20話 一刈り行こうぜ!
誤字訂正
時間→自分
その他微々たる修正
「さぁ…一刈り行こうぜ!!」
私たちとラスボスの、巨大な人の形をした木との戦いの火蓋が切って落とされた。
巨木が咆哮する。皮膚がぴりぴりと痛む。しかし、木の腕では届かない位置に私たちがいるので、ここにいる限りは心配はない、…と信じたい。根を伸ばして攻撃するパターンも、十分あり得る話だ。
「妾に任せておけ!呪文はもう覚えたのじゃ!『無限の業火に焼かれよ不浄。我は火司女。我求めしは焼原なり。此の者達に救いの浄火を…<紅焔>』!!!」
先制は、こちらからだった。
魔法によって生み出された巨大な炎の塊が巨木の顔面目掛けて飛んでいく。例えいくら大きかろうと所詮は木。よく燃えるに決まっている。
ーーーその考えは、この世界では通用しない“常識”だった。
『い゛、ぎゃ、ごばが£¥△#¢¥∃∂??!!』
ーーーどうッ!
言葉に出来ないような奇声を発して巨木が大口を開いて吐き出したのは、大量の水。それは関西人妹の繰り出した炎の塊をいとも容易く飲み込み、消し去り、挙げ句にその勢いのまま私たちに襲いかかる。
「くぅ!」
「ッ!」
関西人が自らの妹を、チャラ男が私の腕を引っ張って横に跳ぶ。直後に大量の水が地面を濡らしつつ抉る。ポ○モンに例えるなら、みずてっぽうのそれは中々の威力らしい。直撃してしまえば普通に吹っ飛んでしまいそうだ。
「嘘だろ…水と草の2タイプかよ…どこのハ○ボーだっつーの。」
さっきの言葉に満ちていた私のやる気はすでにどこかへフライアウェイして、私はげんなりと、かつ嫌そうに表情を歪めた。
さっきのみずてっぽう、おそらく木の内部に存在する水分を集めて、勢い良く吹き出したと言うのが原理だろう。
「待て、なら電気タイプの技なら効くんじゃないか?」
チャラ男の言葉に私は頷く。
「木に雷が落ちて折れるって話は聞くわね。」
雷が落ちて木が折れるのは、木の内部の水が急速に膨張して、言わば水蒸気爆発を起こすから、だったはず。
ならば枝の根元を狙って電撃を撃てば…かなりの弱体化を狙える。
「関西人妹、出来る?つーかやれ。」
「ちょっ、生川さん!何や魚佳に対する風当たり強くあらへんか?!」
「は?風当たりが強いのは誰に対しても同じなんだけど。」
「…ひ、否定できへん。」
「で。出来るの?出来ないの?」
「多少の照準を合わせねばならぬが、出来る。」
分厚い本を片手に難しい顔で、だがしかし出来ると関西人妹は言った。
出来るのなら、やってしまおうと全員の考えが一致したところで、改めて私たちは判読不明の奇声をあげる巨木に向き直る。
「なら、俺と悠仁がアレの注意を引き付ける間に魚佳が魔法で攻撃。生川は魚佳を守っていてくれ。」
「りょーかい。楽なポジションどーもー。」
「任しとき!」
「ふふ、妾が誇る最強の秘術を見せてやろう。」
チャラ男の作戦、と言うか提案に近いそれに全員が従い、迅速に行動に移す。
関西人とチャラ男はそれぞれ得物を手に、臆することなく魔法で強化された速さで巨木に向かって真っ直ぐ二人並んで掛ける。
それを見て、巨木が両手を握って二人目掛けて真っ直ぐ降り下ろす。それに反射的に反応して二人は左右別々に跳び、巨木の懐へと潜っていく。二人同時の攻撃に案の定、混乱し、手を出しあぐねているようだった。無論、魔方陣を描く関西人妹と私には目をもくれない。
しかし、慣れられれば二人同時には対応されかねない。完全にこちらが優勢とはいかなかった。さらに、さっきから関西人とチャラ男が何度か攻撃を仕掛けているが、関西人の斧でさえ大したダメージには至っていない。魔力も相まってなのか、巨木の防御力は普通のものとは比べ物にならなかった。
「…。」
ちらりと関西人妹を見やる。完成度合いは4割と言ったとこだろう。発動しようとしている魔法はこの世界では上級以上に位置する難易度であるから、魔方陣の模様も複雑さも相当なものになる。つまり、魔方陣を完成させるには相応の時間がかかる。けれど、完成させればこっちのものだ。
関西人妹の魔法は、一発逆転にも、命綱にも等しいのだ。
「生川さん!何か来るで!!」
関西人の切羽詰まった言葉に我に返って、巨木を見ると明らかな異変。
巨木の青々しい葉が生い茂る上部が、紫色のオーラのようなものを纏っていた。次第にそれらは木から独立し、一枚一枚が宙に浮き、その数は40、いや50にものぼる。
瞬時で何が起きるか理解したチャラ男が叫んだ。
「葉っぱカッターだ!!!」
同時に、広範囲に、かつ無差別的に刃物のような鋭さを持つ葉の数々が速さと共に放たれた。おい、そのネーミングは突っ込むべきなのか。
関西人とチャラ男は各々の<特技>を駆使してかわすが、私は動けない。否、動かない。背後には、魔方陣を描く関西人妹。
咄嗟に腕で顔を防御する。直後、幾多の葉が私の全身に刺さり、もしくは皮膚を切り裂いた。
「う、ぐ、ッ…!!!」
鋭い痛みに対する叫びを堪えるように唇を噛んで呻いた。じわり、とワンピースの袖に血が滲む。あーあ、新品の服なのにもったいない…。
「生川殿!!」
「良いからアンタは魔方陣を完成させなさい!!」
腕に突き刺さった葉っぱを抜きつつ吐き捨てる。頬には生温い血の感触が伝わる。あれ?何で私だけボロボロなんだろうとか言う疑問は捨てて、鍬を手に巨木を見据える。次に何が来るかは分からない。
「何、魚佳たち、に、手ぇ出しとんのやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「バカやめろ、悠仁ッ!」
関西人の渾身の一撃が巨木に深く突き刺さり、巨木が苦悶に雄叫びをあげた。それが、不味かった。斧が、幹に深く刺さったまま抜けないのだ。
「しまッ…!」
その隙を逃さず、巨木の手が関西人を捕らえては高く掲げた。
不味い。何処か遠くに投げる気だ…!
「関西人!」
「悠仁!!」
「利人殿、生川殿、ゆくぞッ!!
『無慈悲の雷電に裂かれよ不浄。我は雷遣使。我求めしは轟撃なり。此の者達に裁きの双縋をーーー…』」
詠唱の直後、巨木の両腕の根元のちょうど真上に二つの黄色に光を放つ魔方陣が現れる。
「まさか…同時撃ち?!」
予想斜め上の魔法に私は声をあげた。
どうりで魔方陣を描くのに時間が掛かると思った…!
「<雷土>ぁぁぁぁぁぁ!!!」
関西人妹の詠唱の刹那、反射的に目と耳をふさいでしまうほどの轟音と閃光。落雷が、巨木の両肩を直撃した。
「よっしゃ、ナイス魚佳!」
巨木から、巨木の腕ごと分断されて自由になった関西人が、その腕を蹴って跳ぶ。
「いっ、くでぇぇぇぇぇぇ!!」
そしてそのまま落下する力を利用して、斧で巨木の片目を縦に切り付けて着地する。流石の巨木も粘膜(と呼んでいいのかわからないが)は弱いらしく、失った右目から緑色の粘液を垂れ流して(気持ち悪い)苦悶の絶叫をあげた。
「このまま畳み掛けるぞ!!」
チャラ男がそう叫んだ。
勢いは完全にこちらだ。あとは燃やすなりなんなりして相手を物言わぬただの木にすれば良いーーーと思った数秒前の自分を殴りたい。
「待ちーや!…何やアイツ。腕を再生しよるで!!」
関西人の言う通り、徐徐ではあるが、少しずつ肩から腕が伸び始めていた。今すぐなんとかしなければならない。これで完全回復されてしまえば、満身創痍のこちら側の勝率が大きく低下する。
「じこさいせい持ちって…。ホント、勘弁しろよ。」
「つーかアイツが何やってもポ○モンに例えられるところ、不思議だよな。」
私のぼやきにそう言って返すチャラ男とは、見た目がチャラくなければ多少は、クラスメイト以上友達未満程度にはなれたかもしれない。
みずてっぽうに葉っぱカッターにじこさいせい…ポ○モンならもう一つ技を持っていてもおかしくない。と言うか無いとおかしい。これだけ力を使っても全く力の消耗が見られないのは、あまりにも初心者キラーすぎる。ーーーふと、私の視線は下へと向いた。そして、気付く。気付いて、巨木の向かって右側に向かって全力で駆け出した。
「お、生川さん?!」
「アイツ…ねをはるまで使ってる!!」
「何やて?!ってまたそのネタかいな!」
おそらく、あの巨木は大きく6つの根を張って、地面から魔力やら水分やら養分やらを吸って戦っているのだ。ならば、地面から引っこ抜いてしまえば力も大幅に削られ、再生も難しくなるはず。
「関西人!アンタは根を切って!チャラ男は私と協力して根っこからこいつを引っこ抜く!関西人妹は魔法の準備!どれにするかは委せるけど危険を感じたらすぐにさがりなさい!!」
「了解や!」
「分かった。」
「まかせるのじゃ!!」
私の指示に全員が頷いて、動き出す。…変な感じだった。こうやって誰かとチームプレーをする。助け合う。それを私は嫌って生きていたはずだった。大衆を嫌い、集団を嫌い、いつも何処かで、必ず私は一人だった。そしてそれは、これからも続く。そう思っていたのに。
胸が、心が、うずく。踊る。
それに私は無性にイライラして、そのイライラをこの一撃にぶつけようと、鍬の柄を持つ力を強くし、叫んだ。
「<伸びろ>!!」
刹那、その言葉に呼応して鍬が橙色の魔方陣を浮かび上がらせ光輝き、刃と柄が二倍、いや三倍の長さにも、伸びる。それが、この魔具の身体強化以外に付与された魔法だった。実は受け取った時に柄に刻まれていた文字を、自分の拙い知識を総動員して翻訳しておいていたのだ。やっといて良かった。
「ぶっ刺さ、れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
魔法で強化された走る勢いをそのままに高く跳び上がり、根元向かって降り下ろす。何とか、根の下の部分に引っ掛かって小さく安堵する。見ると、関西人も私達と反対側の根を断ち終えたところだった。おそらくすぐに巨木の背後にある一本の太い根も切るだろう。残り、あと少しだ。
「せぇ、のぉッ!!」
掛け声と同時に、地を踏みしめ、腰を落として鍬を引っ張ると、みしりと鍬の持ち手と巨木の根、さらには私の両腕が悲鳴をあげた。双方にとって、ギリギリな戦いらしい。どちらがギブアップするのが先か。
「ぐッ…重い、なッ…!!!」
「当たり前なこと言ってないでッ…引っ張りなさいよ!!!」
私の意思に比例して鍬の緑色の光が輝きを増す。一瞬、魔具の魔法は魔具を持つ複数人全員に効果があるのかと不安になったが、どちらにしろチャラ男は<特技>で身体強化を持っているので結局のところ問題は無かった。
徐徐に、徐徐に、根ごと巨木が傾いていく。あと少し。あと少しだから。
「根性見せろやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ぐ、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ーーーーーバキィッ!
折れたのは、鍬の方だった。突然のそれに対応できず、チャラ男と一緒に後ろに倒れこむ。
しかし、大きく傾いた巨木は葉と地面を揺らして、轟音と共に倒れ伏した。と同時に、巨木の上空に3つの黄色の魔方陣が現れた。関西人妹の魔法だ。今度は3つ同時展開らしい。…まったく、無駄に器用な厨二病患者だ。
「これでッ、終わりじゃあ!!<雷土>ぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
先程よりも強さを増した轟音と閃光。
三つ同時の雷撃により、巨木は縦に真っ直ぐ完全に二分された。
そして、静寂。
「やった…のか?」
「フラグたてんなクソ野郎。」
「これぐらい言わせろよ…。」
やめろ。そういう時に限って敵がパワーアップして再起するから。
…恐る恐る関西人が斧で何度か木を小突く。反応は、ぴくりともない。
「…やった。やったんや!勝ったんやぁぁぁ!!!」
「やったのじゃあ!」
両拳を空に突き出して喜びを叫ぶ関西人兄妹とは正反対に、尻餅をついたままの私とチャラ男は体力と精神、両方の疲労で叫ぶようなやる気は起きなかった。
「生川さん、大丈夫か?っちゅーか、やったな!」
にかっと相変わらずバカっぽい笑みを浮かべて関西人は私に手を差しのべた。昨日も差し出されたその手と関西人の顔を交互に見て、私はーーー…
「無理。」
きっぱりと、言い放った。
「なっ…何やねん、こんなときまで意地張って!自分、何の特にもならへんよ!?」
「違うっつーの…。ああ、もう。チャラ男!説明して!!」
「それがだな…。さっきあんな巨大な木を持ち上げた反動で腕が動かないんだよ。正直俺でもけっこう辛い。」
そう。過量の負荷は、後に体へ筋肉痛に似た痛みで反動として現れるのだが、若さゆえか、すぐにそれは訪れていた。
「だから意地っ張りとかじゃなくて、手を取りたくても取れないんだよ。」
「誰もとりたいなんて言ってねぇよ。」
結局は関西人に肩を担いで貰って立ち上がると、ぱちぱちと拍手をしながら依頼人の…なんだっけ、マッシャーさん?
「マーシュですよ。」
「名前忘れてマジですみません。」
そうですよね、じゃがいもを潰すために小さな穴がたくさん空いた金属製のキッチン用具な訳ないですよね。
ってそれより、他にも謝らないといけかいことがあった。
「すみません。鍬…折ってしまいました。」
びきびきと痛む腕を無理矢理動かして、やや機械的なぎこちない動きで折れた鍬の柄を差し出すと、しかしマーシュさんは優しい笑顔のままそれを受け取った。
「大丈夫ですよ。どうやら折れた原因はこちら側にあるようですし。」
「?」
「ともかく、私の依頼を遂行してくれたようで、感謝申し上げます。」
ぺこりと恭しく頭をさげるマーシュさんにどう返せば良いか分からない私は、黙ってるしかない。
「お礼と言ってはなんですが…報酬とは別に、お昼でも食べていきませんかね。珍しい“黒の民”のお客さんですからね。私も是非言葉を交わしたいものです。」
そこで、私は、私たちの黒色の容姿を隠すことを忘れていたことに気付いた。先の戦闘で、とっくのとっくにフードはとれてしまっていた。
それも含め、関西人たちに確認して、有り難く休憩がてらご飯を頂くことにした。
作品を読んでくださってありがとうございます。あっついバトル回をお送りいたしました。
気付けば五日ごとに更新するようになってますね。
次回で王都に行こう編終わりで、すっかり空気のディートリヒさんが次々回に登場します。章の終わりと同時に(多分)キャラ紹介をのせます。
※そんなことありませんでした。ディートリヒさんの出番はまだ先です。あと題名もちょっとだけ変わりました。
次回、“黒の民”と“白の民”




