価&ブクマ&読んでくださってありがとうございます。

新章突入でございますがまだ何編かは伏せときます。言っちゃったら完全なネタバレですし…ね。


次回「ピエール・ディアマンテ」

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