22話 追加報酬
結局パンだけでは物足りないだろうからと、ちゃんとした食事を出してくれるとのことで立ち上がったマーシュさんは去り際に、
「実はこのハーブティー、治癒や疲労回復効果の高い薬草を煎じて作ったものなので、飲めば回復も早まりますよ。」
なんて言っていた。漢方の類いか、と思って透き通った翡翠色のハーブティーを覗きこんでいると、チャラ男が腕の痺れが取れただのと喜んでいた。マジで?なら飲むっきゃないじゃん。
ーーーでもさぁ飲めたら飲めてるよねぇぇぇまだ腕動かねぇぇぇぇつーか痛ぇぇぇぇぇ!!!
「生川さん、このお茶飲まへんのか?飲んだらあっちゅーまに疲れ吹っ飛ぶで?翼生えるで?」
「おい、そのキャッチフレーズはやめろ。」
「じゃあファイトォォォォォイッパァァァァァッツ!!!か?」
「チャラ男も黙れよ。」
「つーかエナジードリンクの類いの色って大抵色が黄色だから何だか…」
「言わせねーよ。ぶっ飛ばされたい?」
「悪い悪い。まあ緑色だから飲めるだろ。味は普通に緑茶みたいだったぞ。」
「味はハーブティーじゃないのね…。」
薬草が入ってるなら多少苦いのも、まあ納得がいく。
ただ飲めって言われてもさぁ。
「…生川さん、腕…動くん?」
「…あ、脚は動く。」
私は明後日の方向を向いて口を尖らせた。
「図星やろ!何で下手に誤魔化すん!!」
「あーはいそーですよ飲めません!!」
「じゃあ俺が飲ましたるわ!!」
「ふざけんな!手前に『あ~ん』ならぬ『ごっく~ん』なんかされても嬉しくねぇよ!」
「ご、ごっく~んじゃと…。」
「ご、ごっく~んか…。ハイレベルだな。ネーミングが。」
「うるせぇぇぇ!!」
「名前なんてどうでもええやろ、早う口開けい!往生際悪いわ。何をそんなに嫌がんねん!」
「飲めば良いんでしょ、飲めば!!」
口許まで持ち上げられたカップにつられて体が後ろにのけ反るのを堪えて、一体これは何の羞恥プレイだと思いながら嫌々ながらも少しずつ液体を嚥下していく。慎重にカップを傾けてくれたお陰でむせることなく殆どを飲み干して、良かったと安堵した瞬間だった。そっとチャラ男が耳打ちする。
「口移しの方が良かったか?」
予想だにしていなかった言葉に、瞬間、耐えきれずに私は吹き出した。
「ゴフッ?!」
「のわあ?!お、生川さん?!」
「…てめぇ。」
明らかな怒気を孕んだ声と視線を遣ると、チャラ男は満足そうに、かつ愉快そうにけらけらと笑っていた。どうやらこいつは本格的に死にたいらしい。あと私がむせたのは自分のせいかと思っているらしい関西人は不安そうにおろおろと自分の手と私の顔を交互に見ていた。
「お、生川さん…?か、堪忍やで。あとお茶、口から垂れてるで?」
「いや、悪いのはアンタじゃなくてチャラ男なんだけど。」
「く、はははっ!」
「利人殿、何を言うておったのじゃ?」
「あー笑った。ちょっとからかっただけだ。」
うん、とりあえず5発くらいは殴っておくか。
真顔で杖を掲げる私に、やはり関西人は驚いて。
「ちょちょ、今度は利人かいな?!」
「とりあえず好きな死に方を選んだら?大量出血死?ショック死?圧死?」
「迷わず腹上死だ!!」
「生川さん、確かに俺もコイツが悪いと思うわ。」
「貴方の友人直々に殺ってOKが出たから、とりあえず撲殺で良い?」
「おい悠仁、お前までそっち側に行くのかッ…!男なら誰だって変態だろ?!」
「それを表に出すか出さないかが問題なんや。」
「ふん、ならば悠仁はむっつりスケベだな。」
「よっし決めた。九割九分九厘殺しにけってーい。」
「知ってるか生川、人はそれを虫の息と呼ぶんだぞ。」
「命あるだけマシでしょ。さあ歯を食いしばってー君の頭をーレッツデストローイ。」
「はっはっは。“黒の民”の皆さんは大変仲がよろしいですねぇ。」
相も変わらず愉快そうに笑って、昼食をのせたカートを押して戻ってきたマーシュさんに私は慌てて振り上げていた杖を元に戻した。
「仲が良いとは思ってませんけれど。」
マーシュさんの発言の一部を訂正しながら、配膳を手伝おうとしたら、笑顔でやんわりと首を振って断られた。同じことを思ったらしい関西人たちも中腰になっていたが、ニュアンスは伝わったらしく、再び席についていた。
メニューとしてはシンプルなサラダと大豆(多分)の入ったスープ、野菜類を混ぜたらしき緑色のパスタにトマトソース(多分)をかけたもの。…このじいさんは徹底的な菜食主義でも強いられているのか。質素倹約と言うには少し違うような気もするけれど、見事に肉類が一切入っていない、しかし健康には悪くはなさそうなコースだった。味も、比較的薄めな優しいもの。何だかんだ言っているけれどつまりは。
「美味しい、です。」
「そうですか、光栄です。他の方々も気に入っていただけたようで嬉しいですよ。」
そう言って目元の皺を深くするマーシュさんの視線の先には、目を輝かせてご飯を食べ進める関西人たち。おいまて、関西人妹の量だけおかしくないですか。普通に3人前は有りそうな量なんですけど。…突っ込みたいこともあるけど、突っ込むのも面倒なので然り気無く無視して、私は簡単に改めて謝辞を述べる。
「仕事をしに来ただけなのに、逆にもてなして頂いて、…ついでに配慮して一部ご飯を山盛りにもしていただいて、本当にありがとうございます。」
「良いんですよ。こんな老いぼれの話し相手になってくださって、何時もは静かな食事が賑やかになって嬉しいんですよ。」
やはり、何十年も一人でここに暮らしていると寂しさは感じるらしい。無理ないといえば無理ないけれど、こんないい人を差し置いて蒸発した嫁は一体どんな神経をしていたんだ…。
「実は、貴女と私の妻の雰囲気が何となく似ていましたね。つい、色々と話したくなってしまうのですよ。」
A.私(と同類)だった。
「マジ…、本当ですか。」
「ええ。もし私に孫がいたら、貴女のようになっていたでしょうね。」
「何か…すみません。」
かんらかんらと笑うマーシュさんだが、1ミリたりとも笑えない。罵ってるよね?マーシュさん、完全に私を貶してるよね?
「良いんですよ、懐かしくなれて、むしろ嬉しいんですから。」
「そう、ですか。」
「はい、そうです。…っと、話がそれてしまいましたね。その魔具の使い方、でしたね。」
マーシュさんに指摘されて初めて気が付く。そうそう、その話をしていたんだった。
「そのことですが、後にちゃんとお話いたしますので今は一旦置いておいても宜しいでしょうか?」
「と言うと?」
「はい。私の依頼は本来Fランクのものでしたが、まさかあのように巨大に凶暴化した個体がいるとは把握していませんでした。あれは完全にFランクの難易度を逸脱しています。これは依頼した私の責任と言うことであり…、皆さんに、銀貨50枚とは別に追加報酬をお渡ししたいのですが。」
マーシュさんの提案に、私は、あぁと例の巨木を思い出して嘆息する。
ギルド登録時、機械受付嬢にすでに説明はされていたので覚えている。ギルドのクエストには難易度により下からアルファベット順にF~A、S、SSと八段階に一応は分けられ(魔法による訳なので実際の呼称とは異なる)、このランクは上がるほど難易度や危険度、そして報酬額が上がると言うあくまで目安のもので、<自由人>がどのランクのクエストを受注するかは本人の自由である。しかし掌を返せばつまりは何が起こっても自己責任と言うことになり、仕事先で何があろうとも、例え死に絶えようとも、ギルド側が干渉することも補償することもありはしない。悪く言ってしまったけれど、名の無い者でも一発逆転で富豪にも英雄にもなることができる登竜門としてこの制度に不満を唱える者は、まずいない。って受付嬢さんが言っていた。それ自分で言っちゃう?とか思ったけど、多分…嘘ではない。
追加報酬、に関しては、私も日本円にしておよそ五万円の給料では物足りないと思わざるをえない。庭掃除に加えてあれだけの危険生物を退治して五万円って…むしろスズメバチ退治の方がお金貰えるんじゃないか。
「それでその追加報酬の内容とは?」
「はい。…お金ではなく、私が作成した魔具、と言うことでどうでしょう。」
「なるほど。」
一瞬、納得してからすぐにちょっと待ったと自分で心の中で声を上げる。この前武器屋を覗いたときに大体の武器や防具の値段を見てきたけど、武器だけでも本当に安くてでも10万はあった。防具含め全身を装備しようと思ったら50万は最低でも必要になる。
でもまあ、剣一本程度なら良いんじゃないか。今のところ自分の身を守れるような手段を持っているのは関西人妹とせいぜい私くらいで、いくら身体強化魔法+αを持っているとは言え、素手では大量のゴブリンを相手取る時などには厳しいものがある。武器は一本でも良いからあると助かる。
「分かりました。それでマーシュさんが良いなら。」
ここで私が口を出す必要もないので、私は承諾した。
読んでくださってありがとうございます。日が空きまして申し訳ありません。(まあそもそも待っているような人もいないでしょうがね!) 次は早く投稿したいです(希望的観測)
今回は短めです。長いのでやはり分割しました。
※一瞬変な補足を載っけたまま投稿しちゃいましたすみません…。
次回「それぞれの武器」
次回、王都編が終わるはず…!(何回目)




